11月29日(金)小菅 優(Pf)
~Four Elements Vol.3 Wind~
東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル
【曲目】
♪ ダカン/「かっこう」、「荒れ狂う風」~クラヴサン曲集第1巻より~
♪ クープラン/クラヴサン曲集第3巻第17組曲ホ短調「小さな風車」
♪ ラモー/「鳥のさえずり」~クラヴサン曲集と運指法第1番(第2組曲)より~
♪ 西村朗/迦陵頻伽(カラヴィンカ)
♪ ベートーヴェン/ピアノソナタ第17番ニ短調Op.31-2「テンペスト」
♪ ♪ ♪ ♪ フローラン・シュミット/薄暮 Op.56~「シルフィード」
♪ ドビュッシー/「帆」、「野を渡る風」、「夕べの大気に漂う音と香り」、「西風の見たもの」、「沈める寺」、「霧」
~前奏曲集 第1巻、第2巻より~
♪ ヤナーチェク/霧の中で
【アンコール】
♪ ショパン/エチュード変イ長調Op.25-1「エオリアンハープ」
♪ グラズノフ/組曲「ゴイェスカス」~「嘆き、またはマハと夜鳴きうぐいす」
この世を構成する「四元素」をテーマにした小菅優のリサイタルシリーズ3回目のテーマは「風」。バロックから現代まで、世の東西の「風」にちなんだ曲の単なる寄せ集めではなく、選ばれるべくして選ばれた作品が並び、リサイタル全体に大きな「風」が吹き抜けた。
小菅は徹底して細部まで楽曲を読み解き、デリケートで研ぎ澄まされた感性と卓越したテクニックで作品の持つ真の魅力を開花させる。そこにはムードに流された感傷は一切入る余地がない。ピアノの音は一音たりとも無駄がなく、僅かな隙や甘えもなく音を繋げ、組み上げ、全体を俯瞰しながらすべてを冷静にコントロールしている。小菅はピアノという楽器を介して作品から魂を呼び覚まし、作品からのメッセージを仲介しているよう。音そのものが痛みや苦しみを伝え、孤独を訴え、あるいは喜びや憧れや情熱を表現する。
ダカン、クープラン、ラモーと並べたフランスバロックからは、優美なだけではない、デリケートなガラス細工が風に吹かれて鳴るような優しく哀しい音を聴かせ、西村作品からはリアルな原色の羽で飾られた鳥が飛び回る不思議な情景が浮かんた。ピアノに仕掛けが施されたプリペアドピアノのような音が聴こえてきた。前半の白眉は「テンペスト」。これはリアルな「嵐(テンペスト)」の描写ではなく、ベートーヴェンの心の奥底にある「嵐」を表現したよう。それは、飽くことなく前向きに、厳しく芸術を追求したベートーヴェンの気高さや崇高さに満ちていた。
後半の最初に置かれた「シルフィード」は、この後のドビュッシーへの布石のように秋風を送った。小菅はドビュッシーの前奏曲集から風にちなんだ曲を中心に6曲選んだが、これ「シルフィード」を加えた7曲による「曲集」を編纂したようにも聴こえた。「シルフィード」で舞い上がった「風の精」が、ドビュッシーの1曲1曲で様々な表情で舞った。表現方法で際立っていたのが弱音のコントロール。弱音の扱いは強い音よりもはるかに難しい。小菅が奏でる弱音は、音から音への移り変わりや、ハーモニーの構成音のバランスが究極と云えるレベルで完璧にコントロールされ、それが微妙なテクスチャの変化を生み出す。一つ一つの曲が孤高のポートレートとして浮かび上がり、そこに風が吹いていった。「沈める寺」ではその風が止み、「霧」ではまた新たな命を得た風が吹き去った。
最後のヤナーチェクは恐らく初めて聴く作品。深刻なメッセージが閉じ込められた曲で、心が縛りつけられたように夢中で聴き入った。人生に吹きつける風、それに立ち向かう姿が、精緻な筆致と心からの共感で厳しくかつデリケートに描かれて行った。
今回もホール(タケミツメモリアル)は1階と2階センター席のみを使用。地味なプログラムでの集客見込みを考えてのことだろう。クラシックのアーティストでも、純粋に音楽的な魅力だけでなく、それ以外の部分も注目されることでメディアに多く登場し、その結果多くの聴衆を獲得し、そこまではいいとして、スポンサーがチケット代を吊り上げる状況には疑問を感じる。一方、小菅のような本物の稀有のアーティストの演奏を全席5000円で聴けるのは嬉しい。小菅優はホンモノを届けてくれるアーティストだ。
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.2 Fire ~2018.9.21 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
♪ブログ管理人の作曲♪
金子みすゞ作詞「積もった雪」
MS:小泉詠子/Pf:田中梢
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
「子守歌」~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
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~Four Elements Vol.3 Wind~
