Now Creationさんより
2020 The New Earth
A travel report
世界中で新しい地球を共同創造するため、本書を無料で公開する旨、本文中に記されていました。
人名は英語読みにしました。小見出しは翻訳の都合で訳者がつけました。
2020 The New Earth
A time travel report
はじめに
その日、僕たちは浜辺で過ごしていた。本当に暑い日だった。そのときの2週 間で僕の人生は大きく変わった。初めは、僕たちは何も気付かなかった。ネイサンは少し寡黙だったが、それは珍しいことではなかった。彼は優れた観察者であり聞き手なのだ。それに彼はまったく僕のようなおしゃべりじゃない。帰途、僕たちは彼が何か思い詰めているように感じた。その夜、家に帰ってから、彼は話し始めた。僕たちは彼の話にすっかり圧倒され、心を揺り動かされずにはいられなかった。
ところで、今、僕はウィーンでネイサンの物語を書いている。まだ僕にはこのことをどう考えたらいいのか、はっきりせず、いまだにそのことしか考えられない。それなのに、僕もその物語の一部なのだ。ネイサンは、僕に書いてくれと頼んだが、これは彼の物語なのだ。彼は無名のままでいたかったし、Facebook のアカウントさえもっていない。彼はインターネットもとても用心しながら使っている。目下のところ、僕の書いたものを彼の体験と照らし合わせるために、僕らは、ほとんど毎日のようにスカイプで話し合っている。彼の同意なくして公表されたものは一切ない。それはまさに、僕が書いた通りに起こったことなのだ。
彼の物語は信じ難いものだが(僕たちは皆、彼が浜辺で夢を見ていただけだと思った)、非常に説得力をもつ面もある。 僕らが泳いでいる間、彼は浜辺で横になっていた。そのわずか半時間に起きたことにしては、夢とは別の、何か非現実的なものがあった。彼はとても多くのことを思い出せるのだ。本当に真実なのだ ろうか? 僕の友人は本当にタイムトラベルしたのだろうか? 僕には、もうそれが不可能なことだと思えなくなった。それでも僕の心は、ネイサンが僕たちに語ったことを信じたがらない。だから僕はこの本を書くことにしたのだ。なぜなら、それが真偽を見極める唯一の方法なのだから。ところで、最初の2週間でいくつかの点が本当だと証明された。2週間前、誰かが、僕が今ウィーンにいることを予言したなら、僕はそれを笑い飛ばしていただろう。そのような計画などまったくなかったのだが、今振り返れば、完全に説明がつくし理解できることだ。
僕は、今自分がワクワクしていることを認めなければならない。僕はこの本を、 大きな期待と膨らみつつある喜びと共に記している。この本は、彼が最初の夜に語ったことをもとに、細かい部分を肉付けしてある。今のところ、何ら矛盾する ところはない。この物語の結末を書き終えることを楽しみにしている。ネイサンは、僕が2015年の6月までに書き終わることを保証してくれた。
一つ、僕の頭から離れないことがある。ネイサンのことだ。彼はその日を境に 変わり、この件で誰も煩わせたいと思っていないし、その必要もなかった。彼の目にはユーモラスなまじめさがあり、彼には安らぎがある。この性質はまったく新しいものであり、それまでとは違うものだ。彼は僕の世界をも変えてしまった。 そして僕もまた、2週間前と同じ人間ではない。 僕は読者の皆さんが、僕がこの本を書いているときと同じくらい、楽しんでくれればと願っている。この物語が真実かどうかは問題じゃない。僕はその問いを脇におき、この物語がいかに僕らを鼓舞してくれることか、そこに目を向けようと思う。
2020年に会いましょう!
バウチ記す。 Bauchi ( Jesus Vacationer )
“Reconsider how
you look at the world,
because that’s how
you see it.”
Manufacture and printing:
BoD – Books on Demand,Norderstedt
ISBN 978-3-7386-3338-2
Cover: Wu Wang (Aachen)
Translation by Peter Bockermann
To the esteemed Audience!
I welcome you onboard BRAINLINES.
My name isE. Kensington, I am your captain.
Please take a relaxed position,
and try to calm your thoughts.
That way I can guarantee a safe journey,
from which we might not return.
The plot of the story that follows,
and all people in it are not imagined.
Any similarity to living or real people
is NOT by chance!
If something awakens your interest,
it might be useful to do your own research
on the internet.
Nevertheless it is all fiction.
Nevertheless it is all real.
Before you start to read or listen,
allow your SELF to free your mind.
About the risks and side effects,
forget what your doctor or pharmacist would say.
Make your OWN experiences.
