8月29日(木)ベンジャミン:オペラ「リトゥン・オン・スキン」
サントリーホール サマーフェスティバル 2019
~サントリー芸術財団50周年記念~
【演目】
ジョージ・ベンジャミン/オペラ「リトゥン・オン・スキン」(2009~12)[日本初演]セミ・ステージ形式 台本:マーティン・クリンプ
サントリーホール
【配役】
プロテクター:アンドルー・シュレーダー(Bar)/妻・アニエス:スザンヌ・エルマーク(S)/第1の天使、少年:藤木大地(カウンターT)/第2の天使、マリア:小林由佳(MS)/第3の天使、ヨハネ:村上公太(T)
天使:遠藤康行、高瀬譜希子(ダンス)
【舞台総合美術】針生 康
【演奏】
大野和士 指揮 東京都交響楽団
現代を代表する作曲家の一人、イギリスのジョージ・ベンジャミンのオペラ「リトゥン・オン・スキン」は、2012年の初演以来高い評価を得て世界で再演が繰り返されているという。サントリーホール・サマーフェスティバルのプロデューサーを務める大野和士が、このオペラを是非日本に紹介したいという熱い思いで実現することになったということで、是非自分の耳と目で同時代のオペラの日本初演に立ち会いたくて出かけた。サントリーホールのオペラ公演でS席が6000円という低価格も魅力。
このオペラは中世のフランスを時代背景としながら、現代にまで時空を超えて繰り広げられる愛憎まみえた生々しい三角関係を台本にしている。ウェブサイトで作曲者や大野のメッセージを読み、エロスやグロテスクが錯綜した刺激的な上演を期待した。
ホールには林や雲?をイメージする舞台装置が施され、ステージ後方上部にも舞台が設けられていた。ベンジャミンの音楽はいわゆる「現代音楽」の部類に入るが、型破りではない正統的な音楽。ダイナミックレンジは広く、時に不協和音が炸裂して感情を大きく揺さぶることもあるが、基本は静かな持続音が鳴り続けている印象。大野は音楽を緻密に読み解き、透明で繊細な音像を鮮やかに有機的に響かせた。都響のアンサンブルの精度、ソロセクションの技量も素晴らしい。
主要な歌手陣も大いに健闘し、優れた歌唱を聴かせた。繊細さと強さを兼ね備え、透明感のある美声を聴かせたアニエス役のエルマーク、太く頼もしい声で安定した歌唱を聴かせたプロテクター役のシュレーダー、天から降り注ぐような柔らかさと妖しさで天使と少年の2役をこなした藤木。小林と村上もしっかりと役をこなし、存在感を示していた。
このように大変優れた演奏で実現した話題のオペラ上演だったが、全体としてもう一つインパクトに欠けた。その理由は2つ。1つは、ベンジャミンの音楽が期待したほど刺激的だったり、斬新だったりする要素が感じられなかったこと。緻密なテクスチャーからは人間の様々な感情が伝わってきて、ベンジャミンの職人的な優れた描写力は感じたが、聴き手を縛り付けるほどの決め手がない。
もう一つは演出の問題。ホールオペラという空間的な制約はあるにせよ、もう少し舞台装置が有効に活用されてもいいし、一番気になったのはオペラが伝えるべきエロスとか、残酷さとか、猟奇性といった異常で究極のメッセージが、演出によって反って弱められてしまっていると感じたこと。上演で最も目立つのが大スクリーンに投影される映像だが、映し出される人物は常にアイマスクを付けている。匿名性や象徴性を表すことはできても、強いメッセージを伝える「目力」が遮断されることで焦点が薄れてしまう。裸や性描写もとても上品で、音楽や言葉の濃厚なインパクトを弱めてしまう。男女2人のダンサーはキビキビと見事なデュエットを演じたが、これもとても健康的。もっと退廃的なものをリアルに表現して欲しかった。ヨーロッパではどんな上演が行われているのだろうか。物議を醸すほどリアルで刺激的なのでは?など、ステージを観ていて不完全燃焼感が続いた。
「『ヴォツェック』以降の最良のオペラと評価されている」というプログラムノートから抱いた期待が大きすぎたようだ。同じ大野/都響で2月に観た現代オペラ「紫苑物語」で受けた感銘には遠く及ばなかった。
♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「積もった雪」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
「子守歌」~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
