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一柳 慧の音楽 ~コンポージアム2016~

2016年05月28日 | pocknのコンサート感想録2016
5月25日(水)秋山和慶 指揮 東京都交響楽団
~コンポージアム2016より~
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

【曲目】
1.一柳 慧/ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム(2001)
2. 一柳 慧/ピアノ協奏曲第6番(2016)[世界初演]
Pf:一柳 慧
3. 一柳 慧/交響曲「ベルリン連詩」(1988)
S:天羽明惠/Bar:松平 敬

たった一人の作曲家が全ての応募作を審査して武満作曲賞を決めるという作曲コンクール。東京オペラシティが、途中休止期間もあったが、創立以来継続して行っているユニークなこのコンクールは、世界でも広く認知され、評価されてきた。世界で活躍する著名な作曲家達が内外から審査員として選ばれてきたが、今年は一柳慧が審査役を務める。今までコンポージアムに登場していなかったのが不思議なほどの作曲界の重鎮だ。

そのコンクール・イベントの一環として行われる演奏会のうち、一柳のオーケストラ作品のコンサートを聴いた。初演当時はかなり話題を呼んだ代表作「ベルリン連詩」、それに新作初演のピアノ協奏曲が聴けるのも魅力だ。

プログラム最初に置かれた「ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム」は室内オーケストラのための小規模な作品で、ソロ楽器が活躍する。即興的で自由な部分を多く持ちながらも、全体はうまくまとまっていて統一感があった。

次の、作曲者自らがソリストを勤めた新作のコンチェルトが、今夜の演奏会で最も強く印象に残った。曲はいきなりピアノの内部奏法から開始する。細いスティックでピアノの弦を擦った響きは、一柳の颯爽とした立ち姿の印象と合わさって、他を寄せ付けない厳しさを醸し出す。この後も度々内部奏法を駆使して提示されるピアノは、拒絶や怒り、狂気といった、ただならぬ深刻な空気に支配されている。

これに対してオーケストラは多くの部分が抒情的で、ロマンチックなものを感じることがあり、ピアノとオーケストラはそれぞれ別の次元に存在するように対峙する。終盤近くでタムタムも加わったオケが、会場に大音響を轟かせたあと、堰を切ったように激情を爆発させて暴走するピアノの長いカデンツァ ?のただならぬテンションの高さ、情け容赦なく叩きつけてくる不協和音の一つ一つの鋭さに息を呑んだ。痩身の老匠のピアニストから、これほど強烈なエネルギーと研ぎ澄まされたパトスが発せられ続けることも驚きだが、そもそも音楽そのものの持つ底力に身震いすら覚えた。

終盤、ピッコロによる哀愁漂う切々とした歌をバックに、響きを押し殺したピアノが、ポタリポタリと真っ黒なシミをキャンバスに落として「汚して」いくような行為も胸に突き刺さる。全曲を緊迫感が貫き、隙がなく鮮烈なイメージを与える素晴らしい初演。こんな風にリアルな世界初演の場に居合わせている幸せを実感するのは久しぶり。80歳を過ぎて益々アグレッシブな作風へ向かう一柳の、常に前進する気概と迫力には敬意の念を覚えた。

「ベルリン連詩」は過去に何度か聴いたはずだが、記憶に明確なイメージとして残ってはいなかったため、今夜は気持ちも新たに作品と演奏に向き合った。これも非常に厳しさに貫かれた音楽で、秋山和慶指揮都響の演奏は、研ぎ澄まされた音と引き締まった表情で、持続するパワーを連綿と受け継ぎ、別次元へと導いて行った。

天羽明惠と松平敬のソロは、張りと艶のある声で4人の詩人の詩を歌い継ぎ、オケのシンフォニックに渦巻く響きの中で一条の光のような存在感を示していた。日本語もドイツ語も言葉がよく伝わって来なかったのは、詩そのものがとっつきにくいせいもあるかも知れないが、言葉と音楽が一体となって発せられる強いメッセージを感じ取りたいという気持ちにかられてしまった。

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