佇む猫 (2) Dr.ロミと助手のアオの物語

気位の高いロシアンブルー(Dr.ロミ)と、野良出身で粗野な茶白(助手のアオ)の日常。主に擬人化日記。

ダーティワーク 2.温かい会社

2018年12月24日 | 手記・のり丸

私は10代で家出をした。
まだ「この世界」の仕組みを知らず、馬鹿で無知であった。 

私は親に背いた子供だった。
親の自我に完全に取り込まれてしまい、心理的に背くことができない人もいるだろう。
私は取り込まれなかった…というより、本当は親を信頼していたから堂々と背けたのである。
 
 
前世、太平洋戦争で陸軍に所属していた私は(という設定)、南の島で野営をしていた時、野ウサギに遭遇した。
私は野ウサギを見て一瞬顔がほころんだが、すぐに仏頂面に戻った。
前世の私は男らしく鬼瓦のような風貌をしており、そのキャラを貫き通した人生だった。
 
 …もう、うんざりだ。 
命令と服従、思想の強制、前世の私はそんな「頭カチカチ」の時代に心底うんざりしながら死んだ。
(因みに、今世の私は「何かの罰ゲーム」のような女顔に生まれ、小動物を可愛がっていても違和感のない風貌である) 
 
現代における私も、納得出来ない命令をされたり、価値観を規制される環境を嫌った。   
 
「勉強しなければブン殴られる」という家庭環境で育った私は、性格が屈折しただけで賢くはなかった。 
「1を聞いて10を知る」ような聡明な人間ではないので、失敗から学習し、体験を通して「この世界」を知るという方法しか思いつかなかったのである。  
 
その為、向き不向きは関係なく、ひたすら目の前の仕事を全力でこなしてきた。
特にこれといった趣味もないので、ただ仕事をしながら今日まで来た、といっても過言ではないだろう。
(つまり面白味のない仕事人間である)
 
何種類もの職業を経験してわかった事は、どんな人にも適材適所の場所が必ずあるという事だ。
可能ならば、諸条件にとらわれず自己の特性を生かせる仕事に就いた方が良い、ということである。
 (…あくまで私の考えでは、だが)
 
 
 
ある日突然、私の「脳腫瘍」が発見された。
晴天の霹靂であったが、悩む間も無くすぐに手術をすることになった。 
最初の手術の日は今ぐらいの時期、クリスマスの頃だった。
 
【ドクターとナースのサンタに囲まれて】
皆の顔がわからない程度に縮小している。 
手術前日で緊張している私(中央)である。 
 
さて、脳腫瘍の話は本題から外れるので簡単に書いておく。
 
 脳腫瘍がきっかけで変わったこと 
1.虚弱体質になった。 
2.自営業を始めた。 
3.夜遊びができなくなった。
 
潰しのきかない身体になったので、具合の悪い時に休む為に自営業を始めた。 
ただそれだけの理由で始めた自営業であったが、幸運なことに最初から顧客に恵まれ、自分一人が生活していく分は「稼ぐ」ことができた。
しかも私は顧客に感謝され、チヤホヤされ、持ち上げられていた。
だんだんと私は「本当にこのままでいいのだろうか?」と思うようになった。
 
もしかして私は身体をいたわりすぎているのではないか?
もう元気になっているのに、病気を言い訳にして向上心を失ってしまったのではないのか?
それ故、こんなに心が空虚で満たされないのではないのか?
…次第に、そんな考えに囚われていった。
 
 
そんな折、私は同業者に声を掛けられた。 
なんでも尼崎にある「悪徳株式会社(仮名)」という会社が「資格持ちの経験者」を急募しているという話だった。
(※以下、会社関係の名前はすべて仮名である)
 
当時私は神戸に住んでいたが、尼崎の会社に見学に行くことにした。
私にしては突発的な行動であった。
 
会社見学は18時に予約をしていた。
会社はバス停の傍なので、バスで来てください、とのことだった。 
 
私は予定より1時間早めに尼崎に到着し、乗るバスを何度も確認してバスに乗った。
結論から言うと、乗ったバスは反対方向であり、しかも訳のわからない辺鄙な場所で降りてしまった。 
悪夢を見ている感じだった。
 
これまで一度もそのようなミスをしたことはなかった。
とうとう脳がイカれてしまったのか、と絶望しながらも、会社に謝罪の電話を入れた。 
そして時間に間に合わなかったら見学はキャンセルしてください、という内容のことを受付に話した。 
 
すぐに会社から折り返し電話が掛かってきた。
それも複数からである。
 
「『悪徳株式会社』の(課長の)池図(いけず)と申しますが…」 
「わたくしは『悪徳株式会社』の(部長の)孫宅(そんたく)ですが…」
 「私あの『悪徳株式会社』の(専務の)最古(さいこ)と申しますが、社長が是非お話したいと申しております。お時間、何時になっても構いません。22時でも、23時でも、その後もずっとお待ちしていますので、焦らずにお越しください」
 
今思えば、すでに電話口から「うさん臭くて怪しい香り」が漂っていた。
 
不思議なことに「絶対に会社にたどり着いてはならない」と言わんばかりに多くの妨害が入り、私が『悪徳株式会社』に到着したのは20時だった。
あり得ない遅刻である。
 
((…私を乗せた舟は本流を外れ、障害物の多い支流に流れていった。
わかっていたけれど、私は無理やり支流を進んでいった…))
 
恐縮している私は社長室に案内され、温かくもてなされた。
このパターンは初めての経験であった。
 
(続く)
 
 
(今日のロミ) 
【不服な顔①】 
 
【不服な顔②】                                       
 …かなり。