11月7日(木)堤剛(Vc)/ルドルフ・ブッフビンダー(Pf) ![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/face_warai.gif)
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Music Weeks in Tokyo 2013 プラチナ・シリーズ
東京文化会館小ホール
【曲目】
1. ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第1番 ヘ長調 Op.5-1
2. ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 Op.102-1
3. ベートーヴェン/モーツァルトの「魔笛」の『恋人か女房か』の主題による12の変奏曲ヘ長調 Op.66
4. ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第3番 イ長調 Op.69
【アンコール】
ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第3番~ 第2楽章
お気に入りのチェリストである堤剛が、近年特にベートーベンで高い評価を得ているピアノのブフビンダーとのデュオで、オールベートーベンのリサイタルをやると聞いて是非とも行きたくなった。ブフビンダーは随分昔リサイタルに行った覚えもあるが、これほど世界的に活躍するようになったピアニストのベートーベンには特に興味があった。
堤剛とブフビンダーの奏でるベートーヴェンは素晴らしかった。堤さんのチェロはいつもながらくっきりとした心地よいエッジの効いた音で味のあるラインを深く描く。心身のバランスが取れた堤さんの語り口は、聴く者を真に納得させる大家の趣きを感じる。
ブフビンダーのピアノを一言で言い表すなら「粋」の一文字が似合う。打てば響くというか、弱いタッチでもツボを的確に捉えて、最小限のエネルギーで最大の効果を現す。アグレッシヴとは対極にあって、激することなく敏感で美しいフォルムを保ちつつ、ちょっとした息遣いや、ほんの少しの溜めが効果的なスパイスとなって音楽を覚醒させ、息づかせる。曲の隅から隅までを知り尽くし、何をどうコントロールすれば音楽が最高に息づくかを実践して見せる。指揮者に例えればサヴァリッシュのような巧さと賢人の貫禄を備えたピアニストだ。
そんな二人の演奏は余分な力が完全に抜け、何の抵抗からも解き放たれ、心と心を通わせて交感し合い、デリケートで精神性の高い世界を実現した。第1ソナタでは、古典美ともいえる整った美しさを瑞々しく新鮮な息吹で息づかせ、後期にさしかかる頃の第4番では落ち着きのなかに人生訓のような含蓄を聴かせ、また大人のユーモアも交えた意味深長な趣も出していた。
後半最初のバリエーションで爽やかで清々しい風を吹かせたあと、最後は中期の傑作第3番。ここでも、二人は何の気負いもなく、この音楽のエッセンスを生き生きと鮮やかに迸らせる。フレーズの末端に至るまで呼吸し、血が通い、美しい姿を立ち上がらせて行く様子は、職人技の腕の冴えを感じずにはいられない。もう少し鼻息を荒げてもいいように思うこともあったが、そうしてしまうと音たちの自然の発露が邪魔されてしまうのかも知れない。それだけにベートーベンの心の表面に表れた俗っぽい思いを飛び越えて、魂の声に耳を澄ますことができた。今度はブフビンダーのビアノをソロで是非聴いてみたい。
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1. ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第1番 ヘ長調 Op.5-1
2. ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 Op.102-1
3. ベートーヴェン/モーツァルトの「魔笛」の『恋人か女房か』の主題による12の変奏曲ヘ長調 Op.66
4. ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第3番 イ長調 Op.69
【アンコール】
ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第3番~ 第2楽章
お気に入りのチェリストである堤剛が、近年特にベートーベンで高い評価を得ているピアノのブフビンダーとのデュオで、オールベートーベンのリサイタルをやると聞いて是非とも行きたくなった。ブフビンダーは随分昔リサイタルに行った覚えもあるが、これほど世界的に活躍するようになったピアニストのベートーベンには特に興味があった。
堤剛とブフビンダーの奏でるベートーヴェンは素晴らしかった。堤さんのチェロはいつもながらくっきりとした心地よいエッジの効いた音で味のあるラインを深く描く。心身のバランスが取れた堤さんの語り口は、聴く者を真に納得させる大家の趣きを感じる。
ブフビンダーのピアノを一言で言い表すなら「粋」の一文字が似合う。打てば響くというか、弱いタッチでもツボを的確に捉えて、最小限のエネルギーで最大の効果を現す。アグレッシヴとは対極にあって、激することなく敏感で美しいフォルムを保ちつつ、ちょっとした息遣いや、ほんの少しの溜めが効果的なスパイスとなって音楽を覚醒させ、息づかせる。曲の隅から隅までを知り尽くし、何をどうコントロールすれば音楽が最高に息づくかを実践して見せる。指揮者に例えればサヴァリッシュのような巧さと賢人の貫禄を備えたピアニストだ。
そんな二人の演奏は余分な力が完全に抜け、何の抵抗からも解き放たれ、心と心を通わせて交感し合い、デリケートで精神性の高い世界を実現した。第1ソナタでは、古典美ともいえる整った美しさを瑞々しく新鮮な息吹で息づかせ、後期にさしかかる頃の第4番では落ち着きのなかに人生訓のような含蓄を聴かせ、また大人のユーモアも交えた意味深長な趣も出していた。
後半最初のバリエーションで爽やかで清々しい風を吹かせたあと、最後は中期の傑作第3番。ここでも、二人は何の気負いもなく、この音楽のエッセンスを生き生きと鮮やかに迸らせる。フレーズの末端に至るまで呼吸し、血が通い、美しい姿を立ち上がらせて行く様子は、職人技の腕の冴えを感じずにはいられない。もう少し鼻息を荒げてもいいように思うこともあったが、そうしてしまうと音たちの自然の発露が邪魔されてしまうのかも知れない。それだけにベートーベンの心の表面に表れた俗っぽい思いを飛び越えて、魂の声に耳を澄ますことができた。今度はブフビンダーのビアノをソロで是非聴いてみたい。