I wish all a pleasant journey to the year
2020
The New Earth
A travel report
――ネイサンの物語――
1.浜辺の出来事
6月のある日、僕たちは猛暑の中にいた。焼け付くような日射しだったが、僕は数人の友人と海にいたため、暑さは気にならなかった。むしろ、その暑さが、 僕らが度々海水に身を浸し、自由な時間を楽しむよう誘ってくれた。ストレスのない休日。世界はOKに見えたし、それ以外の見方をすることに何の興味もなかった。友人たちの方に目をやると、彼らは水の中で、見るからに楽しげに遊んでいた。
「人生は素晴らしい!」 それからひそかに思った。「なぜ、いつもこんな風じゃないのだろう?」
僕は目を閉じて背を反らせた。「太陽よ照りつけておくれ。燦々と頼むよ!」 しばらくして目を開けた。僕の体を優しくなでてくれる涼やかな風に、僕は微笑んでいた。体を起こすと軽く目眩がした。あったはずの水筒がない。僕のバッグもだ! それから友人たちもいなくなっていることに気付いた。「大した冗談だな」そう思って立ち上がり、あたりを見回すと、友人どころか、誰もビーチにいないことがだんだんわかってきた。 僕たちは、このビーチが旅行者に知られていないから気に入っていたのだが、 それでも奇妙なことだ。30分前にバナナの皮を捨てたゴミ箱もなくなっている。 僕の周りは緑色だらけになっていた! 僕は夢を見ているのか? これは現実か?
太陽は、先ほどと同じくやはり照りつけているし、海もそこにある。泳ぐために海水に入った。少しの間混乱を忘れたいという思いに駆られたのだ。ところが、 海の中から浜辺や島を見て、僕はショックを受けた。僕はどこにいるのだろう?? 山々の稜線は確認できるが、以前とはまったく違って見えるのだ。いつもの、乾ききったような夏の景色が、今はすべて緑色なのだ。その島に何世紀も無かったはずの森が見える。僕は過去にいるの?タイムトラベルしたのだろうか? 夢に違いない。でも、何もかもあまりにも現実的だ!
僕はゆっくりと泳いで浜辺に戻った。水は腰の高さしかなかったが、砂が僕のお腹をくすぐるまで、泳いだ。僕はそこでワニのように横たわり、動かないまま、 辺りを目で窺っていた。自分が何を探しているのかさえわからない。何か、何かあるはずだ。僕が今見ているものに説明がつくものが。それは僕の混乱した頭をすっきりさせてくれるだろう。気分が悪いわけでも、怖いわけでもない。僕の感覚は完全に研ぎ澄まされている。僕はゆっくり立ち上がり、僕がタオルを置いた場所に歩いて行く。僕は用心しながらそれを拾い上げる。何かが起きてくれることを期待しながら。けれども何も起こらない。いつもタオルが拾われるときのようにタオルは拾われた。僕はタオルを肩に掛け、駐車場に歩いて行く。だんだん、 これが悪ふざけじゃないことがわかってきたが、それでもそこに友人たちがいることを願った。そこに駐車場がないことを僕にはなかなか受け入れられなかった。 その場所はあるのだが、植物が生い茂っており、その中央には焚き火台がある。 そばに行って灰に指を突っ込むと火傷した。ついさっきまで誰かがここにいたに違いない。燃え殻がまだ赤い。
「こんにちは? 誰かここにいますか?コーンーニーチーワー!」ためらいながら声をかけてから、今度は精一杯声を張り上げる。「コーーーンーーーニーーー チーーーワーーー!!!」僕の声に驚いた鳥が、木々の間から数羽飛び立っただけだ。「ここで何が起きているのだろう?」声に出して自分に聞いてみる。すると、僕の質問に答えるように、カモメが頭上でうるさく鳴いた。まるで僕の知らない何かを知っているかのように。見上げると、カモメが島の中心に飛んで行く のが見えた。何の考えもないまま、足が勝手に歩き始め、僕はカモメを追う。カモメが視界から消え、僕は駐車場から通り道に出る。1時間前に通った道も、や はり前と違っている。同じ道だが、僕の周りの何もかもが緑に染まっているのだ。 数百メートル歩いてから気付いたのだが、ただ緑が濃くなっているだけではなく、 周りの植物がすべて実をつけている。熟した果実、未熟な果実がたくさん実って いて、どれもみんな食べられるものだ! 僕は、ブラックベリーの茂みのところ で立ち止まった。よく熟れた果実がたわわに実っている。その藪の中央から、イ チジクの木が突き出ている。僕は喉が渇いていたのを思い出し、水筒もなくして いたので、いくつかつまんで食べた。ああ、なんてうまいんだ! ジュースが僕 の喉をなだめるように下りていく。少しの間、僕は他のことを忘れていられた。 イチジクがこんなにジューシーだとは知らなかった。イチジクは甘くてジューシ ーだ。
