copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
平成はじめのころです。
* 尾鷲の不思議なトンネル (006)
166号から42号を通って、
紀伊半島一周、Nカット目に
出掛けた時のことだ。
私は紀伊半島一周を何回かに分けて挑戦中だった。
昼すぎに、S市の自宅を出た。
その日のうちに家に帰れればいいと思っていたので、
少し遅めに出たのだ。
次の日は日曜日なので深夜の帰宅になっても、
ゆっくり休む事が出来る。
それに、太平洋に沈む夕陽も見たかった。
紀伊長島あたりで夕陽を見て、
42号から169号を通って
帰るつもりだった。
季節は晩秋。
つるべ落としの秋の夕陽が、
太平洋に沈む様を追っかけながら走りたかった。
いつ見ても太平洋(熊野灘)はいい。
本当は台風の日に荒れ狂う太平洋を見ながら走りたいのだが、
到着するまでが大変だ。 途中、崖崩れや道路の陥没・閉鎖に
遭うのが落ちだし、危険この上ないからよしている。
少し早く着いたので紀伊長島で夕陽の入りを待った。
秋の日差しは少し頼りなげでもどかしい。
私は、もう真冬の用意をしていた。
革ジャン、革ズボン、マフラーにカイロ、ラップ、冬の必需品だ。
膚寒くて震えが来る。
橙色のまあるい太陽の下方が水平線にかかったとき出発した。
わずか数キロ走っていると太陽は見えなくなってしまった。
海は少しだけ赤みを帯びて、その名残を残していた。
目的は達した。
満足感が漂う。
あとは家に向かって一目散、帰るのみだ。
4時間ぐらいはかかるだろうか。
前方を走る車も右や左に散っていって少なくなってくる。
海には点々と漁り火が見えはじめた。
尾鷲の手前から42号は山の中に入ってしまう。
その火があまりにも幻想的だったので、左の路へ入った。
夜の海景色に見惚れてしばらく走った時にはもう遅かった。
曲がりくねった真っ暗なガケ道である。
道がよく見えない。
ヘッドライトは、曲がり道ではほとんど役に立たないからだ。
そのうえ、私は夜盲症気味でもある。
恐る恐る走った。
引き返せばいいのだが、路がある限り進んでゆくのが、
私の性分で もある。
トンネルに入った。
入った途端、路がグニャグニャしていて転倒寸前。
ヤバイと感じた。
20mほど走って止まった。
Uターンも思うようにならない。
バイクから降りて、手で押して引き返した。
そのトンネルを出て、もう一度見直してみた。
よくわからない。
Sサヤカのヘッドライトを当ててみる。
オオーッ!
何とクジラが、口を開けて転寝(うたたね)をしているではないか!
アゴを道路に置いて、気持良さそうに、寝息まで立てている。
そのうちヘツドライトに気がついたのか、
ヤツは少し反りかえってドドーンと
大きな波音をたてて、暗い海のなかに消えた。
水しぶきが、まともにかかった。
闇トンネルの ぬかるみ路に 恐れなし
引き返し見れば クジラの口中
ち ふ
この項おわり