11月22日(木)エド・デ・ワールト指揮 NHK交響楽団
《11月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1.メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」Op.26
2.ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲ト短調 Op.26
【アンコール】
バッハ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番~第3楽章
Vn:ジャニーヌ・ヤンセン
3.R.シュトラウス/家庭交響曲 Op.53
2009年にもN響と素晴らしい演奏を聴かせてくれたデ・ワールトが再び客演。シュトラウスの自伝的な大管弦楽曲が苦手な僕にとっては前半の曲目に期待が集中した。
まずは「フィンガルの洞窟」。穏やかだけれど最初から集中力を感じた。第2主題の甘い旋律があまりオーバーにならず、でも内なる心でしっとり歌うところにも好感を持ったが、それから盛り上がるところで、最初の集中力が益々高まり、アンサンブルがかっちりと、しかも自然に噛み合って、余力を維持しつつどんどんテンションを高めて行くのを聴いて「なんてうまいんだろう!」と、ため息が出るほど。職人的な巧さにほどよい熱気が加わった、絵に描いたような好演に、気持ちがウキウキした。
続くブルッフのバイオリン協奏曲では、好調のオーケストラとヤンセンのヴァイオリンが溶け合い、呼応して、極上の演奏が実現した。ヤンセンのヴァイオリン、冒頭のカデンツァ風の開始で、内に秘めた熱い吐息を上品な色香で包んで歌い始め、聴衆の心をいきなりぐいっと掴んだ。ヤンセンはどんなに激しい部分でも理性を失わず音楽の真髄をいつも見つめ、凛とした姿勢で熟成した歌を歌う。ハイスピード撮影の映像を見ているような滑らかなボーイングが微細なニュアンスを表現し、また息の長いフレーズで大きなアーチを描く。30歳も半ばにさしかかるヤンセンは大人の魅力を湛えていた。
こんなヤンセンの大人の演奏に、N響は益々職人技が冴え渡るデ・ワールトの指揮の下、繊細でかつしなやかな強さがあり、熱気に満ちた充実した演奏を聴かせてくれ、ソロとオケの間に一分の隙もない名演が実現した。アンコールのバッハも内面から沸き上がるものを感じる素晴らしい演奏だった。
そしてこの素晴らしいデ・ワールトとN響との共演は、後半のシュトラウスで期待していなかった更なる感動を与えてくれた。シュトラウスの自画自賛の「交響詩」は、どんなにオーケストレーションが優れていても、今まで感心はすれど決して感動はできなかった。それが、感心を飛び越え感動に至ったのは自分としては前代未聞。とにかく演奏がまず素晴らしかった。
それぞれのパート同士が共鳴し、呼応し合って精巧で繊細なタペストリーを織り上げていく様子に立ち会っているうちに、その鮮やかな巧みの技に身も心もすっかり奪われてしまった。音楽が進むごとにワクワク感が高まり、実際に目が大きく見開かされていって意識が覚醒していった。弦のアンサンブルは柔軟にして繊細、瑞々しい歌を織り成す。金管・木管・打楽器のプレイヤーは全員が驚くほどの力量で自分のパートのソロを奏で、管弦楽のアンサンブルは調和の取れた極上のブレンドを醸し出した。アンサンブルとしての響きや力のバランスの見事さ、音楽としての濃淡やエネルギー配分、緊迫と弛緩、枝葉末端まで神経が行き届いた細やかさ… 全てが見えない力でコントロールされ、更に、デ・ワールトが魔法のステッキでサーッと空を切ると、映画みたいに辺りの空気の色がバラ色に変わり、最後の仕上げが完成するという感じ。シュトラウスの自伝的作品ということも忘れ、純音楽として作品の素晴らしさに酔った。とにかく恐れ入った!