東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル
【曲目】
♪ ダカン/「かっこう」、「荒れ狂う風」~クラヴサン曲集第1巻より~
♪ クープラン/クラヴサン曲集第3巻第17組曲ホ短調「小さな風車」
♪ ラモー/「鳥のさえずり」~クラヴサン曲集と運指法第1番(第2組曲)より~
♪ 西村朗/迦陵頻伽(カラヴィンカ)
♪ ベートーヴェン/ピアノソナタ第17番ニ短調Op.31-2「テンペスト」
♪ ドビュッシー/「帆」、「野を渡る風」、「夕べの大気に漂う音と香り」、「西風の見たもの」、「沈める寺」、「霧」
~前奏曲集 第1巻、第2巻より~
♪ ヤナーチェク/霧の中で
【アンコール】
♪ ショパン/エチュード変イ長調Op.25-1「エオリアンハープ」
♪ グラズノフ/組曲「ゴイェスカス」~「嘆き、またはマハと夜鳴きうぐいす」
この世を構成する「四元素」をテーマにした小菅優のリサイタルシリーズ3回目のテーマは「風」。バロックから現代まで、世の東西の「風」にちなんだ曲の単なる寄せ集めではなく、選ばれるべくして選ばれた作品が並び、リサイタル全体に大きな「風」が吹き抜けた。
小菅は徹底して細部まで楽曲を読み解き、デリケートで研ぎ澄まされた感性と卓越したテクニックで作品の持つ真の魅力を開花させる。そこにはムードに流された感傷は一切入る余地がない。ピアノの音は一音たりとも無駄がなく、僅かな隙や甘えもなく音を繋げ、組み上げ、全体を俯瞰しながらすべてを冷静にコントロールしている。小菅はピアノという楽器を介して作品から魂を呼び覚まし、作品からのメッセージを仲介しているよう。音そのものが痛みや苦しみを伝え、孤独を訴え、あるいは喜びや憧れや情熱を表現する。
ダカン、クープラン、ラモーと並べたフランスバロックからは、優美なだけではない、デリケートなガラス細工が風に吹かれて鳴るような優しく哀しい音を聴かせ、西村作品からはリアルな原色の羽で飾られた鳥が飛び回る不思議な情景が浮かんた。ピアノに仕掛けが施されたプリペアドピアノのような音が聴こえてきた。前半の白眉は「テンペスト」。これはリアルな「嵐(テンペスト)」の描写ではなく、ベートーヴェンの心の奥底にある「嵐」を表現したよう。それは、飽くことなく前向きに、厳しく芸術を追求したベートーヴェンの気高さや崇高さに満ちていた。
後半の最初に置かれた「シルフィード」は、この後のドビュッシーへの布石のように秋風を送った。小菅はドビュッシーの前奏曲集から風にちなんだ曲を中心に6曲選んだが、これ「シルフィード」を加えた7曲による「曲集」を編纂したようにも聴こえた。「シルフィード」で舞い上がった「風の精」が、ドビュッシーの1曲1曲で様々な表情で舞った。表現方法で際立っていたのが弱音のコントロール。弱音の扱いは強い音よりもはるかに難しい。小菅が奏でる弱音は、音から音への移り変わりや、ハーモニーの構成音のバランスが究極と云えるレベルで完璧にコントロールされ、それが微妙なテクスチャの変化を生み出す。一つ一つの曲が孤高のポートレートとして浮かび上がり、そこに風が吹いていった。「沈める寺」ではその風が止み、「霧」ではまた新たな命を得た風が吹き去った。
最後のヤナーチェクは恐らく初めて聴く作品。深刻なメッセージが閉じ込められた曲で、心が縛りつけられたように夢中で聴き入った。人生に吹きつける風、それに立ち向かう姿が、精緻な筆致と心からの共感で厳しくかつデリケートに描かれて行った。
今回もホール(タケミツメモリアル)は1階と2階センター席のみを使用。地味なプログラムでの集客見込みを考えてのことだろう。クラシックのアーティストでも、純粋に音楽的な魅力だけでなく、それ以外の部分も注目されることでメディアに多く登場し、その結果多くの聴衆を獲得し、そこまではいいとして、スポンサーがチケット代を吊り上げる状況には疑問を感じる。一方、小菅のような本物の稀有のアーティストの演奏を全席5000円で聴けるのは嬉しい。小菅優はホンモノを届けてくれるアーティストだ。
小菅 優 ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.2 Fire ~2018.9.21 東京オペラシティコンサートホールタケミツメモリアル~
♪ブログ管理人の作曲♪
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MS:小泉詠子/Pf:田中梢
金子みすゞ作詞「私と小鳥と鈴と」
S:薗田真木子/Pf:梅田朋子
「子守歌」~チェロとピアノのための~
Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
合唱曲「野ばら」
中村雅夫指揮 ベーレンコール
金子みすゞ作詞「さびしいとき」
金子みすゞ作詞「鯨法会」
以上2曲 MS:小泉詠子/Pf:田中梢
「森の詩」~ヴォカリーズ、チェロ、ピアノのためのトリオ~
MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美
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