2008年 フランス
パリ20区にある学校での日常を描いた作品。中学校のあるクラスで、国際色豊かな学生たちと彼らの担任であるフランソワの、毎日の「真っ向勝負」が描かれています。
フランス語(国語)教師のフランソワは、とにかく個性豊かな子どもたちといつも真摯に向き合ってきた。しかし、そこは思春期の子どもたち。どんなに真摯な姿勢を貫こうとしても、なかなか一筋縄ではいかないこともある。さらに生活環境や人種、国籍など様々な要因が入り組んでくるのが、パリ20区という地域の特徴。
この作品、「驚き」や「新しさ」、「斬新さ」を映画に求めている人は、物足りなさを感じるかもしれません。話の流れとしては、「中学での生徒と教師の日常風景」としか説明ができないほど、本当にそれだけ。しかしそのおかげで、概要を表面的になぞりインパクト勝負の作品では表現しきれない深さ、丁寧さが散りばめられています。
映画の中で描かれているエピソードは、基本的にはすごく些細なことで、大人である私たち(注:わたくし、35歳でございます)にしてみれば問題にすらなりようも無いほどのことだったりします。しかし、中学生達にはそうは行かないらしいのです。たいていは感覚の違い、知識の違い、言葉の認識の違い、年齢の違い、思春期ゆえの不安定さから発生するものなのだけど、生徒たちにしてみればきっとこれらの1つ1つが大事件なのでしょう。小さな勘違い、思い違いも、大人同士なら少し話をすれば解決できるものも、中学生相手ではそうはうまくいかない。間違いや勘違いを説明をしようとしても、理論より感情が勝ってしまう。感情的に本編からずれたところに論点を移動させてしまい、結局分かり合えない。例えば、フランソワが例え話のなかで使用したある言葉が、学生たちの反発を招いてしまい、焦点がそもそもの問題から、ある言葉を「言った・言わない」に完全にシフトされてしまったり。
この映画の何が面白いかって、とにかく学生と先生がリアルなんです。この映画のキャスティング担当者、本当にいい仕事してます!一体どこでこの子たちを探してきたの?と聞きたくなるほど。皆が皆、あまりにも上手く個性を表現していて、ドキュメンタリーを見ているような感覚になるのです。実際、出演している子どもたちは演技の経験が全くなく、これが第一作目とのこと。だからこそ「演技」と言うよりも素直な新鮮さが表現できたのかもしれません。
そしてフランソワ役のフランソワ・ベゴドーの熱くて、本当に子どもたちが大好きで、一生懸命、だけどだからこそ反発を招いてしまうという人間味あふれる演技も素晴らしい。このフランソワ役の俳優さんが、この映画の原作を執筆した本人でもあるとのこと。
このフランソワさん、若いなぁと思ったのですが、ウィキペディアを調べてみたら今年42歳(2013)とのこと。と言うことは撮影当時は30歳半ばかぁ。20代後半から30代前半くらいかと思ってました。もしくは、普段イギリス人に囲まれているから、私の年齢の感覚が麻痺していたのかも。うけけ。(注:イギリス人ってどういうわけか、他のヨーロッパ系に比べても年をとって見えるのです。)
中学生の頃の自分を思い返してみると、いつも自分は正しくて、世界のすべてを知った気分になっていたなぁ、と。映画の中の学生たちを見て、「ああ、こんなこの担任になったらきっついなぁ」と思いながらも、自分もこういう部分あったよなと。あの年頃独特の感受性の強さや怖いもの知らずな面、そして自分をコントロールできずに突っ走ってしまうところ。
難しい年頃の子供達の姿を描く映画やドラマってこれまでにもいくらでもあったと思いますが、この映画と他との違いは何か。私の語彙力では的確に表現出来ないのがどうにも悔しいのですが(そんなもの求められてもいないでしょうけど)、やはり「リアルさ」なんだと思います。無理やりドラマ仕立てにするのではなく、本当にそのままを伝えているような。もちろん映画だし原作があるのでドキュメンタリーで無いのは確かなのですが、ドキュメンタリーのような強さを感じます。そして役者、特に子どもたちと教師のたたずまいが、どうにも演技とは思えないのです。むしろ、「このドキュメンタリー、どういうふうに子どもたちにカメラを意識させないように撮ったんだろう?」と考えたほうがしっくり来るほど。
年齢的、ドラマの背景的に見ると、『金八先生』と同系列の作品だと思うのですが、ある意味正反対のベクトルを向いた作品であるように感じます。演技臭さが無いんです。誤解されないように説明を付け加えると、私は『金八先生』は大好きで、「演技合戦」的な暑苦しさ(少なくとも私が感じる)、その強さに引きこまれていくのが魅力だと思っています。逆にこの映画は、ある意味ドライすごくなんです。誰か特定の人物に感情移入するのではなく、第三者としてその光景を見ている。常に登場人物とは一定の距離が保たれているからこそ、どの役柄に対しても平等に冷静でいられる。でも、もしかしたらこの作品を見る年齢によっても感想は変わるのかもしれません。私がフランソワ世代だからこそ、自分たちが中学生として通ってきた道と、教師という仕事の大変さという視点から見ているのであって、仮に私がまだ10代、20代初めの学生なら、映画の中の中学生の怒りや勢い、不安を痛烈に感じるのかもしれません。
大作を好む方には退屈かも知れませんが、ヨーロッパ系のドラマが好きな人にはすごくオススメの作品です。地味で小粒ですが、バランスが良く、それでいて力強さのある作品です。
また、この作品は2008年度カンヌ映画祭のパルムドール(最優秀作品賞)受賞作品だそうです。彼らの演技を見ていたら、文句なし!です。
