絵じゃないかおじさん

言いたい放題、自由きまま、気楽など・・・
ピカ輪世代です。
(傘;傘;)←かさかさ、しわしわ、よれよれまーくです。

仮想はてな・ストーリィ キヨヒメの整形手術 6/6

2015-01-07 08:01:38 | 仮想はてな物語 

copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ



アンジンは熊野へと旅立つ。熊野権現で悟りが開けるかも知れないという淡い期待を胸に抱きながら出立する。しかし、数週間で悟りなど開けられるはずがない。悟りの境地に入った暁には、キヨヒメに正式に交際を申し込む気である。結果は空しかった。恋愛道は己に自信が無ければ走れるものではない。自信は最低限の装備である。女性に誇れるモノが心の内に無ければ進入さえも許されはしないのである。またアンジンは己に錯覚を抱けるような不誠実な男ではなかった。そこが、また彼の魅力でもあったのだが・・・



彼は時間が欲しかった。キヨヒメの時間が止まり自分だけの時間が流れてくれるように祈った。しかし、結果は虚しかった。



アンジンは、キヨヒメの顔を見るのが辛かった。物乞いをしながら、あちらのお寺こちらのお寺の施しに頼るその日暮らしの生活を送っている身の上だ。その上、寺小僧さえ乗り越えることが出来ない未熟な内容の知識しか持ちえていない修業僧だ。そんな男が女と恋愛し社会的に落ち着いた生活を送れるはずがないのだ。



彼はキヨヒメを避けた。彼女が一日千秋の思いで待っているにもかかわらずだ。彼女は、国道311号のはずれの一本杉の下で旅の僧を見かけては、心をときめかす毎日を送っていた。けれども、何日経っても彼は現われない。


思い余った彼女は、ある日、熊野権現帰りの僧から彼の消息を聞く。彼は回り道をして道成寺の方へ行ったという。例えようのないショックがキヨヒメを襲う。もう二度と会えないのかと思うと矢も楯もなく堪らなくなって彼の後を追った。この機会を逃しては自分の人生は終わりも同然という思いが押し寄せて来る。着物の裾を絡げ走りに走った。



上野でアンジンに追いついた。だが、アンジンは冷たくあしらうしかなかった彼にはどうしようも出来ないのだ。心を鬼にして突き放す。それしか彼の取るべき道は見当らない。キヨヒメは怒り狂う。走りすぎたので急に生理が始まった。生理の上に失望、もう頭の中はめちゃくちゃとなる。冷たくみえるアンジンの心に食い込む隙はない。どうしようもない絶望。



可愛い可憐な顔も鬼ババァの顔と化す。馬頭の観音はんのようにも見えたに違いない。これにはアンジンも参った。人生長いのである。山もあれば谷もある。よい天気ばかりが続くとは限らない。一緒になっても喧嘩もすれば言い争いもするであろう。



彼は、そんな十一面観音はんの顔のように変幻する女に恐怖を覚えた。先が思いやられそうだ。アンジンは男の足で逃げる。か弱そうに見えても山歩きで鍛えている身だ。すぐにキヨヒメを撒いてしまった。キヨヒメはうちひしがれる。



日頃信心している千手観音はんに必死に祈った。そこに、たまたま千手観音はんが通りかかった。道成寺の本堂が雨漏りの修理中だったので、ぶらぶらと出歩いていたのだ。これは運だ。


彼女は幸運に恵まれた。観音はんはキヨヒメから訳を聞いて考えた。観音はんはこの二人の関係をどうしてやったらよいものかと思案に暮れた。もう一度アンジンに会わせてやり、じっくりと話し合わせたい。しかしながら、二人の仲はこじれてしまっている。普通の話し合いではダメだろう。





そのとき観音はんの目に日高川に蛇が泳いでいるのが目に入った。観音はんはこれだと膝を叩く。そこらにあるものを何でもヒントにして実行に移すのだから、される方はたまったものではない。キヨヒメはあっという間に大蛇にされてしまった。



それもアンジンが一目見たら気絶しそうな鬼のような顔をした蛇である。身体は、これまた鯉のぼりのようなハデなカラーの鱗だらけ。あのキヨヒメを、そんな姿に変えてしまって己はそ知らぬ顔。思いつきでパッと変えてしまうものだから、それは見事な蛇になってしまった。



観音はんも我ながらおかしいと思ったのだろう。所々手直しを入れてゆく。下手クソの散髪屋のようだ。一人見入っては考え込んでスパッスパッと変化させる。キヨヒメは急いで出てきたものだから手鏡の持ち合わせもない。相手が観音はんだから、されるままになっている。怒り心頭に達するとは言え、大分泣いたので落ち着いて来ていた。


アンジンの冷たい仕打ちも早くも忘れかけて、あの深く澄んだ瞳が、ぼおーっと目の前にちらつき始めている。この年頃の女の気紛れなどまともに相手にしていたら、人間など1日もやってはいられない。適当に受け流すのがいいのだろう。観音はんがポンと手を打った。完成だ。キヨヒメに、これからの筋書きを話す。もちろん、これも思いつき。ホントにええ加減なんだから!


