2月21日(土)東京藝術大学 バッハカンタータクラブ 
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藝大新奏楽堂
【曲目】
1.バッハ/カンタータ第65番「人々シェバよりみな来たりて」BWV 65
T:金沢青児、圓谷俊貴/B:井口 達
2.バッハ/チェンバロ、フルート、ヴァイオリンのための三重協奏曲 イ短調 BWV1044
Cem:山縣万里/Fl:鶴田洋子/Vn:高橋和葉
3.バッハ/カンタータ第80番「われらが神こそ、堅き砦」BWV80
S:村元彩夏/A:村松稔之/T:金沢青児、圓谷俊貴/B:井口 達、新見準平
【アンコール】
"Da soll es geschehen (?)"で始まる合唱曲
【演奏】
長岡聡季指揮 東京藝術大学バッハカンタータクラブ
恒例の藝大バッハカンタータクラブの定期演奏会に夫婦で出掛けた。コンサート通いが4日も続いてしまったが、この演奏会は中でも一番楽しみだった。カンタータクラブはいつでも幸せな気持ちにしてくれる上に、今回は僕が大好きな80番のカンタータをやるから。
まずは65番のカンタータ。ホルンとリコーダーが加わり合奏に彩りを添えた冒頭合唱が始まると、もうそれは生気に溢れ、温かな血の通ったカンタータクラブのバッハの世界。
カンタータクラブの定期演奏会では器楽曲を入れてくれるのも嬉しい。他の自作曲からバッハ自身によって編曲されたという三重協奏曲はとても充実した名品。とりわけチェンバロパートが華やかに活躍するが、山縣万里さんが奏でるチェンバロはとてもエレガントで優美。柔らかなフルートとヴァイオリンを伴って、雅やかな世界を見せてくれた。
そして楽しみにしていた80番、いやーやっぱり良かった! 確信に満ち、生き生きと語りかけてきた合唱、生気に溢れ、しなやかで端正なオケ、歌詞を大切にして丁寧に歌われたレチタティヴォとアリア、そして「歌」があるソロ楽器のオブリガート… いつでも音楽は生命力に溢れていた。
第5曲のコラールを導くオケの前奏を聴いたときは全身がゾクゾクするほど感動した。これは「悪魔に襲いかかる戦いの描写」ということらしいが、喜び勇む舞曲に聞こえた。踊りで悪魔を追い払うってのもありだ。解き放たれ、自由を謳歌しているような柔軟で生気溢れるオケに乗ってユニゾンで歌われる勇ましく自信に満ちたコラールは勇気を奮い立たせてくれる。長岡聡季さんの迫真のリードも光っていた。
アルトとテノールのデュエットにイングリッシュホルンとヴァイオリンのオブリガートが伴い、オルガンとチェンバロの通奏低音で演奏される第7曲は透明で楽園的な美しさを湛えていた。続いて落ち着いたコラールで全曲が閉じられたときの満たされた幸せな気持ち… 素敵な演奏にただただ感謝したい。
今回の演奏会に登場したソロで最も深く印象に残ったのは、出番も一番多かったバスの井口達さん。 もうカンタータクラブのソリストとしておなじみだが、回を重ねるごとに存在感を増してくるようで、磨きのかかった声とたっぷりとした表現力でしっかり聴き手の心を捉えた。更にドイツ語の深い発音が歌の包容力を増していた。
ソプラノの村元彩夏さんの歌詞にフィットした表情豊かな歌唱も印象に残った。 "Verlangen"に込められた思慕の情、"treib aus"(追い出せ)や"weg"(失せよ)の決然とした厳しさ、"prangen"(光り輝く)では光彩を放っているように響き、歌詞に即した自然な表情で、バッハがこのアリアに託したメッセージをしっかり届けていた。
そのほかのソロもどれもがその場面にふさわしい姿で歌われて心に響いてきたが、これは合唱やオーケストラの演奏も含めてカンタータクラブの真骨頂。メンバーの中でクリスチャンは少数派だと思うが、福音のような深い信仰心のようなものが伝わってくるのは、このクラブのメンバーがバッハの音楽を心から愛し、バッハが伝えようとしたものを汲み取り表現することにメンバーが心を合わせることが、宗教的とも言える敬虔さを呼び覚ますのかも知れない。
更に、このクラブの仲間と共にバッハを演奏するという期限付きの貴重な機会を大切にしようという気持ちが、演奏に深い親密感を生むのかも知れない。プログラムのに掲載されているメンバーの「カンタータクラブに寄せる思い」を読んでいたら、いつもこのカンタータクラブの演奏がもたらしてくれる親密感や幸福感の理由はそんなところにもあるのだと納得できた。
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芸術祭2008
