中学を転校して真一は何度も直也に電話をかけようとしたが久美子のことが気になり直也の気持ちを考えると連絡することができなかったのです。真一は連絡したとしたら直也に過去のことを思い出させてしまうと考えていました。久美子の作ったドリームキャッチャーをいつも握り締め連絡したい気持ちを抑えていたのです。直也は過去のできごとに耐えることで精一杯。仲間たちを守りたいという気持ちで精一杯。自分のことよりも過去に耐えることと仲間を守ることだけの直也です。直也は、まさかこんな駅のホームで真一と再会するとは思ってもいなかったのです。真一は直也よりも色々なことを知り孤独に耐えられる勇ましく強い人間になっていました。そんな姿を見せる真一を見て直也は真一よりも成長していなかったと思えましたが現実に強くなっていたのは直也でした。自分を信じることのできない直也は怒りと憎しみによって自分というものを見失っていたのです。見失っていることを気づかせてくれるのは、これから出会う仲間たちです。転勤族だった真一は離れていても俺たちは仲間だという直也の言葉を信じています。直也の言葉があるからこそ、どんなことでも忍耐強く自分を信じ道をはずすことはなかったのです。
真一は直也に声をかけます。
「学校へ行きはじめたら、きっと何かが起きると思うよ直也は喧嘩好きか?へへ」
真一は入学する高校や周辺の高校の様々な情報をとり覚悟をして尊王寺学園に入学したようです。
「喧嘩は嫌いだ!別な方法を見つけるよ」
直也は叔父の言葉を思い出しながら真一に言葉を返します。真一は今の直也の姿を見ていると何かを秘めたものを持っているような気がしてならなかったようです。何かの巻きぞいにならないかと気がかりでしょうがなかったのです。この街の高校生たちの情報を直也に話そうとした真一でしたが「嫌いだ」の言葉で全てを話すことはしませんでした。入学式のあと1週間の休みがありました。直也は真一に叔父夫婦の家から通うことを話します。真一は休みの間に直也のいるラーメン屋に来ては餃子とラーメンを食べにきていました。直也は叔父夫婦に古い友人だからと真一を紹介すると叔母は代金を学割にしてくれました。そして休みの間で駅の周辺を歩き回りながら遊んでいました。
「直也の部屋は二階か?いい休憩場所ができたなぁ」
「誰も入れねぇよ!」
「どうして?仲間だろ」
「どうしてもだよ」
そんなことを言う真一にも直也は部屋に入れることはなく春樹のことを知っていても誰もいれようとはしません。2階の部屋には春樹が生きていると直也は思っているからです。高校の教室は15クラスでアルファベットのA組からO組まであって直也はD組で真一はE組でした。直也は、これは偶然かと考えますが真一は違う考え方を持っています。2人の行動と考えの違いは、直也は無心で冷静ですが歪んだ心に対し真一は現実を見定める力と素直な心で短気な面を持っています。これから、真一は直也の補佐役の役割を持ちながら学生生活をすることになります。真一の頭の中には偶然ということはなく、ただ世の中の流れにさかわらず、その中で自由に生きていたのです。父親の転勤で色々なところで友達も作らず孤独に耐えながら直也にはないものを身に付けていました。真一にとって、どんな時でも冷静でいられる直也はうらやましくなる存在となります。直也の生き方と真一の生き方は環境の違いがそうさせたのかもしれません。しかし真一は直也の叔父との出会いと関わりによって冷静に素早い行動力と判断力を持つようにり高校へ通いはじめると真一だけが直也の行動を止められる存在になっていきます。直也の歪んだ感情と真一の孤独ならではの感情が又2人を引き会わせたのかもしれません。
「なぁ直也、俺な、お前と同じ瞳をしたヤツを知ってるよ、そんな瞳をしたヤツが、どうなったかもな。でもな、お前はちょっと違う」
直也には何を言ってるのかわからなかったが真一は転校を繰り返すごとに様々な人と出会ってきました。真一は直也の瞳をみて歪んだ感情や怒りと憎しみで生きてるのを気づきます。何もなければ、いくらでも冷静さを見せることはできるが瞳だけは嘘をつけない真一は直也の現実を見定めていたのです。そして初めての高校生活がはじまります。教室へ入ると自分だけが浮いているような感じを受けた直也でした。D組みの担当の先生は「金森正徳(かなもりまさとく)」といいます。
金森は生徒たちに軽く挨拶し最初に話しはじめたのは学級委員長を決めることでした。
「学級委員長になりたいと思うものはいるか?」と金森と言いこの言葉からはじまりました。教室の静けさが更に静かになります。
静かになりすぎたクラスを見回し金森は言いました。
「大島直也、お前の話しは聞いてるぞ、お前やれ、いいな」
金森のこの言葉で教室内がざわめきはじめます。直也は周囲を見わたすと生徒の誰もが直也の顔を見つめていました。
「何、見てんだよ、ぜってぇ俺はやらねぇからな。委員長だぁふざけんな」
中学では裏番と呼ばれていた生徒もクラス全員が直也の顔を見ています。
「俺の何を知ってるんだよ先生、俺は何もしてねぇし、これからも何もしねぇよ」
直也は金森に、ため口で眼(がん)を飛ばしながら答えます。
「決まりだ、お前がやれ、副委員長は、須藤典子で決まりだ」
金森は叔父との関わりとある考えのもと直也を指名していたのです。
「誰も手を上げないいじょう、決めるのは担任の俺だ、だからお前にする、いいな」
金森はホームルームの時間15分で、そんなことを勝手に決めて教室を出て行きます。
「須藤典子?」と直也はどこかで聞いたことのある名前だなと思っていました。
「よろしくね直也君」
「あぁっ、お前、あん時のしょんぼり学生だったよな」
電車の中でからかわれていたあの女子高校生でした。典子は笑顔で直也の前に立ち、じっと顔を見つめています。こんなことからクラスの生徒たちから委員長と呼ばれるようになり全く知らないやつらも近寄ってくるようになりました。金森は中学時代の直也がどんな生徒であったのかを中学の担任教師から聞き叔父からも様子を聞いていたのです。しかし高校へ通う直也は中学時代のようではありません。忘れたい逃れたい歪んだ怒りや憎しみだけで生きているようなものでした。生徒どうしでの関わりを持つことが嫌になっていたのです。金森は、どんな時でも直也には気づかない何かがあり直也のまわりには学生たちが集まってくるということを聞いていました。大島直也を委員長にすることで他の生徒が何かを感じとり良い方向へ導けると考えていたのです。金森には何かの予感があったのでしょう。それとも直也を守る為にだったのかもしれません。直也は久美子を事故で失い以前のように慕われる直也ではないと自分を攻め続けながら表情には出さずに生きているだけです。それでも直也の周囲には多くの直也を取り囲む生徒達が徐々に増えてくるのです。中学の時の仲間との友情を裏切ったと思う直也には孤独感が募るばかりです。
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