叔父の経営するラーメン店「どんどん屋」では以前よりも出前の数が多くなり直也だけでは間に合わない為に真一もアルバイトで出前をし毎日ではないが直也の居るラーメン店を手伝いに来ていました。典子は、いつも通り相変わらず直也の傍にいるようになっていき何かに取り付かれたようにドリームキャッチャーを作りつづけ店のカウンターに置きます。まるで久美子が生きているかのように。この時期の同級生が気がかりなのは進級すると2学期半ばに大きな変化(出会いや別れ)をもたらす模擬試験がありました。この模擬試験で進路が決まっていくと言われていたほどです。尊王寺学園の9月残暑の中の一週目の7日間では毎日2時間の水泳(プール)の授業があり3クラス合同の自由時間であり手抜きの授業で、この時期の教師達は進級のクラス替え模擬試験の問題を作成していました。
仕切りのない男女別々のプールで直也と真一は男子プールに真っ先に飛び込んだが他のクラスメイトは水浴びをしたりプールサイドで会話をしています。直也と真一の競い合いという感じで2人は泳ぎ直也と真一の泳ぐスピードには皆おどろき目を疑っていた同級生達がいて口を開けっ放しになり会話も止まっていました。静まり返った中で全速力で泳ぐ事で直也と真一は2人の出会いが、どうであったかを幼き頃の過去を思い出していたのかもしれません。誰よりも冷静な真一も父親の転勤が何回も続いた事で心に苦しみを持っていたようでした。直也と同じようにラーメン屋の出前をしながら全速力で泳ぐ事で何かから気を紛らわし逃れようとしていたのかも知れません。転勤族の父親を持ち各地を回りながら孤独と戦って来たのです。苦しかった思いを受け入れる事が出来た時期だった真一であったのです。
2学期の10月には大事な試験があり就職組みと文系や理数系に2年生から学習教科の変更やクラス替えがあるのです。各学科の成績によって3つに分かれてしまいます。
全教科を学びますが就職組みは軽く授業を受け理数系では理科と数学が中心に文系では国語と社会と歴史等を中心となります。典子はどうしても直也と同じクラスにいたいという気持ちを強く持っていたが直也は同じように思えなかった。
この頃の直也は大人となったというよりも過去の孤独感を感じ始めた事を自分で気づきます。多くの仲間達がいるのに過去の出来事を受け入れる事が出来たと思っても直也の心の傷は癒される事はありません。しかし過去に持った孤独感とは違うものでした。典子や友達や仲間達は直也はどのコースを選ぶのか気になり聞いてみたりもしていたが直也からの答えは。「それは自分で決めること他人が決める事じゃないよ今後は運が悪けりゃ一緒のクラスになるかもな」
この言葉を聞いた仲間達の中には、お守り袋を買ってきた仲間もいたようで、その中には安産祈願や交通安全祈願のお守り袋を持っていた。
「ばっかじゃんぇの?合格祈願のお守りじゃねぇと意味ねぇじゃんか。本当にばかだなぁ」
「馬鹿馬鹿言うなよな。本当に馬鹿になっちまうぞ」
「そうそう馬鹿って言うやつが馬鹿なんだよな親に教えてもらってねぇな」
こんな事ばかりを自由に言い合い皆で笑ってる姿を見てる直也はどうでもいい事だよなと思いながら会話を聞いていました。静かな直也にお守りのことで最後に声をかけてきます。
「直也、お前はどう思う?どれだって効力は一緒だよな」
返答に困っていた直也の代わりに返事をかえしたのは典子でした。
「あんた達、大馬鹿よ、お守り持ってるじゃないのよドリームキャッチャー大事にしてるでしょねぇ直也」
直也は苦笑いしながら首を縦に振り真一の顔を見ると真一も呆れた顔して苦笑いしていました。就職組みは1クラスで理数系は3クラスで12クラスは文系です。試験が近づくと必死に勉強をはじめる学生の中で何もしない直也は勉強する姿も見せず呆然と自分の心と葛藤していました。試験前一人授業を抜け出し学校の屋上へ上ってみると1人の先輩がフェンスに寄りかかり煙草を吸っていました。直也はゆっくり先輩に近づき挨拶を交わします。
「どうも先輩」「大島直也か、お前は強いな、これからどうしていくつもりだ?」
「これからって?」「お前の噂はどこからでも耳にするよ」
「・・・」直也は無言でした。「誰もが、お前みたいに生きていける人間は少ないと思うが」
「俺みたいにですか?」
「春樹といいお前といい輝きの裏には影がある影でしか生きられないものもいるんだ影が今まで俺たちの輝きだった影となった今面白くないと思うヤツもいるだろ」
「影が輝きですか?」
「お前は正しいのかもしれないが影でしか生きられなくなった学生らは我慢できなくなるかもな」
「我慢できなくなるのですか」
「最終的にターゲットにされるのはルールを消し去ったお前になるかもしれない 早いうちに手を打っておいたほうがいいと思うよ最初で最後のアドバイスだ」
