チューリップス・シスター第8話 美咲の求めるもの
経験豊富でフリーの精神科医は、美咲の絵画の保管部屋で数週間泊り込みで、残さず美咲の絵画を分析し総合的な判断と診断結果をまとめ、神父に伝えた。
伝えた内容とは、スケッチブックにはナンバーが記され4年間で305冊、NoからNo305まで、他には1枚の画用紙103枚があった。
しかし、ナンバー1からナンバー13までのスケッチブックと画用紙103枚には何も描かれてなかった。
画用紙103枚には、見た目では何も描かれてなかったが、一瞬だけ薄らと浮かび上がる絵画であり、見えたり見えなかったりの繰り返し。
クレヨンを使用せず心の中の心の眼でイメージしたものが描かれていたはず、しかしクレヨンを使用し描くようになってから13冊に描かれた絵は消えた。
「不思議な出来事だったが、科学や物理を超えた現象もあり得るのかもしれない」
世界を回り奇妙で不思議な出来事を知り見てきた経験豊富である精神科医は驚く事なく否定も肯定もせず冷静に判断をしていたが、幻覚の世界観なのか幻想の世界観なのか考えていた。精神科医から伝えられた神父は、ただ茫然として静かに聞きながら、言霊からの伝令の映像を思い出す。
現在の科学や物理の方程式では証明できない事もあることを念頭に精神科医は考えたのだろう。
「奇妙で不思議な事だが仮説としては幻覚でも幻想でもなく次元を超えた何かしらの能力が備わっているのではないだろうか」
フリーの精神科医と神父は、同じように思い考えていた。
真理は、苦難を乗り越え現実の世界を導いていくが、美咲は、誰も叶わなかった壮大な夢を時をかけて叶えていくのだと神父は思った。
神父は気付く事で心の中での大きな重圧から解き離れたようである。
神父は、イエスを通し精霊と天使の伝令の交信と精神科医の診断結果で、これまでの接し方と導き方が知る術もなく気付かなかった、薄らと幻の様にぼんやりとした光景がはっきりと見えるようになると全てが繋がり確信となった。
はっきりと確信した時、イエスからの直接的な伝心があった。
「友よ、アース神族の元に使える者へ伝えよ、世界中に広がる魔性の死神と戦う態勢を整えよ、そなたの心の中にいる者へ伝えよ」
神父の心の中にいる者とは15歳でイエスからの洗礼を受け若年でありながら18歳で神父となり、甥は持っている神父以上の能力がある事によって神父として選ばれた人物である。
神父となった21歳の甥は、18歳から日本を離れた場所にいた。
迷信と仮説だらけの奇妙で不思議な出来事が多い地域をまわり、見て話を聞きながら世界中を飛び回っていた。
歴史上でも迷信や伝説があるガンダーラ、インチベット、トランシルバニア、エルサイム、バチカン、メキシコ、グアテマラ、ベリーズ、インディアナ等を行き来していた。
神父の遺言はイエスの伝令であり祈り続ける神父を動かし、トランシルバニアにいる甥に手紙を送る事、そして日本へ戻るよう伝えていた。
トランシルバニアにいるという事は、神イエスからの直接的な伝心の中にあった。
神父の手紙がトランシルバニアに届くまでは数日または数か月かかる、その間、神父は食事を摂らず、ずっと教会の中で祈りと睡眠を繰り返した。
「友よ、目覚めよ、心の神に変わるものが、そなたの伝心を手にした」
神イエスからの直接的な伝心が神父に届いた、そして神父は普段の生活に戻る。
手紙が届いたのは数カ月後だった。
伝心があった時、更に神父は臨床心理士の知人で臨床心理士資格を持ち経験豊富で専門的知識のある臨床心理士からも電話を受けた。
電話に出た神父は、美咲の能力とは無限にある能力であって科学的物理的には証明はできない、稀に見る能力である事を知らせた。
そして、経験豊富で専門的知識のある臨床心理士は、美咲の様な子供をカウンセリングをした事があるようだった。
さらに神父は電話を受ける。
経験豊富であるフリーの精神科医での判断は科学的根拠がない為、一人の精神科医では判断してはならないという理由で、もう一人専門の病院の精神科医は美咲の絵画を見せてもらいたいという。
そして、美咲に一度会って見たいという事だった。
神父は、是非、会ってもらいたいと伝える。
美咲は、年1回の誕生日だけ外出するが、施設から一歩も外に出ることはない、声かけしても返事すらする事もない。
精神科医と臨床心理士によって、良い治療ができ、専門の医師であれば、神父は美咲が変ってくれるかもしれないと思っていた。
数日後、医師と臨床心理士の方が施設へ来たのだが、美咲は、いつも通り、部屋へ閉じこもったまま、静かに絵を描くだけだった。
まず、セラピストが声をかけてみる、次に臨床心理士が声をかけてみるが、ただ絵画に集中し没頭していた。
美咲を見ながら声をかけると、セラピストと臨床心理士は不思議と自分が美咲の部屋にいるという意識が薄らいでいくのを感じていた。
