2013年1月4日(金)
新春恒例・富士山を眺める山歩き。毎回富士五湖周辺の山、なかでも鬼ヶ岳には必ずというほど正月に登っているが、その鬼ヶ岳はつい2か月前に行ったばかりで、素晴らしい夕景も眺めることができたので、今回は丹沢エリアを選んだ。5年ぶり2度目の丹沢は、、前回登った塔ノ岳の西隣にある鍋割山に登り、時間がありそうだったら塔ノ岳も行ってみようか… というプランを立てた。
寄から鍋割山へ
メインは鍋割山だったので、中山峠を越えて下ったところにある宇津茂という集落の手前の、鍋割山に最短で行ける寄という登山口から登り始めた。車はこの近くの道路脇のスペースに停め、「鍋割山」の標識がある登山道らしき道へ入ったが、早速道が分かれていて迷っていたら、「ナベワリはこっちだよ!」と農作業をしていたおじさんが右へ行く道を教えてくれた。すぐに農道に出るが、それを横切ると登山道が続いている。今度は車道に出る。これをちょっとだけ左へ登ると、段状になった本格的な登山道が道路脇右から始まる。あとはひたすらこの道をまっすぐ登るだけでわかりにくいところはない。
登山道はよく整備されていてとても歩きやすい。歩き始めて1時間ほどで着く最初の小ピーク、くぬぎ山からは相模湾が太陽の日差しを浴びて金色に輝いていた。
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ここからなだらかな道を20分ほど行くと、栗ノ木洞という平坦な場所に着く。908mと標高が記してあるのでここもピークのひとつのようだ。すると、間もなく道はかなりの急な下り坂になった。せっかく高度を稼いだのにもったいないなぁ、と下り続けること5分以上。この下りは下山時には登りになるわけでちょっとイヤだな、と思ったのだが、これが実際今日の下山時にとんでもないハプニングの原因となるのだった。
間もなく鍋割山と二股方面との分岐になっている後沢乗越に来ると、ここからは道は頂上までずっと登りだけ。ここまでは殆ど人に会わなかったが、二股方面からの登山者が合流してここからは結構登山者を見かけるようになる。道は相変わらずよく整備されていて歩きやすい。冬枯れの枝の間から金色に輝く相模湾と白銀の富士山が眺められ、霜柱を踏みながらの快適な山歩きだ。
暮れに東京の方は結構雨が降ったので、こちらは雪になっていたらかなり積もっているかも、と思ってアイゼンを用意して行ったが、雪は全く見かけなかった。富士山の右側に南アルプスの銀嶺も見えてきた。途中から道はかなり急坂になる。やがて前方上のほうに鍋割山の小屋が見えてくる。道が木道になると視界は一層開けて富士山が良く見える。丹沢からの富士山は太陽光線の具合で午前中がいいので、早く頂上からの富士山を見たくてくぬぎ山からは休みなしで登り続けた。
登り始めて2時間40分で鍋割山山頂(1272.5m)に到着。広々とした丘陵上になった山頂は20人以上の人たちで賑わっていた。中高年はもちろん、子供も山ガールもいろんな世代が混ざっている。
山頂からの眺めは絶景。裾野を悠々と広げた富士山が大きい。富士山は眺める方向によっていろいろな姿を見せてくれるが、こうして東側からの富士山を眺めるのは久しぶり。風はとても冷たいが、上空の風もさほど強くないようで、富士山の稜線も穏やかな表情を見せていた。
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富士山のすぐ右隣りには南アルプスの銀嶺が輝いている。いつも登る鬼ヶ岳からも南アルプスの眺めは素晴らしいが、ここからだと富士山と南アルプスが同じ方向に連なって見える。右から北岳、御正体山をまたいで塩見岳、荒川岳、赤石岳と続く。この写真には写っていないが、その左には聖岳もよく見えた。
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目を左へ転じると海が大きく見える。相模湾の彼方には伊豆大島が浮かんでた。丹沢はこうして海が良く見えるんだな、と実感。風は冷たいけれど微風程度なので、「この冬一番」と予報で言っていた寒さもそれほど厳しくは感じない。手元の温度計はマイナス1度程度で、実際の気温も思ったほど低くない。雄大な景色を眺めながらお湯を沸かし、ラーメンとおにぎりを食べた後はスケッチ帳を出して、富士山と南アルプスが1枚に収まるここからならではの眺めを描きつけた。空など水をたくさん使うところはやはり凍ってしまって描きづらいがなんとか仕上げられた。