直也は先輩の表情やしぐさを見ていると自分と同じ孤独感を持ってるように感じでいました。その先輩も過去には喧嘩上等で喧嘩ばかりをして喧嘩の中から何かを見つけようとしていたのです。その事が学生達のルールになって引継ぎられ直也がこの街に来る前の世界だったと言うのです。春樹の残したものは、そのルールに添っての事での生き方をしていた。しかし直也は春樹が生きていたルールを数ヶ月で変えてしまいます。先輩との会話で直也は新しい孤独感に気がつきます。仲間だと思っていても心から仲間だと思われていない事が直也に孤独感を感じさせていたのです。
「先輩、俺も同じかもしれないと思います行き場がなくなって飛び降りたくもなるくらいです」
「ここからか?」「はい、でも何かがまだあるような気がするから飛び降りる事ができませんが」
「お前も一緒か、まぁ何かあるんだろうな、お前にはな」
「先輩も多くの仲間がいるじゃないですか?陸上の選手でもあるし」
「お前知ってたのか?陸上してたの」
「陸上部で、記録を持っているの先輩だけじゃないですか」
「そうか、お前なら、きっと影も輝かせるようにしていくんだろうな春樹と一緒か?」
「春樹の事知っていたんですか?」
「あぁ良く知ってるよ、アイツを殴り倒した事があったけど泣きながら立ち上がるんだ逃げもしない立ち上がって睨むだけだった」
「春樹って泣き虫だけど眼(がん)飛ばすのだけは誰にも負けなかったでしょ」
「あぁ二度と喧嘩したくないヤツだったよ生きてたら、お前みたいだったろうな」
直也との会話で同級も先輩も関係ないという直也の気持ちは先輩に伝わっていました。
しかし今まで輝いていた世界から影でしか生きていかなければならない学生もいる事を先輩は教えてくれました。そして悪夢のような出来事が立て続けに起こり始めるのです。直也は自分が受ける孤独感を考えるようになりドリームキャッチャーの繋がりだけでは仲間だと思えなくなりドリームキャッチャーは、多くの学生達が持っていますが身に付ける学生は減っているのに気づきます。授業を抜け出した事で授業終了後に教員室へ呼ばれた直也と先輩であったが2人は笑顔で顔を見せ合っていました。教師の話は上の空で2人は窓の外を見ています。一通り注意事項が終わると2人は教員室を出たところで顔を見合わせて先輩が直也に声をかけてきたのです。
「お前と話ができて良かったよ」
そう声を掛けられると右手を上げて教室へ戻っていったが直也は不思議と嫌な何かを感じる事があった。先輩は過去に喧嘩上等で名前を売っていた学生でした。あれほどまでに変われるのだろうか?と直也は思っていました。これからの進路に向けてクラス替えの模擬試験は終わり模擬試験の終わった学生達は張りつめていた気分を変えようと勉強の話ではなく冬休みに何をするかと話し合っています。もちろん直也と真一も同じように皆の仲間に入って遊ぶさんだんをしていました。典子は聞き耳を立てながら直也達の話しを聞き仲の良い女子達に声をかけています。模擬試験が終わってから直也と典子との関係に何か変化している事に真一は気づいていたようです。直也はいつも通りのように見えるが典子と話す事が徐々になくなってきていたのです。高校1年2学期も終わる頃に学園全体に一時的に衝撃が走ります。学校から近くの線路でバイク事故があったという事と尊王寺学園の生徒であるという事です。直也は情報屋に声をかけ状況を詳しく調べるよう声をかけます。卒業前の3年生の先輩が遮断機が降りているにも関わらず電車にバイクで突っ込み身体はばらばらで手足身体は近い場所に頭部は100メートルも飛ばされていたのです。その話を聞いた直也は、はっきりと久美子の事を再び思い出してしまいます。あの時屋上で会話をした先輩の自殺であったのです。どうしても耐えられない思いが直也の心を凍らせていくのを自分で感じています。自然と身体が震えてくる直也に真一は声を多くかけるようにしていました。典子も直也の事が気になり毎日のようにラーメン屋の自宅に足を向けていました。「あの時どうして、もっと話す事が出来なかったんだろう?先輩の気持ちをもっと聞いてあげられればよかったのによ!」先輩の最初で最後のアドバイス?直也の悲痛の苦しみは後悔という思いを与え先輩との会話を思い出す事で増すばかりでどうにかなりそうになっていました。典子と真一や叔父や叔母や担任の教師の全ての言葉が耳に入ってこない自分だけの声しかない自分が生きているだけの自分が信じられなくなっていきます。街の中をどう歩いたのか直也には記憶がありません。直也の記憶があるのはチンピラ達に出くわして事だけでした。気がついた時は公園のベンチで左腕の痛みをこらえていました。チンピラ達から逃げる時に直也は左腕をナイフで切られていたのです「最終的なターゲットはお前だったかもしれねえ」と直也は思っていました。1人で出かけている直也を真一は探し回ります。真一が直也を見つけた時には直也の心に恐怖心が浮かび上がり公園のベンチで震えていた様子を見て真一は直也に声をかけます。
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