セラピストと臨床心理士は、同じ感覚で心の中で思い見つめ合った。
「私達は、ここには居ないの、この子を見ている私自身の存在が薄れていくようだ」
セラピストと臨床心理士の「魂」が消えたり薄らと見え隠れしていたのだ。
そして、身体の力が抜けていくのを感じ、その場から離れた。
「先生、私達には無理です、声をかける事はしましたが、それ以外の事は全く出来ません」
セラピストと臨床心理士の報告を受けた病院の精神科医は、これまでの気になる絵を見せてもらえるよう神父に言った。
神父は、スケッチブックを2冊をもって、病院の精神科医と経験豊富な臨床心理士のもとへ向かう。
「何という絵なんだ、まだ幼い子が描く絵ではない、何故だ信じられない」
「私にも信じられませんが、何かを訴えているような感覚になります」
病院の精神科医と臨床心理士は、現実のもののように鮮明に描かれている絵を見て驚きを隠せなかった。
長く接していたセラピストから美咲の事を聞いていた臨床心理士は、精神科医へ言った。
「私は、もうあの部屋にはいけません、あの部屋に入ると何故か力が抜けるような感じがして」
「そんな事が、あるはずがないだろ、一般的な症状を持つ幼い子供だろ」
精神科医師は、ゆっくり美咲のもとへ行き、声をかけた。
「こんにちは、君の名前は、美咲さんと言ったね、君の描く絵は現実にあるものではないのかな」
精神科医の言葉は、美咲の絵を描く手を止めさせ、美咲は、顔を医師に向ける。
輝きのない沈んだ瞳を見た医師は瞳をあわせ、じっと見つめると金縛りのように動く事が出来ない。
本当の美咲を知る者は、イエスと神父以外に誰もいない。
美咲は何かを求めていると感じた医師ではあったが、それ以上の事は何もわからなかった、知る事も気付く事もない。
医師は、他に言葉をかける事は出来ず、美咲の部屋をあとにした。
瞳を見つめあうと臨床心理士が言っていたように、身体の力が抜けていく感じを受けていたからだ。
美咲の部屋をあとにした精神科医は、臨床心理士と神父と共に、教会へ向かい教会の中に入った。
教会へはいった、精神科医と臨床心理士は、深く深呼吸を何度もしていた、美咲と会ってから息苦しさを感じていた。
美咲の部屋へ入ってからというもの出ていくまで、呼吸が止まるような感じを受けていた。
「どうなさいました」
神父は、セラピストと臨床心理士2人に声をかけたが、どちらも言葉を失っているかのようだった。
美咲の過去の生い立ち全て(両親との別れと育ち方)を神父は、医師達にも話をする。
そのあとで、ある精神科医は言うのだ。
美咲が今、求めているものは「死」かもしれない、あるいは美咲の瞳は散大し「死人の眼」のようになっている。
美咲の瞳の中には、何かが浮かんでいるような、だからこそ、あれほどの絵を描く事が出来るのかもしれない。
「しかし、まさか、そんな不思議な事があるはずはない」
専門的な精神科の医師が発する言葉が、気になる神父だった。
「なぜ、死という言葉を使ったのか、何かに動かされているようだ」
病院の精神科医達は、薬物療法や精神療法の治療が必要なのかどうか議論をして必要かもしれないと判断した。
フリーの精神科医師を含む7人が美咲を分析し診療したが2人の医師は対症療法と判断したが、5人の医師達は精神治療(精神療法と薬物療法)が必要だと判断された為、精神治療をする事になった。
ただ脳の働きが活発で脳が敏感に反応してる、あまりにも脳を使いすぎる少し眠らせた方がいいという科学的根拠はない見た目だけの理由だった。
薬を服用した3日後、眠りについていた美咲は、瞳を大きく開きベットの上で起き上がる。
下向き加減の美咲であったが、ベットから離れ窓を開け、空を見上げながら大きな声で叫ぶ。
「私の邪魔をしないで、悪の邪気は消えてしまえ!」
美咲は、はじめて自分の意思を大きな怒鳴り声の言葉で、禁断症状ではなく自分自身を表現していたのだ。
美咲に薬を1週間分処方し服用させたのは逆効果となっていた。
美咲の本当の心に気づく事がない科学的診断で医師達の判断では、美咲の治療が出来ない事を知った時であり、美咲の能力の現実を知った時だった。美咲に精神治療を止めようとした精神科医2人は現実の世界に残存し、精神治療を進めたメンタルクリニックを運営する5人の精神科医は、現実の世界から行方をくらまし抹消された。
「もしかしたら美咲の求めるものとは、私達いる現実の世界と仮想空間次元の違う現実の世界を創り出し、世界中の人類に選択肢を与えようとしているのではないか」
美咲の絵画からの価値観と世界観、そして本当の能力に気付いた神父は心の中でイエスや精霊と天使の言霊で感じながら思った。
しかし、神父には見える美咲への思いを医師達には伝える事なく神父の心の中に留められた。
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