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鍋割山から塔ノ岳往復
時刻はまだ午後2時前。上には夕暮れまでいるつもりだが、絵を描いていたらさすがに体が芯まで冷えてきた。このままここで夕暮れまでじっとしているのは寒すぎるので、体を動かしていた方がいい。それなら、ここからコースタイム1時間半で行ける隣りの塔ノ岳まで行ってみようか…
ということで、5年前に登った塔ノ岳に向かった。鍋割山から塔ノ岳の道もよく整備されていて歩きやすく、アップダウンもさほど急ではなく、1時間弱で塔ノ岳山頂(1491m)に着くことができた。眺めは鍋割山よりも一段とダイナミック!富士山までの距離はさっきより遠くなったはずだが、その雄大さはこちらのほうが更にインパクトが強い。
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北側や東側の山々が連なる眺めもとってもいい。こちらは丹沢最深部の丹沢山や蛭ヶ岳などの主峰たちがダイナミックに迫ってくる。その向こうには甲武信ヶ岳や金峰山など、奥秩父の山々がくっきりと見えた。
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前回来たときは空気がもう一つすっきり澄んでいなかったが、今日の眺望は格別だ。海側の眺めも広い。鍋割山からは見えなかった東京湾や遠く房総半島まで見渡せる。それにしても広大な関東平野は東京の中心だけでなく、その周辺に至るまで殆どコンクリートの建造物で埋め尽くされているのがよくわかる。その東京の中心部には新宿の超高層ビルが立ち並び、右手には東京スカイツリーが高い!東京タワーもわかった。なんでも一目のなかに収まってしまう。
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こちらは鎌倉、藤沢方面。江の島が良く見える。
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塔ノ岳からの眺望を十分に堪能して鍋割山へ戻る。時間的にも鍋割山に戻った頃にちょうど日没を迎えられそう。
キジを見たすぐあと、二頭連れの鹿に出くわした。遠くからこちらの様子を窺っていたが、もうちょっと近づいて写真を撮ろうと思って動いたら、素早く谷底へ駆け下りて行ってしまった。肉付きも毛並みも良い鹿だったが、この厳寒のなか何を食べて生きているんだろうか。
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鍋割山へ戻る前、西の空はもうすぐ太陽が沈むころを迎えていた。見晴らしのいいポイントで、染まり始めた雲の合間からしばらく隠れていた富士山がシルエットで姿を現した。
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鍋割山へ戻ったのは日没時。富士山の頂上のすぐ上に分厚い雲が垂れこめていたが、なんとか富士山は雲にかからず、夕映えの美しい風景を見せてくれた。気温はマイナス6度。だいぶ下がってきた。
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魔界に入り込んだか!? 下山時のミステリー
まだ明るさが残るうちにできるだけ下りてしまおうと速足で下山していたが、5時半頃になると足元のギャップも見え辛くなってきたのでヘッドライトを点灯して歩く速度を緩めた。間もなく「栗ノ木洞1キロ/二股1.9キロ」と書かれた標識がある分岐に来た。もちろん往時と同じ栗ノ木洞へと進む。辺りはどんどん暗くなって、ヘッドライトが照らすところ以外は真っ暗で何も見えない。行きに登ってきた道とはいってもやっぱり心細い。
分岐から40分以上歩いた頃、ようやく次の標識があった。さて、あとどれくらいになったかな、と標識を見て凍った。そこに書かれていたのは「栗ノ木洞1キロ/二股1.9キロ」。40分前に見た標識と全く同じものではないか!!?? 永久に脱出できない魔界へ入り込んでしまったのだろうか。。。???