N響は、名匠と言われるような大物指揮者が来ると時々神がかり的なスゴイ演奏をすることがある。今夜は、デ・ワールトの魔法のステッキで色が変わるのを感じはしたが、これは神がかり的な二度とできないような異次元の演奏ではなく、デ・ワールトによってN響の真の実力が100%発揮され、何度でも聴かせてもらえるホンモノの演奏。デ・ワールトには是非ともまた客演してもらいたい。
《11月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1.メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」Op.26
2.ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲ト短調 Op.26
【アンコール】
バッハ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番~第3楽章
Vn:ジャニーヌ・ヤンセン
3.R.シュトラウス/家庭交響曲 Op.53
2009年にもN響と素晴らしい演奏を聴かせてくれたデ・ワールトが再び客演。シュトラウスの自伝的な大管弦楽曲が苦手な僕にとっては前半の曲目に期待が集中した。
まずは「フィンガルの洞窟」。穏やかだけれど最初から集中力を感じた。第2主題の甘い旋律があまりオーバーにならず、でも内なる心でしっとり歌うところにも好感を持ったが、それから盛り上がるところで、最初の集中力が益々高まり、アンサンブルがかっちりと、しかも自然に噛み合って、余力を維持しつつどんどんテンションを高めて行くのを聴いて「なんてうまいんだろう!」と、ため息が出るほど。職人的な巧さにほどよい熱気が加わった、絵に描いたような好演に、気持ちがウキウキした。
続くブルッフのバイオリン協奏曲では、好調のオーケストラとヤンセンのヴァイオリンが溶け合い、呼応して、極上の演奏が実現した。ヤンセンのヴァイオリン、冒頭のカデンツァ風の開始で、内に秘めた熱い吐息を上品な色香で包んで歌い始め、聴衆の心をいきなりぐいっと掴んだ。ヤンセンはどんなに激しい部分でも理性を失わず音楽の真髄をいつも見つめ、凛とした姿勢で熟成した歌を歌う。ハイスピード撮影の映像を見ているような滑らかなボーイングが微細なニュアンスを表現し、また息の長いフレーズで大きなアーチを描く。30歳も半ばにさしかかるヤンセンは大人の魅力を湛えていた。
こんなヤンセンの大人の演奏に、N響は益々職人技が冴え渡るデ・ワールトの指揮の下、繊細でかつしなやかな強さがあり、熱気に満ちた充実した演奏を聴かせてくれ、ソロとオケの間に一分の隙もない名演が実現した。アンコールのバッハも内面から沸き上がるものを感じる素晴らしい演奏だった。
そしてこの素晴らしいデ・ワールトとN響との共演は、後半のシュトラウスで期待していなかった更なる感動を与えてくれた。シュトラウスの自画自賛の「交響詩」は、どんなにオーケストレーションが優れていても、今まで感心はすれど決して感動はできなかった。それが、感心を飛び越え感動に至ったのは自分としては前代未聞。とにかく演奏がまず素晴らしかった。
それぞれのパート同士が共鳴し、呼応し合って精巧で繊細なタペストリーを織り上げていく様子に立ち会っているうちに、その鮮やかな巧みの技に身も心もすっかり奪われてしまった。音楽が進むごとにワクワク感が高まり、実際に目が大きく見開かされていって意識が覚醒していった。弦のアンサンブルは柔軟にして繊細、瑞々しい歌を織り成す。金管・木管・打楽器のプレイヤーは全員が驚くほどの力量で自分のパートのソロを奏で、管弦楽のアンサンブルは調和の取れた極上のブレンドを醸し出した。アンサンブルとしての響きや力のバランスの見事さ、音楽としての濃淡やエネルギー配分、緊迫と弛緩、枝葉末端まで神経が行き届いた細やかさ… 全てが見えない力でコントロールされ、更に、デ・ワールトが魔法のステッキでサーッと空を切ると、映画みたいに辺りの空気の色がバラ色に変わり、最後の仕上げが完成するという感じ。シュトラウスの自伝的作品ということも忘れ、純音楽として作品の素晴らしさに酔った。とにかく恐れ入った!
N響は、名匠と言われるような大物指揮者が来ると時々神がかり的なスゴイ演奏をすることがある。今夜は、デ・ワールトの魔法のステッキで色が変わるのを感じはしたが、これは神がかり的な二度とできないような異次元の演奏ではなく、デ・ワールトによってN響の真の実力が100%発揮され、何度でも聴かせてもらえるホンモノの演奏。デ・ワールトには是非ともまた客演してもらいたい。