早朝アルバイトは「早起きの習慣をつける」という点では効果てきめんだった。
いつしか、早朝の梅田界隈を歩くことが私の習慣になっていた。
瞼は半分閉じており、髪は寝ぐせがついたままでライオンのように逆立っていたが…。
しかし身だしなみを整えるのは「朝の仕事を終えた後」でいいのだ。
目的は「朝起きて動くこと」なのだから…。
瞼は半分閉じており、髪は寝ぐせがついたままでライオンのように逆立っていたが…。
しかし身だしなみを整えるのは「朝の仕事を終えた後」でいいのだ。
目的は「朝起きて動くこと」なのだから…。
早朝の梅田の路地にはリーマンの酔っ払いや、化粧の剥げかけた女にしがみつかれているホストや、気難しい顔をした仕入れ業者や、気の荒いゴミ回収業者や、いろんな種類の人間がうごめいている。
ある日、いつものように路地裏を歩いていると、電柱の影に不審者丸出しの男が立っていた。
黒いキャップを目深にかぶり、首に双眼鏡を掛け、上下黒のジャージを着て、身じろぎもせずに何かをガン見していた。
黒いキャップを目深にかぶり、首に双眼鏡を掛け、上下黒のジャージを着て、身じろぎもせずに何かをガン見していた。
(朝から変質者か…さすが梅田だな)
感心しながらその横を通り過ぎようとすると、変質者が「のり丸君!」と声を掛けてきた。
よく見ると、それは早朝アルバイトで私とペアを組んでいるオッサンだった。
よく見ると、それは早朝アルバイトで私とペアを組んでいるオッサンだった。
「あ、編隊(ヘンタイ)さん(仮名)、おはようございます!…そこで何をされているんですか?」
「…ちょっと一服しようと思ってね」
編隊さんはポケットからマルボロライトを取り出した。
電柱の側には缶の灰皿が設置してあった。
「…ちょっと一服しようと思ってね」
編隊さんはポケットからマルボロライトを取り出した。
電柱の側には缶の灰皿が設置してあった。
「お・ま・た・せ~♪」
いきなり大学生風の男が背後から現れて、缶コーヒーを編隊さんに手渡した。
「あぁ、ありがと」
編隊さんはその男から無造作に缶コーヒーを受け取った。
いきなり大学生風の男が背後から現れて、缶コーヒーを編隊さんに手渡した。
「あぁ、ありがと」
編隊さんはその男から無造作に缶コーヒーを受け取った。
(…連れがいたのか)
何気なくその男の方を見ると、なんと男は敵意のある目で私を睨んでいた。
そして上から下、下から上と私の全身に視線を這わした後で「フン」とそっぽを向いた。
何気なくその男の方を見ると、なんと男は敵意のある目で私を睨んでいた。
そして上から下、下から上と私の全身に視線を這わした後で「フン」とそっぽを向いた。
(…何だ?何だ?なぜ睨む?…まぁ、どうでもいいか…)
私の脳はまだ半分寝ていた。
「では、後ほど」
編隊さんと見知らぬ男を残し、私はアルバイト先に向かった。
私の脳はまだ半分寝ていた。
「では、後ほど」
編隊さんと見知らぬ男を残し、私はアルバイト先に向かった。
アルバイト先は、大阪の一等地にある「自社ビルリッチーコーポレーション(適当な仮名)」である。
不動産、ビル管理・メンテナンス、人材派遣、ホテル経営などを手掛けている会社だ。
ビルの地下3階に掃除道具置き場、清掃班の控え室、ゴミ収集場などがある。
「自社ビル清掃班」は1階の管理室でタイムカードを押すと、業務用のエレベーターで地下3階まで降りる。
だが、いつもエレベーターはなかなか降りてこない。
だが、いつもエレベーターはなかなか降りてこない。
「のり丸君、先ほどは」
エレベーターを待っていると、もうすでに編隊さんが後ろに立っていた。
「さっき一緒にいた人、友達ですか?」
「夜勤で一緒のコでね、妙になつかれちゃってねぇ…ん~なんで?もしかしてどんな関係なのか気になってる~?」