ミステリーの謎解き
でもすぐに事情が呑み込めた。栗ノ木洞は小ピークで、登山時、下山時どちらもここからは下り坂になる。このピークは広場のようになっていて、一旦到着すると暗闇の中でここから続く下山路を探すのに苦労する。「これだ!」と思って下った道は、実は今まさに上がって来た道だったというわけだ。ここがピークだということを忘れて、道が下っているので下山路だと思い込んでしまった。広い場所ではガスに覆われると道を見失いやすいというが、暗闇は更に迷いやすい。これが頭に入っていなくて、何の疑問も持たずに来た道を戻ってしまったなんて、これこそ遭難の典型的な1パターン。何ともお恥ずかしい限り。
不安の下山
さてどうするか?もう一度栗ノ木洞まで結構キツい上りを行ったとしても、今度こそ先に進めるという自信がない。何度も同じことをやってしまいそうだ。ここは分岐なのだから二股への下山路を選ぶべきではないか。地図で確認したら、こちらは早く林道に出られる。登山道より安全だ。だけど道は6キロ以上もあり、おまけに車を停めてあるところと全然違う場所に下りてしまう。更に標識には「渡渉あり」って書いてある。沢を歩くとなるとこの寒さで絶対氷ってるだろうな。アイゼンは持っていてもツルツルで進めないかも知れない。いっそ鍋割山の山頂まで戻って小屋に泊まろうか… とも考えたが、二股へ下ることにした。
ここから二股を経由して登山口の大倉に辿りつくまでの約2時間、月明かりも下界の灯りも見えない樹林帯で文字通り真っ暗闇のなか、ヘッドライトの明かりだけが頼りの下山は本当に心細かった。暗闇の中で一部だけ照らされたなかを歩いていると平衡感覚が狂ってふらつくし、道を外れそうになったり、路肩に足を落とすことも1度や2度ならず。すぐ近くで「ガサガサ… バキバキッ!」と動物の物音が聞こえたりすると生きた心地がしなかった。途中から林道になったものの、4WDしか入れないようなデコボコが多い道で気は抜けない。渡渉は、なぜか氷っているところはなく距離も短く無事に通過できたのは幸いだったが、心細さに押しつぶされそうになりながらひたすら暗闇を歩き続け、ようやく遠くに民家の灯りが見えたときはどんなにホッとしたことか。
途中の民家でタクシーの連絡先を教えてもらい、大倉のバス停まで下りてきてタクシーを呼ぶことができた。運転手さんがとても親切で「大変でしたね。寒かったでしょう。暖房を強めにしますね。」なんて言ってくれ、「温泉に行きたい」と言うと、車を停めてあるところでタクシーを降りたあと、温泉まで先導してくれた。神奈中タクシーの運転手さん、ありがとうございました。
案内してもらった温泉施設「湯花楽」はバリエーション豊富でとても快適。時間が遅くなってしまってダメかと思っていた食事もゆっくりできて助かった。
日のあるうちは素晴らしい眺めを堪能し、快適な山歩きができた今回の新春登山だったが、特に初めてのところは明るいうちに下山するのが鉄則、ということを思い知った。これまで日帰り登山のときは夕陽を見てから下山することが多かったが、今後これは改めねば…
《歩行タイムデータ》
寄→(1:05)くぬぎ山→(0:19)栗木ノ洞→(1:11)鍋割山 →(0:56)塔ノ岳→(1:10)鍋割山→(0:40)栗木ノ洞/二股分岐→(0:45)栗木ノ洞/二股分岐(゜〇゜;)?????→(2:00超!)大倉
【過去の新年富士を眺める山歩き】
2012 新年富士を眺める山歩き(鬼ヶ岳~節刀ヶ岳~鍵掛峠)
2011 新年富士を眺める山歩き(鬼ヶ岳~節刀ヶ岳~鍵掛峠)
2010 新年富士を眺める山歩き(鬼ヶ岳~鍵掛峠)
2009 新年富士を眺める山歩き(御坂山塊縦走)
2008 富士山を愛でる新年山行(鬼ヶ岳~節刀ヶ岳)
2007 富士山を愛でる新年山行(鬼ヶ岳~十二ヶ岳)
2006 富士山を眺める寒中山行(鬼ヶ岳~節刀ヶ岳)
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新春恒例・富士山を眺める山歩き。毎回富士五湖周辺の山、なかでも鬼ヶ岳には必ずというほど正月に登っているが、その鬼ヶ岳はつい2か月前に行ったばかりで、素晴らしい夕景も眺めることができたので、今回は丹沢エリアを選んだ。5年ぶり2度目の丹沢は、、前回登った塔ノ岳の西隣にある鍋割山に登り、時間がありそうだったら塔ノ岳も行ってみようか… というプランを立てた。
寄から鍋割山へ