おすすめ度:☆☆☆☆★
パリ20区にある学校での日常を描いた作品。中学校のあるクラスで、国際色豊かな学生たちと彼らの担任であるフランソワの、毎日の「真っ向勝負」が描かれています。
フランス語(国語)教師のフランソワは、とにかく個性豊かな子どもたちといつも真摯に向き合ってきた。しかし、そこは思春期の子どもたち。どんなに真摯な姿勢を貫こうとしても、なかなか一筋縄ではいかないこともある。さらに生活環境や人種、国籍など様々な要因が入り組んでくるのが、パリ20区という地域の特徴。
この作品、「驚き」や「新しさ」、「斬新さ」を映画に求めている人は、物足りなさを感じるかもしれません。話の流れとしては、「中学での生徒と教師の日常風景」としか説明ができないほど、本当にそれだけ。しかしそのおかげで、概要を表面的になぞりインパクト勝負の作品では表現しきれない深さ、丁寧さが散りばめられています。
映画の中で描かれているエピソードは、基本的にはすごく些細なことで、大人である私たち(注:わたくし、35歳でございます)にしてみれば問題にすらなりようも無いほどのことだったりします。しかし、中学生達にはそうは行かないらしいのです。たいていは感覚の違い、知識の違い、言葉の認識の違い、年齢の違い、思春期ゆえの不安定さから発生するものなのだけど、生徒たちにしてみればきっとこれらの1つ1つが大事件なのでしょう。小さな勘違い、思い違いも、大人同士なら少し話をすれば解決できるものも、中学生相手ではそうはうまくいかない。間違いや勘違いを説明をしようとしても、理論より感情が勝ってしまう。感情的に本編からずれたところに論点を移動させてしまい、結局分かり合えない。例えば、フランソワが例え話のなかで使用したある言葉が、学生たちの反発を招いてしまい、焦点がそもそもの問題から、ある言葉を「言った・言わない」に完全にシフトされてしまったり。
この映画の何が面白いかって、とにかく学生と先生がリアルなんです。この映画のキャスティング担当者、本当にいい仕事してます!一体どこでこの子たちを探してきたの?と聞きたくなるほど。皆が皆、あまりにも上手く個性を表現していて、ドキュメンタリーを見ているような感覚になるのです。実際、出演している子どもたちは演技の経験が全くなく、これが第一作目とのこと。だからこそ「演技」と言うよりも素直な新鮮さが表現できたのかもしれません。
そしてフランソワ役のフランソワ・ベゴドーの熱くて、本当に子どもたちが大好きで、一生懸命、だけどだからこそ反発を招いてしまうという人間味あふれる演技も素晴らしい。このフランソワ役の俳優さんが、この映画の原作を執筆した本人でもあるとのこと。
このフランソワさん、若いなぁと思ったのですが、ウィキペディアを調べてみたら今年42歳(2013)とのこと。と言うことは撮影当時は30歳半ばかぁ。20代後半から30代前半くらいかと思ってました。もしくは、普段イギリス人に囲まれているから、私の年齢の感覚が麻痺していたのかも。うけけ。(注:イギリス人ってどういうわけか、他のヨーロッパ系に比べても年をとって見えるのです。)
中学生の頃の自分を思い返してみると、いつも自分は正しくて、世界のすべてを知った気分になっていたなぁ、と。映画の中の学生たちを見て、「ああ、こんなこの担任になったらきっついなぁ」と思いながらも、自分もこういう部分あったよなと。あの年頃独特の感受性の強さや怖いもの知らずな面、そして自分をコントロールできずに突っ走ってしまうところ。
難しい年頃の子供達の姿を描く映画やドラマってこれまでにもいくらでもあったと思いますが、この映画と他との違いは何か。私の語彙力では的確に表現出来ないのがどうにも悔しいのですが(そんなもの求められてもいないでしょうけど)、やはり「リアルさ」なんだと思います。無理やりドラマ仕立てにするのではなく、本当にそのままを伝えているような。もちろん映画だし原作があるのでドキュメンタリーで無いのは確かなのですが、ドキュメンタリーのような強さを感じます。そして役者、特に子どもたちと教師のたたずまいが、どうにも演技とは思えないのです。むしろ、「このドキュメンタリー、どういうふうに子どもたちにカメラを意識させないように撮ったんだろう?」と考えたほうがしっくり来るほど。
年齢的、ドラマの背景的に見ると、『金八先生』と同系列の作品だと思うのですが、ある意味正反対のベクトルを向いた作品であるように感じます。演技臭さが無いんです。誤解されないように説明を付け加えると、私は『金八先生』は大好きで、「演技合戦」的な暑苦しさ(少なくとも私が感じる)、その強さに引きこまれていくのが魅力だと思っています。逆にこの映画は、ある意味ドライすごくなんです。誰か特定の人物に感情移入するのではなく、第三者としてその光景を見ている。常に登場人物とは一定の距離が保たれているからこそ、どの役柄に対しても平等に冷静でいられる。でも、もしかしたらこの作品を見る年齢によっても感想は変わるのかもしれません。私がフランソワ世代だからこそ、自分たちが中学生として通ってきた道と、教師という仕事の大変さという視点から見ているのであって、仮に私がまだ10代、20代初めの学生なら、映画の中の中学生の怒りや勢い、不安を痛烈に感じるのかもしれません。
大作を好む方には退屈かも知れませんが、ヨーロッパ系のドラマが好きな人にはすごくオススメの作品です。地味で小粒ですが、バランスが良く、それでいて力強さのある作品です。
また、この作品は2008年度カンヌ映画祭のパルムドール(最優秀作品賞)受賞作品だそうです。彼らの演技を見ていたら、文句なし!です。
おすすめ度:☆☆☆☆★