2.2020年
少しうっとりした気分で歩いていたが、気が付くと僕は根っこがはえたように 立っていた。少し向こうにタワーが見える。鉄骨フレームの上にドームが乗って いる。前にも似たようなものをビデオで見たことがあった。テスラ・テクノロジ ーのビデオで見たのだが、実在しているものじゃない。その後気付いたのが、そ のタワーから200メートルくらい手前の家。古いぼろ家だったはずなのに、廃墟 でなくなっている。それどころか大きく見えるし、きちんと修復されている。誰 も住んでいないようだ。ブラインドが閉まっていたが、テラスのドアが開いてい て、白いカーテンが微風にそよいでいるのが見える。
魔法にかけられたように、僕はその家に向かっていた。僕の周りはどこもかし こも命が活気づいている。虫たちのブーンという羽音、鳥のさえずり、コオロギ の鳴き声、まるで互いに競っているようだ。かなり大きい音だが、同時に静かで もあり、全体が調和している。僕はテラスに立って「こんにちは」と声をかけよ うとしたら、突然、女性が出てきて、僕を見て微笑んだ。
「こんにちは。あなたがここに来てくれて嬉しいわ。一緒にレモネードでも飲ま ない? 今ちょうどつくったところなの!」彼女は僕をテーブルに招いてくれた。 テーブルの上のグラスが陽に輝いている。彼女は手にしていたピッチャーをテー ブルに置き、遠慮の無い親しい調子で「あなたのことを何て呼んだらいいかし ら?」と言った。
「ネイサン」用心しながら僕は答えた。それから初めて彼女を間近に見た。彼女 は僕と同じくらいの年齢で、茶色い髪が肩にかかっている。彼女は、僕が思わず 息を飲むくらい優しい目をしている。 僕はすっかりどぎまぎした。僕の声の魅 力はどこへ消えた? うまく言葉を選べない。僕の自信はどこに行った? 僕は いつもは内気じゃない。でもこの時は、穴に入って隠れてしまいたかった。ここ は一体どうなっているのだろう?
「こんにちは、ネイサン。今日、あなたがここに立ち寄ってくれて本当によかっ た。他の人たちはよそへでかけているの。だから私、ここに座って一人でレモネ ードを飲んでいた方がいいと思ったのよ。私はサミラ。あなたをお迎えできてと ても嬉しいわ」彼女が手を差し出したので、僕もそうした。彼女はレモネードを グラスに注いで僕にくれた。楽しそうに無邪気に僕の目を覗き込む。彼女は僕に 会えて本当に喜んでいるようだ。レモネードはすごくおいしくて、喉を潤してく れた。さっきのベリーやイチジクとは違うおいしさだ。僕が一気に飲み干すと、 彼女はキャッキャッと喜んでいる。
「その飲みっぷりが何よりの褒め言葉よ!もう一杯どう?」僕は息をはずませな がら、彼女がレモネードを注げるよう、ありがたくグラスを差し出した。彼女は 自分の分を飲む前に、笑いながら注いでくれた。そこに座っている彼女はとても 愛らしい。モデルや美人コンテストの女王とは違い、単純にただ美しいのだ。内 側の美しさが外に輝き出ている。またもや僕はうっとりした気分になり、礼儀作 法もすっかり忘れ、僕の口からは一言も言葉が出ない。彼女は微笑み、椅子の背 にもたれ、満足そうに目を閉じた。彼女は少しニンマリしてからこう言った。 「あなたはここの人じゃないでしょう?」「まあ、そうなのだけど、自分がどこ にいるのかわからないんだ」
驚きと好奇心で彼女はまた目を開け、僕の心を探るように見ている。 僕は続けて言った。「この島は知ってるし、数年間ここで暮らしたけど、僕が覚 えている島とはまったく違うんだ。もしかして夢を見ているのかなあ?」 「わからないわ。ここではどんなことを体験したの?」彼女が尋ねたので、僕は 起きたことを何もかも彼女に話した。彼女は、僕を不思議そうに見ているが、僕 をジャッジしているふうでもない。彼女のまなざしが、僕の話を真剣に受け止め てくれていることを語っていた。今と前とで何が違うか彼女が尋ねた。
「どういうわけだか、何もかも違う。島にいることはわかっているのだけど、ま ったく違っているんだ。最初に気付いたことは、島に緑が生い茂って青々として いること。それは僕が知っているここの夏景色じゃない。それからゴミ箱がなく なっている。駐車場も通り道も緑と果実でいっぱいになっている。それから後ろ にタワーもあるよね。どう言ったらいいのだろう? 30 分前か、僕がここに来 た 1 時間前、この家は崩れかけていて、友だちにそのことを話していたんだ。 誰もこの家を利用しないでもったいない。どれだけいいものが台無しになったこ とかってね。今は平行宇宙にいるようだよ。すべてがそうあるべきようになって いるからね」