メインは鍋割山だったので、中山峠を越えて下ったところにある宇津茂という集落の手前の、鍋割山に最短で行ける寄という登山口から登り始めた。車はこの近くの道路脇のスペースに停め、「鍋割山」の標識がある登山道らしき道へ入ったが、早速道が分かれていて迷っていたら、「ナベワリはこっちだよ!」と農作業をしていたおじさんが右へ行く道を教えてくれた。すぐに農道に出るが、それを横切ると登山道が続いている。今度は車道に出る。これをちょっとだけ左へ登ると、段状になった本格的な登山道が道路脇右から始まる。あとはひたすらこの道をまっすぐ登るだけでわかりにくいところはない。
登山道はよく整備されていてとても歩きやすい。歩き始めて1時間ほどで着く最初の小ピーク、くぬぎ山からは相模湾が太陽の日差しを浴びて金色に輝いていた。
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ここからなだらかな道を20分ほど行くと、栗ノ木洞という平坦な場所に着く。908mと標高が記してあるのでここもピークのひとつのようだ。すると、間もなく道はかなりの急な下り坂になった。せっかく高度を稼いだのにもったいないなぁ、と下り続けること5分以上。この下りは下山時には登りになるわけでちょっとイヤだな、と思ったのだが、これが実際今日の下山時にとんでもないハプニングの原因となるのだった。
間もなく鍋割山と二股方面との分岐になっている後沢乗越に来ると、ここからは道は頂上までずっと登りだけ。ここまでは殆ど人に会わなかったが、二股方面からの登山者が合流してここからは結構登山者を見かけるようになる。道は相変わらずよく整備されていて歩きやすい。冬枯れの枝の間から金色に輝く相模湾と白銀の富士山が眺められ、霜柱を踏みながらの快適な山歩きだ。
暮れに東京の方は結構雨が降ったので、こちらは雪になっていたらかなり積もっているかも、と思ってアイゼンを用意して行ったが、雪は全く見かけなかった。富士山の右側に南アルプスの銀嶺も見えてきた。途中から道はかなり急坂になる。やがて前方上のほうに鍋割山の小屋が見えてくる。道が木道になると視界は一層開けて富士山が良く見える。丹沢からの富士山は太陽光線の具合で午前中がいいので、早く頂上からの富士山を見たくてくぬぎ山からは休みなしで登り続けた。
登り始めて2時間40分で鍋割山山頂(1272.5m)に到着。広々とした丘陵上になった山頂は20人以上の人たちで賑わっていた。中高年はもちろん、子供も山ガールもいろんな世代が混ざっている。
山頂からの眺めは絶景。裾野を悠々と広げた富士山が大きい。富士山は眺める方向によっていろいろな姿を見せてくれるが、こうして東側からの富士山を眺めるのは久しぶり。風はとても冷たいが、上空の風もさほど強くないようで、富士山の稜線も穏やかな表情を見せていた。
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富士山のすぐ右隣りには南アルプスの銀嶺が輝いている。いつも登る鬼ヶ岳からも南アルプスの眺めは素晴らしいが、ここからだと富士山と南アルプスが同じ方向に連なって見える。右から北岳、御正体山をまたいで塩見岳、荒川岳、赤石岳と続く。この写真には写っていないが、その左には聖岳もよく見えた。
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目を左へ転じると海が大きく見える。相模湾の彼方には伊豆大島が浮かんでた。丹沢はこうして海が良く見えるんだな、と実感。風は冷たいけれど微風程度なので、「この冬一番」と予報で言っていた寒さもそれほど厳しくは感じない。手元の温度計はマイナス1度程度で、実際の気温も思ったほど低くない。雄大な景色を眺めながらお湯を沸かし、ラーメンとおにぎりを食べた後はスケッチ帳を出して、富士山と南アルプスが1枚に収まるここからならではの眺めを描きつけた。空など水をたくさん使うところはやはり凍ってしまって描きづらいがなんとか仕上げられた。
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鍋割山から塔ノ岳往復
時刻はまだ午後2時前。上には夕暮れまでいるつもりだが、絵を描いていたらさすがに体が芯まで冷えてきた。このままここで夕暮れまでじっとしているのは寒すぎるので、体を動かしていた方がいい。それなら、ここからコースタイム1時間半で行ける隣りの塔ノ岳まで行ってみようか…