カンタータクラブ定期演奏会2008
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藝大新奏楽堂
【曲目】
1.バッハ/カンタータ第65番「人々シェバよりみな来たりて」BWV 65
T:金沢青児、圓谷俊貴/B:井口 達
2.バッハ/チェンバロ、フルート、ヴァイオリンのための三重協奏曲 イ短調 BWV1044
Cem:山縣万里/Fl:鶴田洋子/Vn:高橋和葉
3.バッハ/カンタータ第80番「われらが神こそ、堅き砦」BWV80
S:村元彩夏/A:村松稔之/T:金沢青児、圓谷俊貴/B:井口 達、新見準平
【アンコール】
"Da soll es geschehen (?)"で始まる合唱曲
【演奏】
長岡聡季指揮 東京藝術大学バッハカンタータクラブ
恒例の藝大バッハカンタータクラブの定期演奏会に夫婦で出掛けた。コンサート通いが4日も続いてしまったが、この演奏会は中でも一番楽しみだった。カンタータクラブはいつでも幸せな気持ちにしてくれる上に、今回は僕が大好きな80番のカンタータをやるから。
まずは65番のカンタータ。ホルンとリコーダーが加わり合奏に彩りを添えた冒頭合唱が始まると、もうそれは生気に溢れ、温かな血の通ったカンタータクラブのバッハの世界。
カンタータクラブの定期演奏会では器楽曲を入れてくれるのも嬉しい。他の自作曲からバッハ自身によって編曲されたという三重協奏曲はとても充実した名品。とりわけチェンバロパートが華やかに活躍するが、山縣万里さんが奏でるチェンバロはとてもエレガントで優美。柔らかなフルートとヴァイオリンを伴って、雅やかな世界を見せてくれた。
そして楽しみにしていた80番、いやーやっぱり良かった! 確信に満ち、生き生きと語りかけてきた合唱、生気に溢れ、しなやかで端正なオケ、歌詞を大切にして丁寧に歌われたレチタティヴォとアリア、そして「歌」があるソロ楽器のオブリガート… いつでも音楽は生命力に溢れていた。
第5曲のコラールを導くオケの前奏を聴いたときは全身がゾクゾクするほど感動した。これは「悪魔に襲いかかる戦いの描写」ということらしいが、喜び勇む舞曲に聞こえた。踊りで悪魔を追い払うってのもありだ。解き放たれ、自由を謳歌しているような柔軟で生気溢れるオケに乗ってユニゾンで歌われる勇ましく自信に満ちたコラールは勇気を奮い立たせてくれる。長岡聡季さんの迫真のリードも光っていた。
アルトとテノールのデュエットにイングリッシュホルンとヴァイオリンのオブリガートが伴い、オルガンとチェンバロの通奏低音で演奏される第7曲は透明で楽園的な美しさを湛えていた。続いて落ち着いたコラールで全曲が閉じられたときの満たされた幸せな気持ち… 素敵な演奏にただただ感謝したい。
今回の演奏会に登場したソロで最も深く印象に残ったのは、出番も一番多かったバスの井口達さん。 もうカンタータクラブのソリストとしておなじみだが、回を重ねるごとに存在感を増してくるようで、磨きのかかった声とたっぷりとした表現力でしっかり聴き手の心を捉えた。更にドイツ語の深い発音が歌の包容力を増していた。
ソプラノの村元彩夏さんの歌詞にフィットした表情豊かな歌唱も印象に残った。 "Verlangen"に込められた思慕の情、"treib aus"(追い出せ)や"weg"(失せよ)の決然とした厳しさ、"prangen"(光り輝く)では光彩を放っているように響き、歌詞に即した自然な表情で、バッハがこのアリアに託したメッセージをしっかり届けていた。
そのほかのソロもどれもがその場面にふさわしい姿で歌われて心に響いてきたが、これは合唱やオーケストラの演奏も含めてカンタータクラブの真骨頂。メンバーの中でクリスチャンは少数派だと思うが、福音のような深い信仰心のようなものが伝わってくるのは、このクラブのメンバーがバッハの音楽を心から愛し、バッハが伝えようとしたものを汲み取り表現することにメンバーが心を合わせることが、宗教的とも言える敬虔さを呼び覚ますのかも知れない。
更に、このクラブの仲間と共にバッハを演奏するという期限付きの貴重な機会を大切にしようという気持ちが、演奏に深い親密感を生むのかも知れない。プログラムのに掲載されているメンバーの「カンタータクラブに寄せる思い」を読んでいたら、いつもこのカンタータクラブの演奏がもたらしてくれる親密感や幸福感の理由はそんなところにもあるのだと納得できた。
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