彼女は考え深げに、けれども好意的に僕を見て、その後タワーに目を向けた。 「ネイサン、今年は何年?」
「僕の知る限りでは 2015 年」そう答えるが、もう何についても確信がもてない。 彼女は驚いた様子で僕を見ている。彼女は少し考えてから優しい声で話した。そ の声に僕はまた魅了された。
「我が友よ、あなたは記憶喪失かタイムトラベラーだわ。現在、もし私たちが年 を表記するとしたら 2020 年よ。というのも、私たちにとってそれは重要なこと ではなくなったの」そして微笑みながらこう付け加えた。「どちらがお好き?」
こんなことは思いもよらなかったので、まったく困惑してしまった。
「深刻にならないで。ただこっちかあっちか聞いただけよ」僕はその答えを考え てみた。
「何の考えも浮かばない。何が起きたのか、どうやって島が5年間でこんなに変 わったのか僕には分からない。家に帰りたいと思うけど、ここから 20 ㎞離れて いるんだ。僕たちは車を運転してここに来たのだが、誰も見つけられない。多分、 ヒッチハイクすればいいかもしれない」
彼女は僕を見て明らかに楽しんでいる。何がそんなにおかしいのか、僕には 分からない。僕は本当に笑えるような気分じゃないのだ。とても当惑しているの だから。
「多分、あなたのお役に立ててよ」と彼女は言った。「この5年間でたくさんの ことが変わったの。この島だけでなく、地球全体がそうなのよ。私、あなたにつ いて、まだあなたが知らないことを知っているわ。けれど、あなたがそれを自分 で見つけていく楽しみを台無しにしたくないの。少しあなたに話をしてから、家 に帰る方法を教えてあげましょう。それでいい?」
「それでいいと思う」僕はそう答えたが、実のところ他にどうしようもないのだ。 僕は興味と好奇心に引かれて彼女を見た。サミラは椅子の背にもたれると、深呼 吸して話し始めた。
― 3.変化の始まり
「あなたは 2015 年の前半まで経験して、あなたの今は 6 月の半ばなのね。だっ たら、まだあなたは 2015 年の大変化を経験していないわ。大勢の人にとって大 きな変化の年だったのよ。特にその年の後半は、大変化の時だったの。きっと他 の人たちが、もっと詳しくあなたに説明するでしょうから、私は本質的なことだ け話すわね。その変化は一夜で起きたみたいだった。政治情勢が劇的に悪化して、 当時は、ヨーロッパは大戦争に直面していたの。でもほとんどの人たちにはわか っていたわ。自分たちが創り出さなければ、戦争は起こらないって。だんだん人 々は、上からの命令を無視し始めるようになった。上に協力するのを拒否して、 自分自身の権威のもとに生き始めたのよ。インターネットも私たちが国際的に組 織化するのに役立ったわ。このようにして私たちは互いに助け合い、行動を起こ し始めたの。それぞれがそれぞれのやり方でそうしたのだけれど、決して一人で 孤立してたわけじゃない。私たちは、自分たちの権利と常識を守るためにそうし たの。それはあらゆるレベルで同時に始まったのよ。親も子供も一緒になって、 強制的な学校規則を無視し出した。多くの人たちが、もはや仕事には行かなくな って、公園と森に突然興味を引かれるようになったの。私たちの周りの生命体が、 個人レベルで一層大切なものになり始めた。だって、私たちは相互依存の関係に あるのだから。たとえ、同じ人間の本質、ましてや動物の本質に気付いていない としても、そうであることに変わりない。
賃借人は所有者に賃借料を払うことを止めたの。だから所有者も銀行に返済できなくなった。大手の銀行家は辞職し、連帯することを表明した。政治家までも が、行動を共にすると言い出し、自分の地位を捨てた。起きたことをうまく言い 表すには、民衆が階層制度のピラミッドを崩壊させた、と言えばいいわね。いく らか社会的動乱もあったけど、以前ほど大きなものではなくなった。平和でいら れるようになったので、そのような動乱からくる不安が打ち消されていったの。 以前のシステムでは、人々は永遠にストレスに晒されていたけれど、そういう人 が少なくなったので、平和でいられるようになったのよ。空いた時間は自分たち のためにあてたの。私たちは、互いに対立するのではなく、共に良い生き方がで きるように、世界中で繋がってアイデアを交換し合った。本当は不足していたも のなんて何にもなかったのよ。利用できなかっただけ。お金が厳しく統制されて いたから、不公平に分配されていたの。