ということで、5年前に登った塔ノ岳に向かった。鍋割山から塔ノ岳の道もよく整備されていて歩きやすく、アップダウンもさほど急ではなく、1時間弱で塔ノ岳山頂(1491m)に着くことができた。眺めは鍋割山よりも一段とダイナミック!富士山までの距離はさっきより遠くなったはずだが、その雄大さはこちらのほうが更にインパクトが強い。
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北側や東側の山々が連なる眺めもとってもいい。こちらは丹沢最深部の丹沢山や蛭ヶ岳などの主峰たちがダイナミックに迫ってくる。その向こうには甲武信ヶ岳や金峰山など、奥秩父の山々がくっきりと見えた。
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前回来たときは空気がもう一つすっきり澄んでいなかったが、今日の眺望は格別だ。海側の眺めも広い。鍋割山からは見えなかった東京湾や遠く房総半島まで見渡せる。それにしても広大な関東平野は東京の中心だけでなく、その周辺に至るまで殆どコンクリートの建造物で埋め尽くされているのがよくわかる。その東京の中心部には新宿の超高層ビルが立ち並び、右手には東京スカイツリーが高い!東京タワーもわかった。なんでも一目のなかに収まってしまう。
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こちらは鎌倉、藤沢方面。江の島が良く見える。
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塔ノ岳からの眺望を十分に堪能して鍋割山へ戻る。時間的にも鍋割山に戻った頃にちょうど日没を迎えられそう。
鍋割山への復路の途中で長い尾を持った鮮やかな羽のキジに出逢った。鹿よけの金網のフェンスの前を何かをついばみながらゆっくり移動していた。 そういえば、前に丹沢に来たときは何度も見かけた鹿に今日は一度もお目にかかっていない。鹿は冬眠しないと思ってたけどするんだっけ、なんて思っていたら… | ![]() |
キジを見たすぐあと、二頭連れの鹿に出くわした。遠くからこちらの様子を窺っていたが、もうちょっと近づいて写真を撮ろうと思って動いたら、素早く谷底へ駆け下りて行ってしまった。肉付きも毛並みも良い鹿だったが、この厳寒のなか何を食べて生きているんだろうか。
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鍋割山へ戻る前、西の空はもうすぐ太陽が沈むころを迎えていた。見晴らしのいいポイントで、染まり始めた雲の合間からしばらく隠れていた富士山がシルエットで姿を現した。
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鍋割山へ戻ったのは日没時。富士山の頂上のすぐ上に分厚い雲が垂れこめていたが、なんとか富士山は雲にかからず、夕映えの美しい風景を見せてくれた。気温はマイナス6度。だいぶ下がってきた。
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地図にスタンプを押しておこうと小屋に入ったら、山小屋のご主人に「これから下山?暗くなっちゃうよ。道わかる?」と言われた。 「ヘッドライトあるし、来た道を戻るんで…」というと、 「それなら大丈夫かな。気をつけて」と言ってもらって下山を開始したが、このあととんでもないハプニングが起こることになる。 | ![]() |
魔界に入り込んだか!? 下山時のミステリー
まだ明るさが残るうちにできるだけ下りてしまおうと速足で下山していたが、5時半頃になると足元のギャップも見え辛くなってきたのでヘッドライトを点灯して歩く速度を緩めた。間もなく「栗ノ木洞1キロ/二股1.9キロ」と書かれた標識がある分岐に来た。もちろん往時と同じ栗ノ木洞へと進む。辺りはどんどん暗くなって、ヘッドライトが照らすところ以外は真っ暗で何も見えない。行きに登ってきた道とはいってもやっぱり心細い。
分岐から40分以上歩いた頃、ようやく次の標識があった。さて、あとどれくらいになったかな、と標識を見て凍った。そこに書かれていたのは「栗ノ木洞1キロ/二股1.9キロ」。40分前に見た標識と全く同じものではないか!!?? 永久に脱出できない魔界へ入り込んでしまったのだろうか。。。???