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サントリーホール サマーフェスティバル 2019
~サントリー芸術財団50周年記念~
【演目】
ジョージ・ベンジャミン/オペラ「リトゥン・オン・スキン」(2009~12)[日本初演]セミ・ステージ形式 台本:マーティン・クリンプ
サントリーホール
【配役】
プロテクター:アンドルー・シュレーダー(Bar)/妻・アニエス:スザンヌ・エルマーク(S)/第1の天使、少年:藤木大地(カウンターT)/第2の天使、マリア:小林由佳(MS)/第3の天使、ヨハネ:村上公太(T)
天使:遠藤康行、高瀬譜希子(ダンス)
【舞台総合美術】針生 康
【演奏】
大野和士 指揮 東京都交響楽団
現代を代表する作曲家の一人、イギリスのジョージ・ベンジャミンのオペラ「リトゥン・オン・スキン」は、2012年の初演以来高い評価を得て世界で再演が繰り返されているという。サントリーホール・サマーフェスティバルのプロデューサーを務める大野和士が、このオペラを是非日本に紹介したいという熱い思いで実現することになったということで、是非自分の耳と目で同時代のオペラの日本初演に立ち会いたくて出かけた。サントリーホールのオペラ公演でS席が6000円という低価格も魅力。
このオペラは中世のフランスを時代背景としながら、現代にまで時空を超えて繰り広げられる愛憎まみえた生々しい三角関係を台本にしている。ウェブサイトで作曲者や大野のメッセージを読み、エロスやグロテスクが錯綜した刺激的な上演を期待した。
ホールには林や雲?をイメージする舞台装置が施され、ステージ後方上部にも舞台が設けられていた。ベンジャミンの音楽はいわゆる「現代音楽」の部類に入るが、型破りではない正統的な音楽。ダイナミックレンジは広く、時に不協和音が炸裂して感情を大きく揺さぶることもあるが、基本は静かな持続音が鳴り続けている印象。大野は音楽を緻密に読み解き、透明で繊細な音像を鮮やかに有機的に響かせた。都響のアンサンブルの精度、ソロセクションの技量も素晴らしい。
主要な歌手陣も大いに健闘し、優れた歌唱を聴かせた。繊細さと強さを兼ね備え、透明感のある美声を聴かせたアニエス役のエルマーク、太く頼もしい声で安定した歌唱を聴かせたプロテクター役のシュレーダー、天から降り注ぐような柔らかさと妖しさで天使と少年の2役をこなした藤木。小林と村上もしっかりと役をこなし、存在感を示していた。
このように大変優れた演奏で実現した話題のオペラ上演だったが、全体としてもう一つインパクトに欠けた。その理由は2つ。1つは、ベンジャミンの音楽が期待したほど刺激的だったり、斬新だったりする要素が感じられなかったこと。緻密なテクスチャーからは人間の様々な感情が伝わってきて、ベンジャミンの職人的な優れた描写力は感じたが、聴き手を縛り付けるほどの決め手がない。
もう一つは演出の問題。ホールオペラという空間的な制約はあるにせよ、もう少し舞台装置が有効に活用されてもいいし、一番気になったのはオペラが伝えるべきエロスとか、残酷さとか、猟奇性といった異常で究極のメッセージが、演出によって反って弱められてしまっていると感じたこと。上演で最も目立つのが大スクリーンに投影される映像だが、映し出される人物は常にアイマスクを付けている。匿名性や象徴性を表すことはできても、強いメッセージを伝える「目力」が遮断されることで焦点が薄れてしまう。裸や性描写もとても上品で、音楽や言葉の濃厚なインパクトを弱めてしまう。男女2人のダンサーはキビキビと見事なデュエットを演じたが、これもとても健康的。もっと退廃的なものをリアルに表現して欲しかった。ヨーロッパではどんな上演が行われているのだろうか。物議を醸すほどリアルで刺激的なのでは?など、ステージを観ていて不完全燃焼感が続いた。
「『ヴォツェック』以降の最良のオペラと評価されている」というプログラムノートから抱いた期待が大きすぎたようだ。同じ大野/都響で2月に観た現代オペラ「紫苑物語」で受けた感銘には遠く及ばなかった。
♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「積もった雪」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
「子守歌」~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
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