しばらく経つと、主流メディアも変わらざるを得なくなった。問題指向の番組 制作をしなくなり、本当に問題解決を励ますようなものが出てきたの。他にも、 とても重要な変化があったのよ。私たちは、自分を他者の上におこうとすること と、他者に恥をかかせようとすることを、ほとんど自動的にやめたの。最初は、 風のささやきみたいだったのが、突然誰もがそれについて話していたわ。もし私 たちがネガティブな面だけ見続けて、他人のよそよそしさや、弱点や間違いだけ に心がとらわれていると、結局自分たちが損するだけなの。私たちの時間の 90 %を批判に、10 %を称賛することに費やす社会では、人生がちっとも面白くな かったのは当然だわ。誰もが、自分が顧みられていないように感じ、私たちは皆、 もっと成長するように駆り立てられるけど、誰もがそうするだけの熱心さを失っ ているように見える。たとえあなたがベストを尽くしても、ほとんどネガティブ なフィードバックしか得られず、それだと人生の面白みが奪われていくわ。
次第に、そういうことに無関心だった人たちも、私たちが互いに交流し合う中 でそのような変化が起きたことと、誰もがいつでも別のやり方を始められること を悟ったの。そのようにして、2015 年の終わりまでには、大勢の人々にとって 人生はより良いものになった。なぜなら人々はこれまでとは違うように振る舞い 始めたからよ。人々の周りに、ストレスとなる人がいなくなり、居心地のいい人 ばかりになったとき、人々は相対するものに美と善性を見始め、人生を享受し始 めた。人々は批判するより褒めるようになったのだけど、それはさほど難しいこ とではなかったわ。特にその年の終わり頃、メディアが変わり始めてからは。そ して、ごくわずかな人しか夢見ていなかったことが起きたの。私たちは、互いの 中に戻る道を見つけたのよ」
僕は今聞いた話に心を奪われた。僕は夢を見ているに違いない。そんなこと現 実であるわけがない! 数回、腕をつねったら痛かった。僕の人差し指も、野外 炉で実際に経験したことを思い出させた。サミラはレモネードを一気に飲み干し、 僕もそうした。喉の渇きが暑さのせいなのか、僕がはまり込んだ状況のせいなの かわからなかった。
「私はもう十分話したわ。家に帰りたいと言っていたけど、裏に自転車があるは ずよ。でもよければ、もう少しいればいいわ。マニュエルがもうすぐここに来る 気がするの。彼は喜んであなたを車で送っていくわ。彼がきっと車の中で、もっ といろいろ教えてくれる」
僕は返事をせず、例のタワーを見ていた。終始気にかかっていたタワーを。
「あのタワーは何のためにあるの?」僕は尋ねたが、彼女が答える前に、一台の 車が私道に入り、近づいてきた。まったく音もたてずに。
4.マニュエル
「ほーらね。言った通りでしょう」サミラは歓声をあげている。 「マニュエルだわ。迎えに出ましょう!」 彼女はもう彼のそばにいて、僕は出遅れた。彼女は彼を抱きしめて心からのキ スをしている。僕は「ああ、彼女のボーイフレンドか旦那さんなのだな」と思い、 自然に歩みが遅くなる。二人はハグし終えると、サミラが僕のところに戻ってき た。
「マニュエル、こちらはネイサン。ネイサン、こちらはマニュエル。ネイサンが ちょうど立ち寄ったので、一緒にレモネードを飲んでいたところよ。彼はとても 面白い話を聞かせてくれたの」
大きなフレンドリーな笑みを浮かべて、マニュエルが僕に近づき、挨拶のハグ をする。僕はそれに抵抗できなかったが、あまり抵抗したいとも思わなかった。 彼のフレンドリーなカリスマ性が、僕に安心感を与えてくれる。
「ようこそ、アミーゴ。君に会えて嬉しいよ。ちょっと混乱しているように見え るけど、大丈夫かい?」
僕は当惑した。何て人たちだ? 僕は、僕の周りにヒッピーがいることに慣れ ているし、僕自身も似たような者だと思っている。互いに親しく触れ合うことに も慣れているし、男同士でハグすることさえある。でも、ここでは・・・・・・何かが 違う。より本物でとても自然だ。僕には説明できない。彼は真っ直ぐに、僕の「す べては大丈夫さ」というすまし顔を見透かして、直接それを口にしたのだ。とても思いやり深い人物だ。二人の思いやり深い人たち。それでも疑問は残ったまま。 僕はどこにいるのだろう??
