次は2回戦目で優勝候補者で前回2位の選手である。控室に戻る時に一瞬だが集中力に疲れかけた直也は宇地木大地を見かけたような気がした。宇冶木大地の姿は幻か?私服でいるヤツじゃないはずだ特攻服を着てるはずだと直也は笑みを浮かべ思った。
この幻は直也に勇気や安心感を与えていた。
「ジャブ、ジャブ、ジャブ、ボディ、ボディ、ボディだ」
前回の試合を振り返りながら控室に戻ると直也はため息をつき椅子に座ると優子だけに「怖かった」と本心を伝えた。控え室で休む直也は優子が今までに見てきた直也ではなくなっていたようだ優子は直也に対して怖いという言葉はないと見ていたからだ。コーチは直也に声を掛ける事はなかったが会長の脳裏に浮かぶ直也の姿があった。 直也は恐らく自分というものを見つけ始めたのではないか?と会長は思い直也を見つめていた。コーチは会長に話しかけるが上の空だったが会長は直也の前に座り両手で直也の頬に触れ声を掛けた。
「自分を見つけ始めたのなら自分を信じてみる事も大切な事だ勝つも負けるもお前しだいだ」
会長は直也に静かな声で言葉を掛けると直也は会長の眼を見つめていた。自分を信じる事そう直也が探し求めていたもの怒りや憎しみに捉われていた直也の心の中にある、ぽっかり空いた隙間を埋めていく。1回戦を勝ち抜いたものは8人の選手で控室は一号室だけになると直也は控室にいる他の7人の様子を見つめ伺い始める。この時に優勝という言葉が、はっきりとした本当の決意となり直也の心の中に小さな光が芽生えていた。1回戦を勝ち抜いても中途半端な決意であった事を直也は自分自身に気づいていく。この気づきが直也を変える。試合を振り返る直也は声を出して応援してくれるのは優子だけである事を知った。
しかし「ジャブ、ジャブ、ジャブ」とリングサイドで会長やコーチの言葉があった事を直也は思い出していた。
「俺は一人じゃない孤独でもない応援してくれる人はいるんだ」
応援をしてくれる人が1人でもいるのなら、その期待に応えたいと直也は思った。
「次の相手は、アイツか」
次の試合相手の動きやその周りにいるサポーター達や観客を見ながら勝つ為の直也なりの策を練るようになる。直也お前なら勝つ為の策を見つけられるはずだと念じて会長やコーチは全て直也に託していた為に何も言わずマッサージを施すだけだった。1回戦と同じようにいけるのか?しかし1回戦の時は畏怖しながらの策で余裕がなかったんだ。控え室の中で相手の動きを見つめる中で策を練る事に余裕ができていた。
「そろそろ行くか、直也」とコーチが直也に声を掛ける。
「はい」と直也は余裕のある言葉で返事を返し控室からリングへ向かう。
「どうしたんだろう、直也が違って見える」と直也の後ろについて歩いていると直也の背中が違って見える優子であった。会場内に入ると観客の熱気に包まれたが直也は特にプレッシャーを感じる事はなく余裕をみせていた。この余裕は対戦相手だけではなくサポーターや観客達へも心理戦だ。いよいよ2回戦で次の相手は前回3位の選手だ。身長差12センチで直也よりも背が低くフットワークに優れている選手だった。直也はフットワークに優れている同じタイプの選手だと考えた。直也はいかに次の対戦を勝ち抜くかを考えていた。
「俺は、独りじゃないんだ!」と心の中で直也は思った。
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