ミステリーの謎解き
でもすぐに事情が呑み込めた。栗ノ木洞は小ピークで、登山時、下山時どちらもここからは下り坂になる。このピークは広場のようになっていて、一旦到着すると暗闇の中でここから続く下山路を探すのに苦労する。「これだ!」と思って下った道は、実は今まさに上がって来た道だったというわけだ。ここがピークだということを忘れて、道が下っているので下山路だと思い込んでしまった。広い場所ではガスに覆われると道を見失いやすいというが、暗闇は更に迷いやすい。これが頭に入っていなくて、何の疑問も持たずに来た道を戻ってしまったなんて、これこそ遭難の典型的な1パターン。何ともお恥ずかしい限り。
不安の下山
さてどうするか?もう一度栗ノ木洞まで結構キツい上りを行ったとしても、今度こそ先に進めるという自信がない。何度も同じことをやってしまいそうだ。ここは分岐なのだから二股への下山路を選ぶべきではないか。地図で確認したら、こちらは早く林道に出られる。登山道より安全だ。だけど道は6キロ以上もあり、おまけに車を停めてあるところと全然違う場所に下りてしまう。更に標識には「渡渉あり」って書いてある。沢を歩くとなるとこの寒さで絶対氷ってるだろうな。アイゼンは持っていてもツルツルで進めないかも知れない。いっそ鍋割山の山頂まで戻って小屋に泊まろうか… とも考えたが、二股へ下ることにした。
ここから二股を経由して登山口の大倉に辿りつくまでの約2時間、月明かりも下界の灯りも見えない樹林帯で文字通り真っ暗闇のなか、ヘッドライトの明かりだけが頼りの下山は本当に心細かった。暗闇の中で一部だけ照らされたなかを歩いていると平衡感覚が狂ってふらつくし、道を外れそうになったり、路肩に足を落とすことも1度や2度ならず。すぐ近くで「ガサガサ… バキバキッ!」と動物の物音が聞こえたりすると生きた心地がしなかった。途中から林道になったものの、4WDしか入れないようなデコボコが多い道で気は抜けない。渡渉は、なぜか氷っているところはなく距離も短く無事に通過できたのは幸いだったが、心細さに押しつぶされそうになりながらひたすら暗闇を歩き続け、ようやく遠くに民家の灯りが見えたときはどんなにホッとしたことか。
途中の民家でタクシーの連絡先を教えてもらい、大倉のバス停まで下りてきてタクシーを呼ぶことができた。運転手さんがとても親切で「大変でしたね。寒かったでしょう。暖房を強めにしますね。」なんて言ってくれ、「温泉に行きたい」と言うと、車を停めてあるところでタクシーを降りたあと、温泉まで先導してくれた。神奈中タクシーの運転手さん、ありがとうございました。
案内してもらった温泉施設「湯花楽」はバリエーション豊富でとても快適。時間が遅くなってしまってダメかと思っていた食事もゆっくりできて助かった。
日のあるうちは素晴らしい眺めを堪能し、快適な山歩きができた今回の新春登山だったが、特に初めてのところは明るいうちに下山するのが鉄則、ということを思い知った。これまで日帰り登山のときは夕陽を見てから下山することが多かったが、今後これは改めねば…
《歩行タイムデータ》
寄→(1:05)くぬぎ山→(0:19)栗木ノ洞→(1:11)鍋割山 →(0:56)塔ノ岳→(1:10)鍋割山→(0:40)栗木ノ洞/二股分岐→(0:45)栗木ノ洞/二股分岐(゜〇゜;)?????→(2:00超!)大倉
【過去の新年富士を眺める山歩き】
2012 新年富士を眺める山歩き(鬼ヶ岳~節刀ヶ岳~鍵掛峠)
2011 新年富士を眺める山歩き(鬼ヶ岳~節刀ヶ岳~鍵掛峠)
2010 新年富士を眺める山歩き(鬼ヶ岳~鍵掛峠)
2009 新年富士を眺める山歩き(御坂山塊縦走)
2008 富士山を愛でる新年山行(鬼ヶ岳~節刀ヶ岳)
2007 富士山を愛でる新年山行(鬼ヶ岳~十二ヶ岳)
2006 富士山を眺める寒中山行(鬼ヶ岳~節刀ヶ岳)