マニュエルが「どんな話をしたんだい?」と家に続く道の途中で聞いてきた。 僕は、サミラが僕に話してくれたことよりも、僕の話の方が彼らにとってずっと 面白いことに気が付いた。僕はすっかり混乱しきっていたので、座らなければな らない。僕は目眩に襲われた。すると、二人は即座に僕を支えてくれた。
「しっかりして。君をベランダに連れていくよ。そこで気を取り直したらいい」 僕にはどちらがそう言ったのかさえわからない。気付くとベランダの椅子に座っ ていた。僕はグラスを取り――3杯目の極上レモネード。この暑さにもかかわら ず、まだひんやりしている――少しすすった。サミラは屋内に入っていき、マニ ュエルが僕のそばの椅子に腰掛ける。僕は、彼が注意深く僕を見守っているのが わかる。僕は再び彼の大きな愛情と暖かさを感じ取った。それは僕には説明でき ないものだ。僕は、まるで自分が世界で一番重要な人物であるかのように尊ばれ、 気遣われているのを感じた。それは言葉では表現できないものであり、まったく さりげないものだった。
彼が笑みを浮かべて「良くなったかな、アミーゴ?」と尋ねる。僕は彼を見て、 彼の眼差しに心打たれた。僕は、本当に友人たちには恵まれている。何かあった としても、共にうまく切り抜けていくだろう。しかし彼の眼差しは、愛と思いや りと慈悲に満ちており、僕には馴染みのないものだった。しかし、居心地の悪さ はまったく感じない。それは誘惑とかゲイとかには一切関係なく、父と息子の間 にあるようなものだった。サミラがクッキーのお皿を持って戻り、卓に加わった。 僕は喜んで一つつまむ。すごくおいしい。「ネイサンは 2015 年の 9 月以降に起 きたことを何も覚えていないの。たとえ、経験していたとしても」サミラがこう 言ったのは、マニュエルがまだ僕に何も聞いていないと思ったからだろう。マニ ュエルは眉を上げてみせたが、何も言わない。僕が何か言う機会を与えてくれて いるのだ。僕は簡単に話を繰り返すと、彼はとても興奮した。
「よくある話じゃないよねえ」彼は笑ってから、「気分は良くなったかな、大丈 夫かい?」と単刀直入に尋ねた。
僕は大分良くなったので、そう答えた。ともかく、二人のおかげで、僕は混乱 の中で自分を見失わずにすんだ。
「サミラは、僕がどこにいるのか教えてくれたのだけど、僕の頭はそれを信じた がらない。タイムトラベル? 記憶喪失の可能性はもっと薄い。だって 2 週間 前の脚の擦り傷が、とっくに治っているはずだもの。それに 5 才も年をとった なんて思えないよ」疑問点を話しているうちに、僕の頭がすっきりしてきたよう だ。感覚が戻り、自分に何が起きたのか本当に知りたくなった。
「さて」深く考え込んでいたマニュエルが口を開く。「もし君が本当に自分に起 きたことを知りたいのなら、まずはそれを信じないと。もし君が何かの存在を信 じなければ、君はそれを理解することができないよ」彼はそれを自明のことであ るかのように、そして愛情を込めた調子で言った。
「僕自身はまだタイムトラベルを経験したことないが、インターネットでは、タ イムシフトを経験した人たちがどんどんレポートをあげているよ。そういうこと に興味をもって調査に没頭しているグループがある。僕たちが、時間は直線的で はなく、空間は、僕たちが前もって存在を把握することにおいて存在する、と学 んで以来、僕たちの目の前には、調査すべき、まったく新しい時空連続体がある んだ」
「待って、ストップ! 一つずつお願い!インターネットはまだ存在していて、 時間は直線的じゃないの?」と僕は尋ねた。彼らは二人とも心から大笑いしたの で、僕も一緒に笑わずにはいられなかった。自分の言ったことの何がそんなにお かしいのかわからないが。
「インターネットはまだここにあるわ。多分あなたにはそれを認識できないでし ょうけど」僕たちの笑いがおさまってからサミラが説明する。「そして時間は直 線的じゃないのよ。私たちはただそのように知覚しているだけ。昔アインシュタ インが言っていたでしょう。時間は相対的なものであり、時間に限らずあらゆるものがそうだと。あらゆるものは観察者の視点から見られるわけだから、あらゆるものが相対的なのよ。5 分間があっという間に感じる場合もあれば、永遠に続 くように感じるときもある。人によってそれぞれよ。これまでの定説が消えてか らは、それを探求する価値があることが、私たちに明らかになってきたの。最初 の人たちがそれを探求し出したら、異常性のレポートが次々に集まり始めたのよ」
