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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ヒラリー・ハーン ヴァイオリンリサイタル

2006年06月07日 | pocknのコンサート感想録2006
6月7日(水)ヒラリー・ハーン(Vn)/イム・ヒョスン(Pf)  
トッパンホール

【曲目】
1. イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト短調Op.27-1
2. エネスク/ヴァイオリン・ソナタ第3番イ短調「ルーマニアの民俗風で」Op.25
3. ミルシテイン/パガニーニアーナ
4. モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第25番ト長調K.301
5. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ 第3番変ホ長調Op.12-3
【アンコール】
1. アルベニス/タンゴ
2. プロコフィエフ/3つのオレンジの恋~行進曲


去年のリサイタルで出会って惚れこんでしまったヒラリー・ハーンの待ちに待った1年振りのリサイタル。素晴らしかった!

イザイの冒頭で響き渡った和弦の存在感と深遠なほどの深い色合いが、たちどころに聴く者の心を捉える。そして始まった迫真の演奏。無駄な力が一切入っていないためだろう、控えめな弓の動きから出てくる演奏はしなやかでダイナミックで若々しい。くっきりとした息の長いラインは自然な推進力を持ち、重音やフラジオレットの本当に豊かな響きが表情にふくらみを与える。快い緊迫感に貫かれた鮮やかなイザイだった。

イム・ヒョスンのピアノが加わった続くエネスクのソナタは、ヴァイオリンとピアノそれぞれの描画が競い合い、彫りの深い、陰影に富んだ演奏を展開した。ミルシテインの「パガニーニアーナ」ではハーンの品のあるシルクの音色とヴィルトゥオーゾを堪能、モーツァルトではハーンの美しく伸びやかな歌と、ヒョスンの端正でつややかで喜びに溢れたピアノとの対話が心をウキウキとさせてくれた。

そして今夜ひときわ輝いたのがベートーヴェン! 最初のワンフレーズを聴いた途端に、去年のバッハの無伴奏を聴いた時の感動が甦った。気品と自信に溢れた、温かく豊かな響きが心にぴたりとはりつく。これでもう完全に心は演奏の虜だ。ハーンとヒョスンの対話は、それぞれが勢いに流されることなく細部まで明晰に描き、ベートーヴェンの音楽の構造の持つ美しさを格調高く活き活きと浮かび上がらせる。力強い名馬にまたがり、優雅に軽やかに歩を進めるような素晴らしいリズム感とテンポがたまらない。伴奏形に回ったときのアルペジオなどの表情づけも心憎い。夢のような時間はどんどん過ぎてしまい、終わってしまうのが本当に惜しまれるほどの極上の時を堪能した。

来日ヴァイオリニストのリサイタルだと大抵「クロイツェル」ということになってしまうが、ハーンが敢えて若いベートーヴェンの瑞々しいソナタを持ってきて、その魅力を出し尽くしてくれたことで、聴く方も発見と新たな感激の連続だった。

アンコールの2曲も含め、ハーンはその曲の持つ様式を的確に捉え、音楽の持つ本来の魅力を無理なく出し尽くす。ヒョスンのピアノも、非常に説得力を持ってハーンと同じ方向を向いてそれぞれの曲の魅力を語っているのを聴けたのも嬉しい。このデュオはこれからもますます目が離せない。

終演後、去年N響定期でコンチェルトに出演したときもらえるはずのサインを、別の場所に突っ立ってたせいでもらい損ねた無念さを晴らすこともできた。サインをもらうなんて滅多にしない僕だが、ヒラリーは別だ。
「インタヴューにドイツ語で応じた」という記事をどこかで読んでいたので、Heute haben Sie mich zum dritten Mal begeistert!(今日で3度目の感動です!)とドイツ語で話しかけたら、Oh, haben Sie Deutsch gelernt?(あら、ドイツ語を勉強されたんですか?) と返してくれた。Ja, und ich habe gelesen, dass Sie Deutsch sprechen.(はい、あなたもドイツ語をしゃべるっての読みましたよ)と言ったらイム・ヒョスンもドイツ語が分かるらしく、二人して嬉しそうに反応してくれた。

ヒラリーのドイツ語はとてもきれいな発音だったし、ステージのアンコール紹介ではとてもきれいな日本語を話すなど、やっぱり音に対する感覚がすごいんだなぁ、とここでも感激だった。次の来日が今から待ち遠しい。

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