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2015年4月B定期(ミヒャエル・ザンデルリンク 指揮)

2015年04月22日 | N響公演の感想(~2016)
4月22日(木)ミヒャエル・ザンデルリンク指揮 NHK交響楽団
《2015年4月Bプロ》 サントリーホール


【曲目】
1. シューマン/ピアノ協奏曲 イ短調Op.54
 【アンコール】
 メンデルスゾーン/リスト編/歌の翼に
Pf:ベルトラン・シャマユ
2.ブルックナー/交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」

2ヶ月振りのN響定期。指揮台に立ったのは往年の東独の名匠、クルト・ザンデルリンクを父に持ち、現在ドレスデン・フィルの首席指揮者を務めるミヒャエル・ザンデルリンクで、N響には初登場。

前半はシューマンのピアノ協奏曲。ここでソロを務めるベルトラン・シャマユを聴くのも初めて。冒頭の決然としたモチーフの部分を聴いただけで、颯爽として逞しく、密度の濃いシューマンになることが感じ取れた。果たしてその印象が全曲を通して貫かれた男性的な演奏となった。シャマユのピアノは骨太でダイナミック。揺れ動くシューマンの音楽のなかでもしっかりと存在感が保つ。これは、絵の具が水に注がれても溶けることなく、その色と形を主張し続けて水の中で揺れ動いている姿を思わせる。時おり主旋律以外の動きが唐突と思えるほど立ち現れるのだが、これが多層的な響きを生み、ハッとするアクセントの効果にもなっていた。細やかで柔らかな表情も丁寧に表現して、コントラストを引き立てた。

ザンデルリンク指揮N響も、このピアノに相応しいキビキビとして勢いのある演奏を聴かせ、全体として「硬派」のシューマンという印象を与えた。とても充実した聞き応えはあったが、色気や香り、シューマンがクララへの想いを一心に傾けたロマンチックな切なさみたいなものからは縁遠く、シューマンの魅力には乏しいように思った。アンコールで弾いたリスト編曲版の「歌の翼に」は、リストが意図した多層的な響きを見事に体現する演奏だった。

後半のブルックナーでもザンデルリンク/N響は集中力と瞬発力のある、パワフルで濃密な演奏を聴かせた。どんな場面でも焦点が一点に絞られ、ここぞという聴かせどころでは、オーケストラは迷うことなく堰を切ったようにその一点にエネルギーを注ぎ込む。パワーに溢れ、ディテールが見渡せる鮮やかな演奏を聴かせる一方で、第2楽章などでのしっとりしたビオラやチェロの「歌」も美しかった。ただ、それらが楽章のなかの一つの聴かせどころとしては訴えてきても、聴かせどころ同志が有機的に繋がりあっているのが伝わってこない。当然、シンフォニーとしてのブルックナーならではの壮大さを感じることはなく、感動するまでには至らなかった。

感動に至らなかったもう一つの理由に「版」の問題がある。僕にとっての「ロマンティック」はベーム/ウィーンフィルの名盤や、アバドがルツェルンフェスティバルオーケストラとの来日公演で忘れえぬ名演を聴かせてくれたときの「ノヴァーク版」だ。今回は「ハース版」に指揮者が他の版も取り入れた独自のエディションを使ったということだが、思いもよらない音型が登場したり、ティンパニがいつまでもトレモロを続けたり、オーケストレーションが異なったり… 要するに自分の中の「ロマンティック」とは相容れないものを度々聴かされるのは嬉しくない。ブルックナーのシンフォニーでは、チケットを買う前にエディションを確認する必要があることを改めて感じた。原典版ときたら全くの「別物」だし…

ところで、今日のコンマス席には新顔の伊藤亮太郎さんが座った。長年N響の顔として活躍された堀さんが、定年で退団したことも最近まで知らず、ステージ上で「これが見納め」と感慨を持って堀さんを見送る機会も逸した。定期演奏会で配られる「フィルハーモニー」誌上でも報じられていないと思って、今日もらった4月号をよくよく見たら、最後の方にごく控えめに二人のことと、更に小さくヴァイオリンの永峰さんの退団について載っていた。

長年N響に貢献してきたコンマスが辞めるという大きなニュースなら、「フィルハーモニー」でインタビューも交えた見開き程度の記事で伝えてもいいのではないだろうか。ちょっと素っ気なさすぎる。また、新顔としてコンマス席に座る伊藤さんの横顔など、もう少し詳しく紹介することで、聴衆の新顔への眼差しも違ってくるはず。永峰さんのことだって、本人のコメントなんかを交えてもう少し「顔が見える」ニュースにならないものだろうか。「フィルハーモニー」にそうしたアットホームな記事が見当たらないのはどうしてだろうか。N響の会員にだって、そんなアットホームな記事を求める人間もいることを忘れないでもらいたい。

堀さん、永峰さん、長いあいだお疲れさまでした。たくさんの素晴らしい演奏をありがとうございました。伊藤さん、期待してますよ!

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