花はなぜ美しいのでしょうか。それは花粉を運ぶポリネーターの視覚があったからこそです。植物は子孫を残すため、ポリネーターに美しく飾ってアピールするように進化してきました。その代表であるハナバチなど昆虫は、ヒトが認識できない紫外線も見ることができるといいます。そして植物側もその波長域を利用してアピールしていることが知られるようになりました。今回は紫外透過・可視吸収フィルター(U-360)を利用してゼラニウム、菜の花「オータムポエム」、ガイラルディアの花を観察したので報告したいと思います。
まずはゼラニウム(フウロソウ科テンジクアオイ属)です。普通に可視光で撮った写真が・・
テンジクアオイ属は花弁が5枚あり、そのうち上方にある2枚において模様や脈の深さなどが他の花弁と異なっています。写真の品種でも上方の2枚は付け根で色調が薄くなり、脈の溝がやや深くなっていました。別種によっては上の2枚に濃い色をした蜜標があるものもあります。
写真の花を紫外線透過可視光吸収フィルターを通してみると・・
この写真での撮影条件は(ISO1600 F2.2 1/8sec)でした。このように晴天時でも紫外線写真では大きく露出をかける必要があります。さらに紫外線では可視光の屈折率と異なるため可視光の時とは異なるピント調節が必要です。紫外線写真の場合、可視光で合わせた後にピントを近距離側にシフトします。カメラの性能や撮影条件によっては液晶の映像が暗くてピント調節は当てずっぽうになることもあります。
上の写真の場合補正しないと赤被りがひどく見にくいので画像処理ソフトで適当に修正したのが次の写真・・
花弁は基本的に紫外線を反射する性質がありますが、上方の2枚の花弁では付け根付近に紫外線を吸収している部位がありました。写真では赤褐色に写っている部分です。
撮影時に光線の方向や露出を変えてみると・・
同じ花でもかなり違って見えることがあります。紫外線領域での撮影では光線の方向や露出の程度など条件を色々変える必要がありそうです。
過去、別品種のゼラニウムで同様に観察した写真も載せておきます・・
可視光では5枚の花弁に違いなどは無いように見えましたが、紫外線領域では上2枚の花弁にはっきりとした模様がありました。
次にオータムポエム(アブラナ科アブラナ属)の花の観察・・
オータムポエムは、とう立ちした茎がアスパラガスのような風味があるのでアスパラ菜という名で流通しています。8月に播種すれば春を待たずに秋から咲き始めます。花の様子は他のアブラナ科の植物と同じです。今年は夏から秋の気温が高かった影響なのかは分かりませんが、これまでになく葉が大きくなりました。
花の観察・・
これを紫外線透過可視光吸収フィルターを通して見てみると・・
色補正はしてあります。4枚の花弁の基部に紫外線吸収帯がありました。可視光ではその吸収模様は判別できないことから、まさに人知れずハチに知らせているということのようです。
次に、キク科テンニンギク属のガイラルディアの花を観察します・・
この品種はグランフレイム・イエローです。可視光では、舌状花の花弁基部がオレンジ色に濃い色になっており、蜜標の役割をしているようにも見えます。紫外線領域ではどういう模様でしょうか・・
舌状花の花弁基部について、可視光で観察されたのと同様な模様は見られませんでした。花の中心である筒状花部分が濃く写っており紫外線反射が少ないことを示します。
【まとめ】
- ゼラニウムとオータムポエムでは、花弁の一部に紫外線吸収帯がありました。細胞中にある紫外線吸収物質が関与していそうです。
- ガイラルディアについては、紫外線吸収物質の有無については断言できません。筒状花部分で紫外線レベルが低いのは、吸収物質によるものか、乱反射させる複雑な構造によるものかがはっきりしないためです。
- 共通の特徴として、花弁で紫外線を反射させることで花の存在をアピールし、その中で虫に訪れてほしい部位では紫外線の反射を抑えています。紫外線吸収帯は蜜標と言ってよさそうです。
- ゆえに紫外線透過可視光吸収フィルターを用いれば、紫外線領域の蜜標も観察することができます。
【今後の予定】
- 以前行った実験と観察で、花弁の紫外線吸収は、表皮細胞に貯えられた紫外線吸収物質によって行われており、その物質は植物によって異なるがフラボン類に属するだろうことまで分かっています。
- 追試的な観察でアップデートはしておきたいと思います。
- キッチンラボでは物質的な研究を進めるのは困難でしょうね。
- いろいろな花で紫外線領域での蜜標を観察しておきたいと思います。
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