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タカーチ弦楽四重奏団のベートーヴェン

2016年09月23日 | pocknのコンサート感想録2016
9月21日(水)タカーチ弦楽四重奏団 
~オール・ベートーヴェン・プログラム~
ヤマハホール
【曲目】
1. ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第2番 ト長調 「挨拶する」Op.18-2
2. ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第11番 ヘ短調「セリオーソ」Op.95
3. ベートーヴェン/弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 Op.131


過去に2度聴いたタカーチ弦楽四重奏団の演奏会でいずれも強い感銘を受けたので、またこのカルテットを聴きに行った。ベートーヴェンの、それぞれ前期、中期、後期を代表する作品を1曲ずつ年代順に並べたプログラミングは、タカーチSQがプログラムに寄せたメッセージによれば、「こうすることでベートーヴェンの心の旅に誘われる」とのこと。ベートーヴェンの「心」がどのように旅するのか、期待が募る。

まずは前期の作品から第2番。なごやかな、少々おどけた表情で、この曲の呼び名になっている「挨拶」の様子を伝える。それから繰り広げられる演奏は、よく言えば古き良きヨーロッパの香りや歌心を飾り気なく伝えているとも言えるが、ほろ酔い加減みたいな怪しい音程が散見され、アンサンブルとしての足元も危なっかしい。これで次の「セリオーソ」や、ましてや後期の哲学的な大作は大丈夫か、と心配になったが、それは杞憂に終わった。

「セリオーソ」では、冒頭からほろ酔い気分を吹き飛ばし、気合いと本気度が伝わってきた。熱い吐息で対象をしっかりと掴み、エネルギーを充溢させ、焦点を見極めて攻めて行く。非常に充実した演奏で、後半への期待が高まった。

そして14番嬰ハ短調、最初の一音から最後のカデンツまで、聴き手を惹きつけ続けた。ポリフォニックな序奏部、無駄な動きが一切なく、滑らかに音を受け渡して行く様子は、薄明かりのなか、4人が祭壇を囲み、手を取り合い、滑らかで優美な身のこなしで神聖な儀式の舞を捧げているよう。第2楽章に入り、音楽に動きが出てくると4人の距離が広がって、神聖な舞に軽やかな解放感が生じる。花が開くような様子は、まるでボッティチェッリの「春(プリマヴェーラ)」のように幸福感に溢れた天上の世界。長大な第4楽章に至るまで、シーンに応じた4人の優美で、楽しげで、熱い音の受け渡しの妙に酔いしれた。

しかし、タカーチSQはそんな幸福感だけに甘んじ続けはしない。第5楽章プレストではお互いに駆け引きや探り合い、そして激しいバトルが繰り広げる。楽しそうなスウィングも聴こえてきて心が踊るかと思えば、毛羽立った音を出すところはコマの手前を弾いているような、前衛音楽?なんて思わせるほど。ピッチカートの炸裂もスゴイ。それが奇をてらっているようには聴こえず、常に挑戦を続けるアクティブな姿勢として迫ってくる。

攻撃的な場面でも決して崩壊へ向かうことはなく、見事なバランスを取り、結果的には一丸となって突進する力となるのは、終楽章でも実証された。音楽を完全に掌握しつつ新たに挑み続け、自在に変幻しながらも一つの塊として突き進み、曲を閉じた。小規模なヤマハホールの満員の聴衆から割れんばかりの拍手とブラボー。

過去に東京カルテットでの名演の記憶もあるが、この作品は演奏の難しさだけでなく、聴く側としても相当の覚悟が必要だと感じることも珍しくない。それが今夜は、完全に音楽と演奏に引き込まれっぱなしだった。やっぱりタカーチは凄い。1曲目を演奏していたのと同じカルテットだとはとても思えない。過去の感想を読んだら、やはり前半と後半の印象が全く異なったと書いていた時があった。ちょっと不思議だが、これほど音楽の面白さ、醍醐味を伝えてくれるカルテット、次もまた聴きに来よう!

タカーチ弦楽四重奏団 ~クァルテットの饗宴2013~(2013.9.26 紀尾井ホール)
タカーチ弦楽四重奏団 2006(2006.6.20 紀尾井ホール)
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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