「ごめん、ちょっと質問させて。UFO はもう着陸した?」 彼らはプッと噴き出し爆笑した。だから僕も笑わなきゃならなかった。どっき りショーみたい。 「いいや、ネイサン、僕のアミーゴ。それはまだ起きていない。それが起きるの を待っている人はまだいるけど、僕たちしか宇宙にいないと思っている人は、地 球にはいないと思うよ。絶対、僕らだけが唯一の知的生命じゃない。今日では、 僕らが『ここから来た』のではないこと、宇宙によって命が創られたが、地球で 発達したのではないことを、僕たちは皆知っている。僕たちが周りで見ているも のすべて、何もかもが意識によってまとめられているんだ。僕たちは地球の外に 存在するものと接触しているよ。僕らのインナーネットを通じてね。ますます多 くの人たちがアクセスするようになってきたんだ」マニュエルは僕のいぶかしげ なな顔つきを見て続けた。
「すべてのものがあらゆるものに繋がっている。つまり、分離というものは存在 しないんだ。それは僕たちの想像の一部。だって僕たちが知覚するあらゆるもの が僕たちの想像の一部なのだから。僕たちがあらゆるものを我々自身の中に知覚 するのはそのためだ。そして我々自身の中にすべてであるものに通じる戸口があ る。テレパシーを知っているだろう? 僕らが話題にもしていないことを、言い 当てることができるよ。例えば、僕が戻る少し前に、サミラは、僕が間もなくこ こに着くことを感じただけではなく、それを君にも伝えた。こういうことは、僕 が今言ったインナーネット上で機能するんだ。その名前はほとんど自然についた 名前だよ」
「午後のひとときにしては、随分たくさんの情報だったなあ」僕は深呼吸しなが らそう言った。
「あそこのタワーは何? ニコラ・テスラの実験を思い出すのだけれど」 気を 立て直すために話題を変えようとした。
「よく分かったね。いい線いってるぞ」マニュエルが笑いながら言う。
「たった今僕は、車がいかに静かに走るか考えたんだ。僕とサミラにとって、そ れは何も珍しいことではないし、いつもと違ったところもなかったので、僕はそ の考えが君から来たのだと推測した。この通り、僕たちは皆繋がっているんだよ。 君だってそうさ。君がまだ意識的にそれを利用できないとしてもね。君はいつだ ってずっと繋がっていた。タワーは特定の場所に建っていて、テスラが『スペー ス・エネルギー』と呼んだものを我々に供給しているんだ。2016 年に、それに アクセスできるようになった。それを開発している研究者が、迫害されて中断さ せられたりしなくなったからだ。最初の実用モデルはあっという間に利用できる ようになり、今も進化している。中には、景観を損ねないように植物で覆って見 えなくしているものもある。私たちにエネルギーを供給しているだけでなく、イ ンターネットも電話もそれらを通して使えるようになっているんだ。車もこのエ ネルギーを利用して走っているよ。タワーに近づくと自動でチャージされるバッ テリーが搭載されているんだ」
5.エリートから力を取り戻す
僕が「みんな・・・・・・君たちみたいなの?」と聞くと、今度はサミラが、 「そうでないことを願うわ」と答えた。 「でもあなたが何を言いたいか分かるわ。あなたもすぐに、人々が変わったこと を自分の目で見ることになるわよ。今では、私たちはお互いにすごくフレンドリ ーなの。地球はとても親しみのある場所に変わったのよ。あなたは、動物たちも 変わったことに気付くでしょうね。エネルギーの変容が動物たちにも影響を与え たの。今ではずっと人間を信頼している。多分、私たちが、もう軽々しく動物を 食べなくなったからだわ。たとえまだ私たちがそうするにしても。あなたはフェ ンスがないことも気付くはずよ。あらゆるものが、すべての人に利用されている から。それもまた、誰にも命じられずに起きた変化なの。所有権という考え方は 消えたの。つまり、誰も自分のものを取られる心配がないということよ。誰もが 必要なものを何でももっている。だって、何でもそこにあり、今では自由に利用 するだけなのだから」
「エリートがそんなこと黙って許したの?」と僕が聞くと、二人ともにこやかな 顔で僕を見返した。
「エリートねえ・・・・・・」とマニュエルが言う。「君の考えでは、誰が力をもって いるんだい?」
