1月20日(木)イオン・マリン指揮 NHK交響楽団
《2011年1月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. ブラームス/ドヴォルザーク編/ハンガリー舞曲~第17,18,19,20,21番
2.ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲Op.56a
3.ブラームス/シェーンベルク編/ピアノ四重奏曲第1番ト短調Op.25
ブラームスプロとは言っても、いかにも「Bプロらしい」1回券が売れなさそうな地味な曲目が並んだ。イオン・マリンはしかし、この地味な曲から色彩感溢れ、表情豊かな音を引き出した。
ハンガリー舞曲からはとても丁寧な、しかも瑞々しい音が聴こえた。音の筆致がたいへん整っていて、音が生まれて、消えてゆく姿が美しい。N響の洗練された響きが映え、民族的な臭いは皆無と言っていいほどスマートでしゃれたハンガリー舞曲。
続くハイドンヴァリエーション、テーマの管楽器のアンサンブルがなんて音楽的で歌に溢れていたことか。プレイヤー一人一人の音を出すことへの細やかな配慮が行き届き、そこに歌心が加わって、それが唱和して生み出される至福の響き。弦も入って繰り広げられるヴァリエーション、それに続く華やかな終曲まで、この「歌」と「響き」が幸福感を与え続けてくれた。
「ピアノ四重奏曲」も同様のスタンスで進んで行った。イオン・マリンの棒から繰り出される音は、毛先の整った筆を、溶かした水彩絵の具にたっぷりと浸して、スマートに筆を入れ、しなやかに筆を走らせ、丁寧に筆を上げる一連の動作から生まれる、色鮮やかで美しい描線を音で聴いている感じ。しっとりと深く、しかも濁りのない透明な響きで歌い上げた第3楽章と、意気高く、明瞭に、鮮やかな衣装をまとったダンサーの舞いを見るような第4楽章が特に良かった。終盤のマリンは、プロのダンサーの踊りを見ているようなセクシーささえ漂う指揮姿で、見ている分には演奏ととてもマッチしていると感じた。
こんな具合で演奏に関しては申し分ないのだが、この「ピアノ四重奏曲」は、やっぱりオリジナルのほうが遥かに魅力がある。気の利いたサムホールぐらいの大きさの、洒落た水彩画をもとに200号の油絵の大作を制作したようなオケ版は、良いところももちろんあるのだが、どこかに不自然さを感じてしまう。オーケストレーションに長けたシェーンベルクの手によるのだから、編曲者として不足はないはずだが・・・
音楽には、例えばムソルグスキーの「展覧会の絵」のように、名匠の手にかかれば見事なオーケストラ曲に変身できてしまう音楽、バッハのように、楽器や編成を選ばず、別のジャンルのアプローチだって受け入れてしまう音楽もある一方で、ブラームスのこの曲は、どうもそういう音楽とは別物ではないか、と改めて今夜思ってしまった。
《2011年1月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. ブラームス/ドヴォルザーク編/ハンガリー舞曲~第17,18,19,20,21番
2.ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲Op.56a

3.ブラームス/シェーンベルク編/ピアノ四重奏曲第1番ト短調Op.25
ブラームスプロとは言っても、いかにも「Bプロらしい」1回券が売れなさそうな地味な曲目が並んだ。イオン・マリンはしかし、この地味な曲から色彩感溢れ、表情豊かな音を引き出した。
ハンガリー舞曲からはとても丁寧な、しかも瑞々しい音が聴こえた。音の筆致がたいへん整っていて、音が生まれて、消えてゆく姿が美しい。N響の洗練された響きが映え、民族的な臭いは皆無と言っていいほどスマートでしゃれたハンガリー舞曲。
続くハイドンヴァリエーション、テーマの管楽器のアンサンブルがなんて音楽的で歌に溢れていたことか。プレイヤー一人一人の音を出すことへの細やかな配慮が行き届き、そこに歌心が加わって、それが唱和して生み出される至福の響き。弦も入って繰り広げられるヴァリエーション、それに続く華やかな終曲まで、この「歌」と「響き」が幸福感を与え続けてくれた。
「ピアノ四重奏曲」も同様のスタンスで進んで行った。イオン・マリンの棒から繰り出される音は、毛先の整った筆を、溶かした水彩絵の具にたっぷりと浸して、スマートに筆を入れ、しなやかに筆を走らせ、丁寧に筆を上げる一連の動作から生まれる、色鮮やかで美しい描線を音で聴いている感じ。しっとりと深く、しかも濁りのない透明な響きで歌い上げた第3楽章と、意気高く、明瞭に、鮮やかな衣装をまとったダンサーの舞いを見るような第4楽章が特に良かった。終盤のマリンは、プロのダンサーの踊りを見ているようなセクシーささえ漂う指揮姿で、見ている分には演奏ととてもマッチしていると感じた。
こんな具合で演奏に関しては申し分ないのだが、この「ピアノ四重奏曲」は、やっぱりオリジナルのほうが遥かに魅力がある。気の利いたサムホールぐらいの大きさの、洒落た水彩画をもとに200号の油絵の大作を制作したようなオケ版は、良いところももちろんあるのだが、どこかに不自然さを感じてしまう。オーケストレーションに長けたシェーンベルクの手によるのだから、編曲者として不足はないはずだが・・・
音楽には、例えばムソルグスキーの「展覧会の絵」のように、名匠の手にかかれば見事なオーケストラ曲に変身できてしまう音楽、バッハのように、楽器や編成を選ばず、別のジャンルのアプローチだって受け入れてしまう音楽もある一方で、ブラームスのこの曲は、どうもそういう音楽とは別物ではないか、と改めて今夜思ってしまった。