11月はヒヤシンスの水栽培を始めるのに適した時期です。使用する液体は水道水だけでなく、ちょっと変わったものを水に入れてみたらおもしろいかも・・ということで簡単な実験をしました。
水栽培用の球根を三個買ってきて11月3日に開始しました。一つは水道水、そして100倍希釈のメネデール、それから500mg/Lのアスピリンとしました。メネデールを採用したのは製品のホームページの6コマまんがに「ヒヤシンスの水耕栽培」として紹介があったから。メネデールを入れると違いが出るのか、はたまた そうでもないのか?そしてアスピリンはどこかのネット情報で切り花が長持ちすると書いてあったので、ヒヤシンスの水栽培でも何か違いが出るかもと思い実験に入れました。アスピリンの加水分解で生じるサリチル酸は植物ホルモンの一種なので何らかの影響が見られるかも。。という期待。
11月3日、水栽培開始時の写真・・
左が100倍希釈メネデール入り、真ん中が500mg/Lアスピリン、右がコントロールとして水道水です。既に発根しているように見えますが、これは元々球根に付いていた枯れた根です。きれいに取り除いてから始めれば良かったかな、と少し後悔。
そして1週間後の写真・・この期間、水は換えませんでした。
左が水道水、真ん中がメネデール入り、右が500mg/Lアスピリンです。
水道水とメネデール入りは根の伸長具合は同程度のようでした。アスピリンでは根がほとんど伸びていませんでした。水の濁りについては水道水とメネデール入りで見られ、特に水道水の濁りが顕著でした。アスピリンでは、下の方にふわふわとした綿のようなものが・・これは何でしょう?球根の古い根にも似た感じで水カビのようなものが付着していました。
アスピリンの球根の根はどうなっているのか?と思い、球根をひっくり返してみると・・
アスピリン球根のお尻部分の写真です。実は開始後1日目では全ての球根で同程度根が伸長していたのです。しかし、アスピリンはそれから先、一切伸ばさなくなりました。根が傷んでしまったのかというと、写真のようにそうでもなさそうです。水を感じて根を伸ばし始めてみたものの、「ん?なんか変、伸ばすのや〜〜めた」と言った感じ。球根の気持ちを代弁してみました。
水が濁る原因について。考えられるのは、
- 球根の一部が溶解した
- 根から何らかの物質が出されそれが濁って見える
- 水が腐っており細菌や微生物が生じている。
ということで顕微鏡で濁った水を観察してみました。すると・・
写真のナンバー1〜3が水道水に見られた微生物、4がメネデールでみられた微生物です。2と3は同じ種類でしょうね。微生物の名前はちょっと分かりません。テトラヒメナ?とか?どれもすごいスピードで泳いでいました。ゾウリムシと同じく繊毛で泳いでいる繊毛虫門の微生物でしょう。その他にも小さな丸い粒が少しずつ動いていたりしたので他の微生物も存在しているのだろうとは思います。細菌に関しては100倍で観察しているので判別つかなく分かりません。少なくとも写真で示した微生物の数は圧倒的に多いので、これらの繁殖が水を濁らせている主因だということは言えます。
これらの微生物がどこからやってきたか?水道水やプラスチック製品に卵が付着していたとは考えられないので球根の底の部分にいたんでしょうね。漂白剤添加の条件も作っておけばよかったかな。
植物ホルモンの一つであるサリチル酸について、ネット検索した内容を書き留めておきますね。
- 2008年の理化学研究所の報告「植物の耐病性の複雑な制御メカニズムを解明」
植物は様々なストレスにさらされており、病原菌の感染、乾燥などの環境変化、虫からの食害のストレスに対してはそれぞれサリチル酸、アブシジン酸、ジャスモン酸をシグナル伝達物質として生合成してこれらのストレスに耐えるためのタンパク質合成を始めるそうです。感染に備える防御機構の一つである全身獲得抵抗性は、サリチル酸の生合成により誘導されますが、これは、アブシジン酸が誘導する環境ストレス抵抗性を抑えてしまうということでした。逆に環境ストレスによってアブシジン酸が合成されている状況では全身獲得抵抗性が抑えられるそうです。虫食いによるジャスモン酸も含め三種のホルモンは植物が受けるストレスの種類と大きさなど、その時々の緊急性にあわせて どのストレス抵抗性を優先させるか制御しているということが分かったそうです。
・同時に種類の異なるストレスがかかると植物にとっては対処できずに危機ということ。だから菜園でも野菜の気持ちになって幾つものストレスを与えないように気をつけなきゃ、ですね。
- 2012年6月14日のNature
natureダイジェスト 「生死のスイッチ」
プログラム細胞死(PCD)は病気になった細胞を死滅させて感染を広がらないようにする意味があります。PCDが起きないようにするためにNPR1という核内移行タンパク質が関係しています。関連タンパク質のNPR3とNPR4は、NPR1とタンパク質分解装置のプロテアソームを結びつけるアダプタータンパク質で これにサリチル酸が結合することで活性化し複合体形成に関与するということ。そしてサリチル酸は(NPR1+NPR3)複合体を促進する一方、(NPR1+NPR4)複合体を阻害し、さらにサリチル酸との結合親和性がNPR3 < NPR4であることから、
サリチル酸が少ない時であればNPR4と結合することで(NPR1+NPR4)が阻害されるのでNPR1がプロテアソームに分解されず細胞死は起こりません。サリチル酸の濃度が高くなると今度はNPR3に結合して(NPR2+NPR3)が促されNPR1が分解されることで細胞死が起きるということを突き止めました。植物体内でのサリチル酸濃度は感染部位から遠ざかるにつれて低くなるので、感染部分で細胞死を起こすことで局所免疫とし、それ以外の細胞は生きて全身性の免疫により抵抗性を上げているとのこと。
・ サリチル酸の濃度により細胞の生死が決まる。そうであれば、今回の実験でもアスピリンの濃度の違いが植物の反応を変化させる重要なファクターのようにも思えてきました。
結論:水は頻繁に換えたほうが良さそうです。水栽培用の充実した球根を用いればメネデールを用いなくても根の伸長は十分です。500mg/Lのアスピリンが培養液でも発根はしましたがその後の根の伸長が停止しました。
今後の予定:
アスピリンは伸長が休止しているので水道水に変えて様子を見てみることにします。メネデールはそのまま水を変えるたびに添加しておきます。そして開花まで水道水と違いが出ないか観察しようと思います。
個体差の影響を除くためにはひとつの条件に対してできるだけ多くの球根で観察する必要があります。薬品の適切な濃度を決めることに対しても複数の条件で調べるべきだとは思うのですが私にはそんな財力はなく無理というものです。さらに、部屋の中にヒヤシンスが何鉢もあると芳香を通り越して臭くなるだろうなと予想。三個でもちょっと心配になっています。
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