『これでよかったのですか?』
そんなことをアースの奴が言ってくる。これで……というのは世間の反応のことだろう。野々野足軽は自身で『力』というものを公表する気はなかった。公にしたら確実に面倒なことになると思ってたからだ。
でもだからと言って、野々野足軽にもそういう思いがなかったわけじゃない。なにしろ『力』があるとなればちやほやされるか、それか遠巻きにされるか、さらに言えば迫害が起きるか………とかかもしれなかった。
実際どっちに転ぶかなんて、野々野足軽にだってわからなかった。それに………どこぞの組織、秘密結社………そんなのに狙われたりするのも厄介だと思ってたから野々野足軽は『力』をひた隠しにしてきたんだ。
けどもちろん興味はあった。それこそ組織やら秘密結社やら………もしかしたらこの世界には『力』を持った存在は自分だけではないのかもしれない――そんな希望は野々野足軽には常にあったわけだ。
そもそもが今や人類は70億とかいうアホみたいな数字に達してる。その中のたった一人に選ばれたのが野々野足軽は『自分』だけ………なんて思うのはおごりなのでは? と思ってたんだ。
だから試してみたい気持ちはあったし、この『力』を共有できる誰かを野々野足軽は欲してもいた。
でもそれをできなかったのは先述したようなリスクの問題だ。自身が矢面に立つような人柄ではないと野々野足軽は理解してる。
それにその組織とか秘密結社がもしも存在してるとして、友好的になれるかなんてのはわからなかった。半々の確率で敵対する可能性だってある。
でも今の状況なら、もしもただ注目されるだけでも、どっかの組織やらと対立することになったとしても、その矢面に立つのは野々野足軽自身ではない。
(それならまあ……)
ということで草陰草案やらなんやらの動きを諦観してた。そして彼らは『力』の存在を世界へとばらした。センセーショナルな方法でだ。
けど野々野足軽的にもあのくらいしないと、色々と加工技術が上がってる現代では簡単には信じられなかっただろう。
実際今でも草陰草案をペテン師とののしる輩はいる。でもすでに圧倒的に是が多い。それは定期的に草陰草案達が生放送で『神秘』と呼ぶ力で『奇跡』を行ってるからだ。
それによって、草陰草案の『力』は証明された。だから世間は今や超超能力ブームになりつつある。家電量販店のテレビには常に彼女の動画が流れてるし、手品の本やら神秘的なスピリチュアル系の本がバカ売れ中だ。
草陰草案はテレビとかにも出て、いろんな大手の動画配信者とコラボしてる。そして草陰草案とかかわって人たちは誰一人として彼女を『偽物』とは言わない。
このテクノロジーにあふれた世界で、超常がもてはやされ人々は人間の持つ可能性に再び喚起してる。きっと誰もが思ってる――
『次はそう………自分かもしれない』
――と。野々野足軽は夜風を受けながら眼下の町を見下ろしてる。そしてアースの問いに答えた。
「いいんじゃないか? 楽しくなりそうじゃん」