エッセイと虚構と+α

日記やエッセイや小説などをたまに更新しています。随時リニューアルしています。拙文ですが暇つぶしになれば幸いです。

ボールペン

2013-04-14 12:02:00 | 日記
ボールペンは、Pilot社製の0.7mm水性とuniの0.7mm油性では、圧倒的に前者が滑らかに書ける。
水性と油性ではむかしぼくは後者の方が優れているとばかりに思っていた。
大学生であった頃からすべての筆記は油性のボールペンでしていた。授業のノートもしかりである。
しかし2013年を迎えると私は何故だか油性ボールペンの優位さを以前より感じなくなってしまった。そして水性のpilot社製のアクロボールという0.7mmのものを買いさらさらと書くことの良さに気づいた。
いつの頃からかコンビニで適当にボールペンを選び購入すると油性であるということが多くなった。たまに買ったものが水性のボールペンであったとわかるとそのまま机の引き出しにしまい込みまた使うことはなくインクが固まって捨てるという勿体無いことをしていたように思う。
でもどうしてそれ程に油性にこだわっていたのかというと、水性に比べると文字がしっかりとノートの紙に刻まれる感じがして安心したからだ。鉛筆やシャープペンシルで子供の頃から筆記してきたが、18歳くらいからぼくは消しゴムですぐに白紙にできてしまう事に一抹の不安を憶えはじめた。そしてシャーペンの芯がきれたことをきっかけとしてuniの油性ボールペンで授業のノートをとるようになった。
20歳のわたしは、文学部にせっかく入ったというものの文章を書くことができなかった。正確に言うなれば書くことがとても苦痛であり苦手だった。レポートを書くにもとても時間がかかり、何かテーマを決めて喫茶店などで原稿用紙を広げてみても僅かしか書けなかった。油性のボールペンを持っているだけで1時間は経過してしまい、用紙の隅っこに落書きをしただけで店を出るということが続いた。そんなことを繰り返している内に、ぼくは体重が増えて歳もとってしまっていた。いま何らかのテーマに沿い中くらいの長さの文章は書けるようになったことで、用紙の上を滑らかに動かすには油性より水性のボールペンのほうがいいとなってきたのかもしれない。
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灯台

2013-04-14 11:58:48 | 小説
海岸線を歩いていた。季節は夏であったが、涼しい風がなびいていた。白岩は思った。こんなにも晴れやかで青い海と空に囲まれた崖の上を草を踏みしめながら歩くのはなんだか残酷であると。なぜならば海ではしゃいだり遊ぶことこそ青春であるからだ。前方には木製の柵が延々と続く景色しか見えない。
夏をテーマとした写真を撮ってくることを義務付けられていた。海岸線を離れ内陸部に戻ると売店があり白岩と同じ写真部の生徒がたむろしていた。
「おい写真はもう撮ったのか?」と中川が尋ねてきたので、白岩は
「まだだ」と答えた。
「俺たちはもう50枚は撮ったぞはやくしないと夕方になってしまうぞ」と囃し立てる中川の肩を押して振り返ることなく白岩は撮るべき被写体を求め歩く。
後ろでは中川とその仲間が売店で買ったであろうグラビア雑誌を見ながらあれこれ話していた。そんな声も聞こえないくらい草を踏みしめながら進んでゆくと木柵の向こう側に大きな灯台が見えた。海を背にし灯台はすくっと立っていた。コンクリートで建造されたであろうそれは白いコーティングが施され新しくできたばかりのように見えた。木柵に近づき下から見上げてみると天を目指し伸びているようだった。
首から下げていた一眼レフを覗くと白岩はシャッターをきった。カシャンという音でネガフィルムにその風景は刻まれた。おそらく天頂までおさまったのかは分からなかった。風がさっきよりも強さを増した。夕方が近づいてきている。
木柵からまた内陸部に戻り、今度は背景に海が広がるような構図を狙って白岩はシャッターをきった。級友たちは随分とたくさん撮ったのだなと思い返す。灯台を背にし木柵に沿って行く。前から観光客風の女性2人が歩いて来るのが分かった。
「写真撮ってるの~?」とひとりの女が聞いてきた。白岩は黙って通り過ぎようと思ったが、もうひとりの女が
「ダメだよ、いきなり声なんてかけてごめんなさいね」と言って行ってしまいそうになったので、
「写真部なんで課題で夏の被写体を探しているんです。」と言った。
「へぇ~高校生かな?」とグレーのタンクトップのリップは赤いルージュで笑みを浮かべる女は聞いてきた。
「中学2年です」と白岩は答えた。
「見えない。もっと大人かと思ったわ」とタンクトップの女と花柄の半袖のワンピースに白い帽子の女は顔を見合わせて笑った。
白岩は久しぶりに女性と言葉を交わした。じっと黙って風を受けていると、花柄のワンピースの女が帽子が飛ばされそうになるのを押さえながら
「じゃああたし達を被写体にしてよ」と言うとタンクトップの女にいいよねと耳打ちし、頷き合うと木柵の前で並んで撮られるのを待っている。
白岩はシャッターを何回も切った。海岸線にカシャカシャカシャという音が響き、風のなびきで何処かへ飛んでいく。女達は白岩がシャッターを押すたびに表情を微笑から真剣な眼差しに変えていった。
ネガフィルムの36枚は取りきって巻き戻し音が鳴ると女達は、白岩に投げキッスをして、「じゃあね!」と告げると小走りにキャッキャと言いながら灯台の方へと去って行った。白岩は崖の上の大地に風を受け立ち尽くしていた。
見送ると、白岩はその場にあぐらをかいて座り込んだ。
夏の夕暮れが風にのって、土の上に尖って生えている草たちをなびかせていた。木柵越しの海に浮かぶ船は西へ向かい、ここより遠くの売店からはクラスメイト達の談笑が聞こえた。そして船が汽笛を鳴らすのを白岩は寂しい気持ちで聴いた。
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