10月20日(火)ブレス・ビー・クィンテット
東京オペラシティ リサイタルシリーズ B→C ビートゥーシー[115]
東京オペラシティリサイタルホール
【曲目】
♪シャイン/《イスラエルの泉》から
「聖徒たちよ、主に向かって賛美の歌を歌え」
♪シャイン/《宗教的コンチェルト集》から
「イエス・キリストに賛美あれ」
「愚か者の口はよく語り」
「来たれ聖霊、主なる神よ」
♪カプスベルガー/トッカータ[リュート・ソロ]
~イギリス・マドリガル~
♪グリーヴズ/おいで、愛しいひと
♪ウィールクス/聞け、愛らしい天女たち
♪ウィールクス/おお煩いよ
♪キャンピオン/どんな嵐に遭った船も
♪ベネット/涙せよ、わがまなこ
♪ウィールクス/ロビン・フッドも
♪(作者不詳)/窓から帰って、愛しい人よ [リュート・ソロ]
♪モーリー/火事だ、火事だ!
♪キャヴェンディッシュ/あのかつての喜びに
♪ベイトソン/香しい魅惑の百合
♪バッハ/クォドリベット BWV524
♪サンドストレム/サンクトゥス(1990)
♪ホルムボー/《歌の本》op.59から
「わが魂よ、主を賛美せよ」
「私は主をほめたたえよう」
「神に向かって賛美の歌を歌おう」
♪落合崇史/マニフィカト(ブレス・ビー・クインテット委嘱初演)
【アンコール】
♪山田耕筰/落合崇史編曲/待ちぼうけ
♪J.ラター/There is a flower
【出演】
ブレス・ビー・クィンテット(ヴォーカル・アンサンブル)
S:鈴木美紀子、藤崎美苗/カウンターT:青木洋也/T:鈴木准/Bar:藪内俊弥
リュート:永田平八
ブレスビー・クインテットというヴォーカルグループについてはそれまでその名前も知らなかったが、まずオペラシティの目玉のリサイタルシリーズであるB→Cに出るのだからおもしろいし上手いに違いないという期待、それに日本人のヴォーカルアンサンブルってのはもしかして今まで聴いたことがない、という珍しさも手伝ってでかけた。
プログラム前半はルネサンスの時代の宗教曲とマドリガルを聴かせ、後半は現代の作品を並べ、両者をバッハの、珍しくておもしろい曲が橋渡しするというもので創意が感じ取れる。
最初に演奏されたシャインの曲はバッハに通じるものを感じた。とりわけ《宗教的コンチェルト集》の「イエス・キリストに賛美あれ」はテノールのコラール旋律を他の声部が装飾するというバッハのコラールカンタータの冒頭合唱のような音楽。バッハより100年も前にこんな音楽があったなんて知らなかった。鈴木准さんの光に照らされたような神々しさを感じるテノールの朗唱とそれに先導する他のパートの澄んだ響きのアンサンブルとの調和が美しく、癒しの世界へ誘ってくれた。配られた歌詞カードには7コーラス分が記されていたのでこの世界にどっぷり漬かれると思いきや、ワンコーラスしかやらなかったのは残念。
シャインの作品に続いて演奏されたイギリスのマドリガル集ではアンサンブルに益々潤滑油が行き渡り、滑らかで豊かな表情が息づく素晴らしい歌の世界を繰り広げた。「いろんな感情を表す『ファララ』を感じてください。」と曲紹介で青木さんが言った通り、それぞれの曲に込められた喜びや悲しみといった作者の思いが時空を越えて「ファララ」という呼び声と共に自然に伝わり心を揺すった。
後半最初のバッハはおよそバッハらしからぬ歌。ああだこうだとたわいもない歌詞を連ねおどけた音楽が続く。後で歌詞カードに書かれた杉山先生(学生時代の恩師)の解説を読んで、これが実はバッハ一族の職業のシンボルを象徴的に歌いこんだ「ある深い統一性をもって、青年バッハの精神的葛藤の率直でのびのびした訴え」であることを知るが、それは歌に秘められた内面的な意味合いで、表向きは気のおけない仲間と戯れながら歌ったことだろう。バッハのイメージとは異なったモーツァルト的な一面を見てより親近感が湧いた。
その後は現代の作品が続いた。クリスタルな響きのサンドストレームやエモーショナルな心の訴えが伝わってくるようなホルムポーも良かったが、今回の演奏会のために落合崇史氏が書き下したというマニフィカトが印象に残った。プログラムで紹介されているほど音楽としての斬新さは特に感じなかったが、お経のような決まり文句のラテン語がとても生き生きと、多彩な表現力を持って音に乗って自由に羽ばたいていた。
曲ごとにメンバーのソロにスポットライトが当るのもいい。鈴木准さんの柔らかく磨かれたテナーは相変わらず素晴らしいし、カウンターテナーの青木洋也さんの心にビーンと響く温もりのある美声にも聴き惚れる。鈴木美紀子さんのピュアな洗練された歌声も素敵だ。できれば全員にソロを与えて欲しかった(もう一人のソプラノの藤崎美苗さんの心に沁みるソロをアンコールで聴けたが…)。
アンコールでやった落合氏のアレンジの「待ちぼうけ」が活き活きとして、洒落ていてこれがまた良かった。この演奏会で日本語の歌はこの1曲だけだったが、今後こうした日本語の親しみやすい歌をレパートリーに加えて行くと、このアンサンブルの新たなファンが増えるのではないだろうか。日本にはポップス系では上手いアカペラグループがいろいろいるが、クラシック系での新星としてポピュラー系の歌を精緻なアレンジで聴かせるというのも良さそう。いろいろな可能性を秘めたアンサンブルとしての才能も感じた演奏会だった。
東京オペラシティ リサイタルシリーズ B→C ビートゥーシー[115]
東京オペラシティリサイタルホール
【曲目】
♪シャイン/《イスラエルの泉》から
「聖徒たちよ、主に向かって賛美の歌を歌え」
♪シャイン/《宗教的コンチェルト集》から
「イエス・キリストに賛美あれ」
「愚か者の口はよく語り」
「来たれ聖霊、主なる神よ」
♪カプスベルガー/トッカータ[リュート・ソロ]
~イギリス・マドリガル~
♪グリーヴズ/おいで、愛しいひと
♪ウィールクス/聞け、愛らしい天女たち
♪ウィールクス/おお煩いよ
♪キャンピオン/どんな嵐に遭った船も
♪ベネット/涙せよ、わがまなこ
♪ウィールクス/ロビン・フッドも
♪(作者不詳)/窓から帰って、愛しい人よ [リュート・ソロ]
♪モーリー/火事だ、火事だ!
