2025年3月11日にメネデール処理の球根が咲き始めましたので「ヒヤシンスの花と牽引根」に続いてレポートします。
前回と同じ順番に並んでいます。すなわち、使用した水は左からコントロールとして水道水、次がメネデール100倍希釈液、右がアスピリン処理後に水道水に換えたものです。
最初に咲いたアスピリン球根では花茎が折れたので花瓶入りです。コントロール球根、メネデール球根も花茎が徒長しており壁に寄りかけての撮影となりました。
咲いた順を記すと・・
2月15日〜アスピリン処理 3月2日〜コントロール 3月11日〜メネデール処理
となり、一番コストをかけたメネデール処理が最後に咲き始めました。コントロール球根とメネデール球根は一時は成長度合いが似ていましたが、結果的に開花時期は9日間も開きました。
とても良い香りがしています。換気をよくしているせいか香りがキツすぎることもありませんでした。
次に花を詳しく見ていきたいと思います。
ヒヤシンスはキジカクシ科(ユリ科と分類されることもあります)ヒヤシンス属です。
上の写真のように、多くの花は花被片が6枚(6裂)で雄しべも6本でした。しかし・・
たまに、花被片が7〜8枚のことがあり、その場合は、雄しべの数は花被片の数と同じでした。
少し変わった花も見られました・・
花被片が6枚の花の中央に小さな花びらのようなものが紛れ込んでいるようです。これは一体なに?この花を解剖してみると・・
通常の大きさの花被片が6枚で雄しべが7本ありました。その内の1本は例の小さな花被片にくっついていました。そこだけ拡大してみると・・
小さな花被片に葯がくっついている状態です。花糸に該当するところも花被化していました。このように植物が発現にミスしてしまうことはヒヤシンス以外でもたまに見ることがあります。というのも、花の形成において、構造を決定する遺伝子モデル「ABCモデル」に従っているためです。花びらと雄しべは遺伝子発現の一部が共通のためスリップしやすいんですね。ABCモデルについては以下(*)に解説。
アスピリン処理の花序についた48個の花でそれらのバリエーションをカウントしてみました。
花被片6枚・雄しべ6本:35(73%)
花被片6枚・雄しべ7本:2
花被片7枚・雄しべ7本:3
花被片8枚・雄しべ8本:2
花被片6枚・雄しべ6本・小さな花被片と雄しべが一体化1本:5
花被片7枚・雄しべ7本・小さな花被片と雄しべが一体化1本:1
* ABCモデルについて
花を観察すると、外側から、がく片(外花被片)~花弁(内花被片)~雄しべ~心皮(雌しべ)の順序で構成されていることがわかります。その位置(順番)を決める遺伝子がホメオティック遺伝子と呼ばれ、それぞれの位置に適した器官を分化発生させるのに大切な役割を担っています。花を決定する遺伝子(SEP遺伝子)に加えて、A遺伝子が単独で発現しているところではがく片が形成され、A遺伝子+B遺伝子が発現していると花弁が、B遺伝子+C遺伝子が発現すると雄しべが、C遺伝子単独では心皮が形成されます。
AとCは互いにその分化にたいする活性を抑制する働きがあることもわかりました。まとめると、がく片(SEP遺伝子+A遺伝子) 花弁(SEP+A+B) 雄しべ(SEP+B+C) 心皮(SEP+C) というように比較的単純に制御されていました。さらにABC全てが発現しない変異体を作ったところ、がく片~心皮の花の器官全てが葉の集まりとなりました。花は進化の過程で葉が変化してできたものであることが理解できます。
【まとめ】
- ヒヤシンスは良い香りがします
- メネデール処理球根の開花が水道水で育てたコントロールよりも遅かったため、早く咲かせるという観点ではメネデール処理のコストをかける意味はないと言えます
- ヒヤシンスの花の7割強は花被片が6枚(6裂)、雄しべが6本です
- 花被片の数には6〜8枚のバリエーションがあり、基本的に花被片の数と同数の雄しべがありました
- 小さな花被片1枚と雄しべが1本が一体化して分離不十分になっている花が見られました(1割強)
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