編隊さんはニチャっと笑った。
「いえ、全く興味ないです」
エレベーターを待っていると、もうすでに編隊さんが後ろに立っていた。
「さっき一緒にいた人、友達ですか?」
「夜勤で一緒のコでね、妙になつかれちゃってねぇ…ん~なんで?もしかしてどんな関係なのか気になってる~?」
編隊さんはニチャっと笑った。
「いえ、全く興味ないです」
そんな会話をしていたら、エレベーターがやっと止まった。
エレベーターのボタンは地下5階まである。
(噂によると)地下5階の壁面には掘りかけの深い穴があり、そこは立ち入り禁止になっているそうである。
エレベーターのボタンは地下5階まである。
(噂によると)地下5階の壁面には掘りかけの深い穴があり、そこは立ち入り禁止になっているそうである。
(地下に掘りかけの穴…)
私はエレベーターに乗るたびに、その未知の領域を想像して少しワクワクしていた。
編隊さんはどこかで夜勤をした後に「小遣い稼ぎ」で早朝アルバイトをしていた。
全く寝てない状態で来ているせいかどうかわからないが、いつもハイテンションだった。
編隊さんと私はビル内の10階と13階のオフィスを手分けしながら掃除していた。
アルバイトの制限時間は90分である。
アルバイトの制限時間は90分である。
ことのほかゴミが多く、超テキパキ動かないと90分をオーバーしてしまう。
まず「どこから攻めるか」という攻略と、編隊さんとの連携プレイが重要である。
幸いにも、業務はスムーズに進んでいた。
まず「どこから攻めるか」という攻略と、編隊さんとの連携プレイが重要である。
幸いにも、業務はスムーズに進んでいた。
ある時、シュレッダーの掃除をしていた私が、
「編隊さん(シュレッダー用の)90ℓゴミ袋のストックが切れました!」
と振り向くと、カシャ、カシャ、とシャッター音がして、編隊さんが私の方にスマホを向けていた。
(何しとるんや、このオッサン…)
「90ℓのゴミ袋ね、了解!」
編隊さんはスマホをサッとしまいながら、ゴミ袋を調達しに行った。
編隊さんはスマホをサッとしまいながら、ゴミ袋を調達しに行った。
私は不思議だった。
たった90分間しかないのに、その90分間の仕事にも集中できない人間がいる、ということが不思議だったのだ。
たった90分間しかないのに、その90分間の仕事にも集中できない人間がいる、ということが不思議だったのだ。
ゴミ袋を持ってきた編隊さんに、
「編隊さん、さっきは何を写したんですか?」
と尋ねた。
(…絶対オレを撮ったよな)
※オフィス内で写真撮影は禁止事項に当たる。
「編隊さん、さっきは何を写したんですか?」
と尋ねた。
(…絶対オレを撮ったよな)
編隊さんは私の顔をジーッと見ながら、
「…のり丸君の顔って、ど真ん中ストレートなんだわ(※原文のまま。ストライクの間違いか)」
とボソボソ答えた。
更に、
「のり丸君って、なんか美しいよね」
と付け加えた。
「…のり丸君の顔って、ど真ん中ストレートなんだわ(※原文のまま。ストライクの間違いか)」
とボソボソ答えた。
更に、
「のり丸君って、なんか美しいよね」
と付け加えた。
(……ハァ?)
想定外すぎる回答だったので、本来なら(あまりの気持ち悪さに)「ぶべら!!!」であるところだが、
【画像】漫☆画太郎
「ああ、それはどうも」
と答えてしまった。
その上、
「(仕事中にスマホすると)次回は通報しますよ。今回は罰として(編隊さんの持っている)双眼鏡を1日貸してください」
とおかしなことまで口走っていた。
これは、編隊さんを「まともに相手をしてはならない人間」と判断した上での対応でもあるが…。
(…双眼鏡を1日貸してください)
私も私である…。
【今日のロミ】