「それじゃあ……」
「うん」
「あの、送ろうか? やっぱりまだ心配だし」
「ううん、大丈夫。早く小頭ちゃんを家で休めてあげて」
そんな風に育代は言う。足軽たちはあれからなんとか壊れた鳥居を超えた。二人は動けなかったから、二人をおぶって足軽が村の外に出たんだ。おぶったといっても、二人の腕を足軽の肩に回して、なんとか引きずる様にして連れて行った。
てか流石に二人を抱える程の腕力は足軽にはない。そこまで鍛える訳でもないし。力を使えば簡単に浮かして運ぶことができたが、それをしたら完全に足軽が超能力者とばれてしまうだろう。
実際さっきの一撃、森に展開してた黒い手を一気に屠ったあの瞬間にバレた可能性はある。でもそれは一瞬だった筈だ。なにせ足軽の力に対してあの黒い手は塵芥の様な存在だ。だからこそ、そんなに強い力を使う必要性なんてのはなかった。
ではなぜ、山を揺らすほどの力を使ってしまったのか……それは単純だった。とても単純で、そして明快な事だ。それは足軽の感情が漏れてしまったからだ。育代と小頭が黒い腕によって、心ここにあらずになってしまった。自分の失態だと思ったし、目の前で二人の体を蹂躙してるその手に怒りを足軽は覚えた。
だから……思わずにその力がもれた。実際――
『触れるな!!』
――という心で足軽はあの瞬間に力を使ってた。それはあの時、足軽の思ってた以上の力が発散されてた。それはきっと心に乗った感情がそうさせたんだろう。けどそのおかげか、それ以降は手が出てくることはなかった。
それからなんとか壊れた鳥居の傍にでて、二人が目覚めるのを待って、三人は帰路についた。待ち合わせた場所で育代と別れて足軽と小頭はおじいちゃん家に帰る。
その間、二人は無言だった。
「ただいま」
ガラガラとスライドする玄関ドアを開いて、か細い声でそういった足軽。小頭は何も言わずにさっさと玄関で靴を脱いで段差を上がり居間へと行く。そんな背中を見つつ、足軽は玄関の段差に腰を下ろした。そして一息つ。
「ふう~」
そんな風に大きい息を吐いてると、再び玄関が開いておばあちゃんが入ってきた。その手には籠に入った夏野菜があった。
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