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F.アゴスティーニ vs 岡田龍之介 デュオリサイタル バロック名曲選

2019年09月01日 | pocknのコンサート感想録2019
8月28日(水)フェデリコ・アゴスティーニ(Vn) /岡田龍之介(Cem)
ルーテル市ヶ谷センター

【曲目】
1.ヴィヴァルディ/ヴァイオリン・ソナタ イ長調 Op.2-2 RV31
2.プラッティ/チェンバロ・ソナタ 第3番 ヘ長調 Op.1-3
3.バッハ/ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ ロ短調 BWV1014
4.コレッリ/ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調 Op.5-10
5.バッハ/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調 BWV1004
【アンコール】
1. ロバート・カー/イタリア風のグラウンドによるディヴィジョン
2. ヴェラチーニ/ヴァイオリン・ソナタ第6番 イ短調~終楽章

イ・ムジチのコンサートマスターを長年務めたヴァイオリニストのアゴスティーニは、チェンバリストの岡田龍之介と30回以上に渡って共演を重ねてきたという。その2人によるデュオリサイタルが、響きが良くアットホームなルーテル市ヶ谷で行われた。

アゴスティーニのヴァイオリンを聴いた記憶はないが、イ・ムジチの元コンマスなら、ヴァイオリン国イタリアを思わせる美しい音で自由に伸び伸びとした歌が聴けそうだ。でも、バッハはどうなるだろうか、コンマス時代の腕は衰えていないだろうか、など心配要素も混じっていた。しかし最初のヴィヴァルディの第一声を聴いた途端、心配は一掃された。この音色をどのように言い表せば良いのだろうか。磨き抜かれた光沢と熱を持つ魅惑の音だ。アゴスティーニの体から熱の赤い波紋が広がるのが見えるよう。暖炉で薪が静かに燃え、熱が部屋全体に広がっていくような存在感。

音楽へのアプローチは驚くほど正統派。余計な細工やパフォーマンスは一切行わず、音楽に真っ直ぐに向き合う。イタリア人の演奏するヴィヴァルディのイメージとは一線を画したむしろドイツ的な、腰の座った安定した演奏。 もう一人のイタリアの作曲家コレッリのソナタも同様で、華やさや明るさを前面に出すより、暖かな香りを包み込むような雅で厳かささえ感じるヴァイオリンだ。

こうしたアプローチはバッハでも変わることはなく、バッハで抱いていた心配も一掃された。岡田のやはり安定した優美さを漂わせるチェンバロに乗って、豊かな音量と濃密で磨き抜かれた音色で、熱いハートを伴って綴っていった。2人のプレイヤーは誠実さ、安定感、格調の高さなど共通するものが多く、デュオとしてのしっくり感が高い。共演を重ねている理由もそこにありそうだ。岡田がソロで演奏したプラッティの珍しい作品も、実直さのなかに変化に富んだ遊び心を捉えていて楽しく聴けた。

コンサートの極めつけは最後の無伴奏。開演前の主催者のMCによれば、別の無伴奏作品をリクエストしたところ、本人の強い希望でこの曲になったという。僕は「超名曲の功罪」について考えることがある。それは、「シャコンヌ」を持つこの音楽があまりに偉大なせいで、バッハの他の無伴奏作品が全曲演奏以外ではあまり演奏されず、多くのヴァイオリニストが自分のリサイタルの勝負曲にこれを持ってきて、聴くほうはいつもこれを「聴かされる」ことになるということ。でも今夜の演奏を聴いて、アゴスティーニでこの曲を聴けて本当に良かったと思った。

アゴスティーニは、それまで同様に落ち着いた態度で安定した演奏に徹することを基本にしながらも、能動的に前へ進む「攻め」の演奏を展開した。それは深みに沈みこむのではなく、聴く者に力を与えてくれるエネルギーに溢れている。演奏からは苦しみや奮闘ではなく、自信や希望が伝わってきた。この曲は苦悩や葛藤で聴いていて辛くなることも少なくないが、こんな希望に溢れたシャコンヌって聴いたことないかも。早いパッセージで続くアルペッジョの滑らかな運弓から生まれる美しく柔らかなハーモニーも暖かな光を放っていた。演奏が進むほどにどんどん引き込まれ、至福の時間を味わった。他の5つの作品もみんな聴きたくなった。再びデュオで演奏してくれた2つのアンコール曲が、演奏会全体の充実度を更に高めてくれた。
♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「積もった雪」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
「子守歌」~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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