{待ってぇーっ、アンジンどのー}


日高川を蛇となって下る。キヨヒメは元々金槌だ。川などは洗濯で足首をつける以上のことはしたことない。それが、すいすいと泳げるものだから、すっかり有頂天になってしまった。新緑が川面を染めていて爽やかだった。水の冷たさが心地よい。スピードは50km前後。不思議と疲れない。それにしても、観音はんの改造力、大したものだ。キヨヒメは泳ぐ、泳ぐ。ストレスもすっかり取れてしまった。アンジンへの怒りも薄れる。



観音はんから、蛇姿に恐れをなしたアンジンは鐘の中に隠れるだろうと聞かされている鐘の中は、ある温度に達すれば観音はんの修業した世界、Gスペースへワープ出来るトンネルの入口になっているそうだ。そこに追い込む為に観音はんがキヨヒメを一目で身の毛もよだつような姿に変えたのだ。嘘も方便とはいえ、可愛い女の子をそんな姿に変えて観音はんもお人が悪い。


とは言っても、アンジンがその世界に修業に行けば、人間世界では一流の押しも押されもせぬ僧侶になれるということだそうだ。その温度に上げられるかどうかはキヨヒメのアンジンに対する想い一つに掛かっている。それに賭けてみるかと言われて、キヨヒメは二つ返事で引き受けた。


{アンジンさまー}
 鐘の中で法華経普門品の観世音経を唱えるアンジンを見つける。アンジンには、十一面観音はんが、テレパシー通信を使って、状況説明をしているようだった。キヨヒメは鐘を巻いた。丁寧に、ゆっくりと、ゆっくりと、愛をこめて。一巻き毎に渾身の力を込め、縛り上げるような感じで絞めあげてゆく。3巻きしたのか、7巻きしたのか、自分でもよく覚えていないそうだ。


{いとおしい人・・・・・どうか無事に旅だって・・・}


アンジンを己の力で引き上げる幸運に恵まれたのだ。力が入る。修業を終えて帰ってきた暁には、花嫁になれると信じているものだから、もう頑張りに頑張った。


ううーん。


別に、彼女は便秘ではないのだが、息んでいると、何と口から炎まで噴き出してきた。それも自分で驚くほどの赤白い炎だった。そういう状態が、30分ばかり続いたろうか。



{お止め! キヨちゃん、よくやった、よくやった! 成功、成功、大  成功!!}



観音はんの間の抜けた声が聞こえてきた。
ガクーッ。
私がこれほど力を注いでいるというのに、何とのんびりした観音はんだろうと、ムカッときたそうだ。けれども、結果良ければすべて良しだ。



 後始末は、観音はんが全てしてくれたそうだ。キヨヒメは、今は中くらいな蛇の姿をしている。アンジンが帰って来るまでヘンな虫がつかないように観音はんが工夫してくれたようだ。アンジンは、今だにGスペースで修業中だそうである。よほど出来が悪いのか、修業が足りないのか、よくはわからない。



何しろ、ブツブツ教の時間の観念は、のんびりとしているものだから、仕方ないと言えば仕方ないことなのだろう。こちらの時間で千年ぐらい経ったら、修業を終えて帰ってくるのだそうだが、これまた、そう当てにはならないそうだ。それでも、もう帰ってくる時期には入っているという。


ああ、キヨヒメが整形手術をする気になったのは、これだったのかと一人納得する。キヨヒメが鐘楼の傍に人を近づけない理由も解った。アンジンの修業の邪魔をさせないように考慮しているのだろう。その昔、オレのヘルメに脅しをかけたのも、そうだったのか!といっても、一代目の梵鐘は、キヨヒメが隠し、二代目のそれは京都の妙満寺に置いてあるそうなので、Gスペースへは入れないのだが、それでもやはり気になるのだろう。


一日も早くアンジンに会わせてやりたいものだ。アンジンが帰ってくると、キヨヒメは昔の純情可憐な乙女に戻りたいという。今のような気の強いグロテスクなお転婆蛇とは違う、それはそれは可愛い女の子だとも言っていた。本人が言うのだから少しは割り引いて聞かねばならないのだろうが、素顔の彼女にも会ってみたいものだ。


ああ、また楽しみが一つ増えた。


                               おわり



コメントを投稿