2月12日
ホテルの仕事がハードなものになると、まるでスポーツに挑んでいるかのように身体中の血管は激しく全身を駆け巡り、頭の情報処理能力は情緒だとか侘び寂びだとかいったスローライフの欠片すらも取り入れる余地はなく、時間の経過は暇を持て余した時の1日と同じ時の流れを刻んでいるとは到底思えない。それほどまでに自分は今の勤務先の仕事に力を注ぎ込む。それは別に自分の意識の高さへの慢心だとか、そんなチンケなものの見せしめを行いたいわけではない。単純に忙しい時のこと表現している。しかしくどくどと言い回しを並べても、この言葉以上にわかりやすいものはないように思う。「忙しい」ただそれだけなのだ。
2月といえば世間全体でいえば観光業界はいわゆる閑散期に入る。例外としてスキー場などは別になるが基本はどこも暇だ。テーマパークとか沖縄とかその他あらゆるホテルや旅館なんかはそこまで忙しいイメージはない。まあ蟹シーズンとかが売りの日本海側の温泉地などはまあそれなりに人は来るかもしれないが。それでも大体、2月なんて寒くて大型連休があるわけでもなくて、クリスマスとか年末年始とかが過ぎ去った後だからとりあえず今月は旅行もせずに働こう。そう思う月なのだと自分は思っている。そこまでディテールが細かいのかはわからんけれど。
自分が住んでいる長野県のいわゆる八ヶ岳のエリア、ここは一応スキー場があるのはあるのだが、自分が働くホテルは特にそういったものと系列しているわけでもない。スキー場からそう近いわけでもないし、基本は星空観察とか登山客とか高原野菜を楽しむ人とかが泊まりに来るので、それらがあまり楽しめない2月は閑散期になる。年末年始の多忙に次ぐ多忙、バトルフィールドとも形容して差し支えないあの年末年始に比べたら、2月の忙しさなんて屁でもないだろう。そう考えていた。
そして1月の終わり、渡されたシフト表の「休」の文字の多さに言葉を失いそうになったのも記憶に新しい。なんと、月の全体の半分も出勤しないではないか。5連勤、6連勤とかがザラにあった12月と1月の勢いはどこに行ったのだ。2月のリゾバ、観光業界の宿命、1年の移り変わり、四季を感じられる日本。こんなもので季節感など味わいたくもないのである。くそう。2月というのは、なんて暇なのだろう。そしてこの辺りはなんて何もない地域なのだろう。八ヶ岳と雪に覆われた広大な畑しかないじゃないか。くそう。
そんな暇だ暇だ仕事をくれと嘆きながら休館のホテルの寮で過ごして、あとは適当に出勤日に仕事をするという、そんな意識の低さでどうにかなると思っていたのが大いなる見当違いだったのである。仕事はあったのだ。それも昨日と今日と、明日の朝。
おそらくだけれども、昨日の夜に至っては何故か年末年始くらい人がきた。原因はよくわかっていない。本当にチラッと聞いたような話だけれども、何やらコンサート関係でそれを観にくる人が宿泊に来たとか。しかしこんな八ヶ岳と広大な畑しかないところでコンサートだ?自分の聞き間違いだろう。しかしそれにしてもやたらと人が多かったようで、昨晩といえばレストラン担当の人たちはあちらこちらと厨房を駆け巡り、洗い場担当の自分たちは時間差で運ばれてきた洗い物たちの容赦ない攻撃に心身ともにそれなりのダメージを受けたわけだ。まあそれなりではあるけれども。なんとか耐えられ、そして次の朝。
いわゆる今日である。7時30分に洗い場に行き、朝食を食べ終わったお客さんから下げられてくる洗い物の数々を的確に汚れを落としなおかつ俊敏に水洗いしそして洗浄器にかけていく作業が始まる。以前朝出勤した時、80人ほどのお客さんの規模もまあまあ忙しくてはあ疲れたとか言っていたのが、今日は普通に150人と倍近くになっていた。これはマジで意味不明でそもそもそんなにうちのホテルってお客さん入るんかいと、この時初めて知ったような規模の大きさであった。なんかもうこのレベルになると冒頭に言った通りスポーツなのであるこんなものは。もう頭でどうしようこうしようとか考えている暇はない。動いているうちに頭の中で行動規範を作り上げているうちに動いている、そんなレベル。いつもは9時半になると朝の洗い場は大体落ち着いてくるのだが、今回は落ち着かなかった。そのまま残りの洗い物をレストラン担当に任して厨房を後にする。
そしてここからが本番となる。自分のメインとなるのは客室清掃なのだ。150人くらいの客がチェックアウトした部屋を全て掃除しなくてはならない。清掃の担当は大体10人ほどの少数チームパターン。ここからが地獄だった。朝のミーティングで社員の方が、今日は今まで一番忙しい日だとあっさり言いのける。それを聞いているパイプ椅子に座っている自分、その右手はすでに洗い場で使い続けた神経の疲労により細かく打ち震えている。個人的には今一緒に仕事している人たちのほとんどは好きな人であるし、それだけが救いだった。その人たち一緒に頑張ろうと思えるからこそ乗り越えられたようだ。ベッドメイキングの数々に、ゴミの分別、なんか色々目まぐるしかった。よくわからんし疲れたし疲れた。もう述べられることはない気がする。でも学んだことは2つくらいある。閑散期でも忙しい日はあるということ。リゾバというものは、そしてホテルで働くというものは、スポーツに近い神経を求められるということ。なんかそんな具合である。以上です。すみませんなんか色々捲し立てて。寝ます。