♪キャヴェンディッシュ/あのかつての喜びに
♪ベイトソン/香しい魅惑の百合
♪バッハ/クォドリベット BWV524
♪サンドストレム/サンクトゥス(1990)
♪ホルムボー/《歌の本》op.59から
「わが魂よ、主を賛美せよ」
「私は主をほめたたえよう」
「神に向かって賛美の歌を歌おう」
♪落合崇史/マニフィカト(ブレス・ビー・クインテット委嘱初演)
【アンコール】
♪山田耕筰/落合崇史編曲/待ちぼうけ
♪J.ラター/There is a flower
【出演】
ブレス・ビー・クィンテット(ヴォーカル・アンサンブル)
S:鈴木美紀子、藤崎美苗/カウンターT:青木洋也/T:鈴木准/Bar:藪内俊弥
リュート:永田平八
ブレスビー・クインテットというヴォーカルグループについてはそれまでその名前も知らなかったが、まずオペラシティの目玉のリサイタルシリーズであるB→Cに出るのだからおもしろいし上手いに違いないという期待、それに日本人のヴォーカルアンサンブルってのはもしかして今まで聴いたことがない、という珍しさも手伝ってでかけた。
プログラム前半はルネサンスの時代の宗教曲とマドリガルを聴かせ、後半は現代の作品を並べ、両者をバッハの、珍しくておもしろい曲が橋渡しするというもので創意が感じ取れる。
最初に演奏されたシャインの曲はバッハに通じるものを感じた。とりわけ《宗教的コンチェルト集》の「イエス・キリストに賛美あれ」はテノールのコラール旋律を他の声部が装飾するというバッハのコラールカンタータの冒頭合唱のような音楽。バッハより100年も前にこんな音楽があったなんて知らなかった。鈴木准さんの光に照らされたような神々しさを感じるテノールの朗唱とそれに先導する他のパートの澄んだ響きのアンサンブルとの調和が美しく、癒しの世界へ誘ってくれた。配られた歌詞カードには7コーラス分が記されていたのでこの世界にどっぷり漬かれると思いきや、ワンコーラスしかやらなかったのは残念。
シャインの作品に続いて演奏されたイギリスのマドリガル集ではアンサンブルに益々潤滑油が行き渡り、滑らかで豊かな表情が息づく素晴らしい歌の世界を繰り広げた。「いろんな感情を表す『ファララ』を感じてください。」と曲紹介で青木さんが言った通り、それぞれの曲に込められた喜びや悲しみといった作者の思いが時空を越えて「ファララ」という呼び声と共に自然に伝わり心を揺すった。
後半最初のバッハはおよそバッハらしからぬ歌。ああだこうだとたわいもない歌詞を連ねおどけた音楽が続く。後で歌詞カードに書かれた杉山先生(学生時代の恩師)の解説を読んで、これが実はバッハ一族の職業のシンボルを象徴的に歌いこんだ「ある深い統一性をもって、青年バッハの精神的葛藤の率直でのびのびした訴え」であることを知るが、それは歌に秘められた内面的な意味合いで、表向きは気のおけない仲間と戯れながら歌ったことだろう。バッハのイメージとは異なったモーツァルト的な一面を見てより親近感が湧いた。
その後は現代の作品が続いた。クリスタルな響きのサンドストレームやエモーショナルな心の訴えが伝わってくるようなホルムポーも良かったが、今回の演奏会のために落合崇史氏が書き下したというマニフィカトが印象に残った。プログラムで紹介されているほど音楽としての斬新さは特に感じなかったが、お経のような決まり文句のラテン語がとても生き生きと、多彩な表現力を持って音に乗って自由に羽ばたいていた。
曲ごとにメンバーのソロにスポットライトが当るのもいい。鈴木准さんの柔らかく磨かれたテナーは相変わらず素晴らしいし、カウンターテナーの青木洋也さんの心にビーンと響く温もりのある美声にも聴き惚れる。鈴木美紀子さんのピュアな洗練された歌声も素敵だ。できれば全員にソロを与えて欲しかった(もう一人のソプラノの藤崎美苗さんの心に沁みるソロをアンコールで聴けたが…)。
アンコールでやった落合氏のアレンジの「待ちぼうけ」が活き活きとして、洒落ていてこれがまた良かった。この演奏会で日本語の歌はこの1曲だけだったが、今後こうした日本語の親しみやすい歌をレパートリーに加えて行くと、このアンサンブルの新たなファンが増えるのではないだろうか。日本にはポップス系では上手いアカペラグループがいろいろいるが、クラシック系での新星としてポピュラー系の歌を精緻なアレンジで聴かせるというのも良さそう。いろいろな可能性を秘めたアンサンブルとしての才能も感じた演奏会だった。