「まあ、政府、企業、銀行などピラミッドのトップにくるものでしょう」
「私がさっき言った通り、2015 年に私たちみんなで、ピラミッドに盲従しなくなったとき、ピラミッドは崩壊したの」とサミラが言った。「いわゆる有力者に は、それを止めることができなかったわ。だって彼らに力なんてないのですもの。 少なくとも、誰かが他の人より多く力をもっているわけじゃないわ。私たちは気 付いたの。私たちが、エリートも含む、私たち一人一人が力をもっており、かつ また、この力が引き起こしたあらゆるものが、私たちのものであることをね。誰 かが他の人を支配することもできるわ。もし人々がそれを許すなら。この服従こ そがすべての醜い出来事の原因だったのよ。戦争、飢饉。だから私たちは少しず つ力を自分たちに取り戻したの。私たちが正しいと思ったことや、互いの助けと なることをを行うことで。そうやって長い間隠されていた幻想が暴かれて、もは や影響を及ぼせなくなったの。そのことが、おそらく、変化を引き起こした一番 重要な要素だわね。私たちは、取り戻した自由を行使した。自由と共に私たちの 力もね。いかに私たちの日常行為が、自分たちに影響を及ぼすか、私たちは少し ずつ学んでいったわ。どれほど私たちの行ったことが、実際に私たちを傷つけて いたか分かったの。私たちがそれを認識したとき、私たちはほとんど自然にそれ をやめたわ。私の知る限り、当時、超人的というか、超常的なことをした人が誰 もいなかったという事実に、驚異の念を持たざるをえないの。まったく突然にす べてが可能になり、私たちがこれまでとは違う振る舞いを始めたとき、私たち皆、 良い振る舞いができるようになっていたわ。人生はまた楽しいものになったし、 多くの人たちにとって、それは何か新しいものだった。だから私たちは人生をも っと享受しようと思ったの」
僕は「つまり、君は僕に、もはや犯罪や飢えや憎しみや戦争が一切無いと言っ ているんだね?」と疑わしげに尋ねた。
「まずないよ」とマニュエルが言う。
「警察も刑務所もないし、弁護士や裁判官も、もういない。誰だって間違いは犯 すが、我々は、罰する代わりに助ける方に興味があるんだ。間違いを犯す人たち の幼少期の問題を割り出せるような情報に関心がいくし、大事に思う。二度と過 ちを犯さないように助けてあげられるからね。そのために暴力はもう必要ないん だ。僕らは、必要なのは理解することだと知っている。以前は、理解するための 情報が監獄にしまい込まれてしまったが、今は誰もが豊かに情報を得られる」
「それなら、あなたは犯罪者に同情するの?」 僕は知りたいと思った。
「いいや、我々はただ一つのことが別のことにどう導かれていくか理解して、皆 互いを見守っているんだ。何か問題に繋がるようなものを見たら、我々は割り込 んで、それを避けるように助ける。その方が、そういうことが起こるがままにし た神を責めるより、ずっとましだよ。神を責めても結局は、それが起こるがまま にして、十分気にかけてあげなかったのは我々の方だと思い知らされるまでさ」
「神についてはどう考えているの?」と僕は尋ねた。
「そのことは、君を送る途中で喜んで話すよ。君は自分の家がどうなっているの か気になって仕方ないようだ。君の立場になってみれば当然だ。さあ、行こう。 途中でいろいろ見せてあげるよ」
僕はサミラに目を向けた。
「そうしてちょうだい、二人とも。気にしないで、ネイサン。また会えるわ。そ う感じるの。いつだって心の底からあなたを歓迎するわ」
僕らは立ち上がって別れの挨拶をした。彼女は僕を長いこと愛情を込めてハグ してくれた。そして僕にも、マニュエルにしたのと同じような親密なキスをした。 僕はショックで反応できず、気付くと膝の力が抜けていた。それから彼女はマニ ュエルにも同じように接した。僕は、頭の中が真っ白だったが、僕の内側では喜 びが弾けていた。
「君もすぐに慣れるよ」マニュエルが、彼女から体を離すとき、笑いながら言っ た。
「今の世界は愛に満たされているんだ。我々が5年間かけて築いてきたんだよ。 2015 年からのタイムトラベラーには、さぞかしショックなことだろうと思うよ」 彼は僕の腕を取り、僕たちは車へ向かった。
ボーッとしたまま、僕はサミラに手を振る。僕のタオルが彼女の肩にかかった ままだ。それから彼女が視界から消えた。
(6へつづく)