10月30日(木)下野竜也 指揮 NHK交響楽団
《2014年10月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. ショパン/ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
【アンコール】
ショパン/ワルツ嬰ハ短調Op.64-2
Pf:ヤン・リシエツキ
2.ドヴォルザーク/交響曲 第6番 ニ長調 Op.60
10月のN響定期ではBプロのみ下野竜也が指揮を取ったが、前半はひたすらピアノが主役のショパンのコンチェルト。けれど、下野/N響の前奏が素晴らしい。熱気みなぎり、しなやかで華麗。第2主題の弦楽合奏のとろけるような肌触りと歌にはとりわけホレボレした。そこへ入ったリシエツキのピアノがこれまた絶品。このピアニストは名前を聞くのも初めて。N響に客演する知らない外来ソリストに対しては、ちょっと斜に構えて聴いてしまうところのある僕だが、このピアノは文句なしにいい。
パリッとした明るい音が高らかに鳴り響き、鮮やかに弾き進んで行った。例えるなら、変化に富んだ地形の渓谷を流れ下る清流だ。浅瀬を勢いよく流れ、岩にぶつかって砕け散った水しぶきが陽光に照らされてキラキラと輝き、淵へさしかかるとエメラルドグリーンの深みへ潜り込み、エネルギーを蓄えて一気に滝となって落ちる… そんな様々な表情を颯爽と、歌心たっぷりに生き生きと聴かせてくれ、ショパンの魅力が全開した。微妙に移ろうテンポ感がまたいいが、下野さんは背中に目があるかのように、リシエツキの呼吸にピッタリと棒を合わせ、オケはそのニュアンスを見事に再現。コンマス(マロさん)とのコミュニケーションもうまく行っているのだろう。
第2楽章の柔らかで繊細な表情も良かったが、第1楽章の勢いを期待した第3楽章がどういうわけか能動性が後退して大人しい演奏になってしまい、初っぱなの感動が少々遠のいてしまったのは残念だった。第1楽章があまりに非の打ちどころがなかったせいで、その後がちょっと色褪せて見えてしまったのだろうか。アンコールのワルツは途中までしか弾いてくれなかったが(それともこういう版?)、身体の中に持っている何とも言えない味わいのあるリズム感や歌心が感じられ、リシエツキのショパンをもっと聴いてみたくなった。
後半のドボルザークの6番と言えば、2012年にNHKホールで聴いたエリシュカ指揮N響の名演が忘れられない。ショパンでは極上のエスコートをした下野がこの曲をどう料理するか興味が湧いた。
聴こえてきたのは、隙がないほど曲を深く読み込み、細部まで神経を行き届かせて緻密に全体を作り上げて行く演奏で、音はよく鳴るし、テンションの高さも十分。指揮は実に明快で、全てを語っているように見えるのだが、聴いているとフレーズ毎に「はい、ここはこうで、次はこうなって、それからこうなります」という具合に一つ一つ言葉で丁寧に説明しているような律儀さが勝ってしまっているようにも聴こえる。もっとオケを自由に泳がせてもいいのに、と感じてしまった。
そんな生真面目ともいえる姿勢は、滑らかに、或いはしみじみと歌ってほしい第1や第2楽章ではキチキチの印象を持ってしまったが、キッチリとリズムを刻み、或いはストレッタでたたみかける第3や第4楽章では効を奏したようで、会場はかなり盛り上がった。確かに上手いが、個人的にはもう少し面白味が欲しいな、と感じた。
《2014年10月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. ショパン/ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
【アンコール】
ショパン/ワルツ嬰ハ短調Op.64-2
Pf:ヤン・リシエツキ
2.ドヴォルザーク/交響曲 第6番 ニ長調 Op.60
10月のN響定期ではBプロのみ下野竜也が指揮を取ったが、前半はひたすらピアノが主役のショパンのコンチェルト。けれど、下野/N響の前奏が素晴らしい。熱気みなぎり、しなやかで華麗。第2主題の弦楽合奏のとろけるような肌触りと歌にはとりわけホレボレした。そこへ入ったリシエツキのピアノがこれまた絶品。このピアニストは名前を聞くのも初めて。N響に客演する知らない外来ソリストに対しては、ちょっと斜に構えて聴いてしまうところのある僕だが、このピアノは文句なしにいい。
パリッとした明るい音が高らかに鳴り響き、鮮やかに弾き進んで行った。例えるなら、変化に富んだ地形の渓谷を流れ下る清流だ。浅瀬を勢いよく流れ、岩にぶつかって砕け散った水しぶきが陽光に照らされてキラキラと輝き、淵へさしかかるとエメラルドグリーンの深みへ潜り込み、エネルギーを蓄えて一気に滝となって落ちる… そんな様々な表情を颯爽と、歌心たっぷりに生き生きと聴かせてくれ、ショパンの魅力が全開した。微妙に移ろうテンポ感がまたいいが、下野さんは背中に目があるかのように、リシエツキの呼吸にピッタリと棒を合わせ、オケはそのニュアンスを見事に再現。コンマス(マロさん)とのコミュニケーションもうまく行っているのだろう。
第2楽章の柔らかで繊細な表情も良かったが、第1楽章の勢いを期待した第3楽章がどういうわけか能動性が後退して大人しい演奏になってしまい、初っぱなの感動が少々遠のいてしまったのは残念だった。第1楽章があまりに非の打ちどころがなかったせいで、その後がちょっと色褪せて見えてしまったのだろうか。アンコールのワルツは途中までしか弾いてくれなかったが(それともこういう版?)、身体の中に持っている何とも言えない味わいのあるリズム感や歌心が感じられ、リシエツキのショパンをもっと聴いてみたくなった。
後半のドボルザークの6番と言えば、2012年にNHKホールで聴いたエリシュカ指揮N響の名演が忘れられない。ショパンでは極上のエスコートをした下野がこの曲をどう料理するか興味が湧いた。
聴こえてきたのは、隙がないほど曲を深く読み込み、細部まで神経を行き届かせて緻密に全体を作り上げて行く演奏で、音はよく鳴るし、テンションの高さも十分。指揮は実に明快で、全てを語っているように見えるのだが、聴いているとフレーズ毎に「はい、ここはこうで、次はこうなって、それからこうなります」という具合に一つ一つ言葉で丁寧に説明しているような律儀さが勝ってしまっているようにも聴こえる。もっとオケを自由に泳がせてもいいのに、と感じてしまった。
そんな生真面目ともいえる姿勢は、滑らかに、或いはしみじみと歌ってほしい第1や第2楽章ではキチキチの印象を持ってしまったが、キッチリとリズムを刻み、或いはストレッタでたたみかける第3や第4楽章では効を奏したようで、会場はかなり盛り上がった。確かに上手いが、個人的にはもう少し面白味が欲しいな、と感じた。