「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

小説「傾国のラヴァーズ」その33・聖名のカニ

2023-04-16 22:26:00 | 傾国のラヴァーズその31~40
 彼の横顔は 何だか冷ややかだった
「あと、お願いしたいのは、家の固定電話の電話番」
「家の固定電話は廃止できないの?」
 一人暮らしになってからずっと携帯だけなので、 俺はピンと来なかったのだ。

「うん 会社始めた時 、自分の家を事務所にしてたから、電話も家のを会社の電話として名刺やホームページで宣伝していた時期があったんだ。それでたくさんのお客さんに出会ったんだ」

 それから 2、3年も経っているが、 この 固定電話への連絡は今でもあるという

「最近は ごくたまにしか来ないけれど、それでも 人脈が広がっていい面があるからやめたくないんだ。それなのに…その…例の変な電話が混ざってきて…」
「わかった それは全部俺が出て必要なものだけ取り次ぐよ」

「それ聞いたらほっとした。センパイ、 ありがとう」

と、いつしか カニをむくのに夢中になっていたらしい聖名の目は、涙をたたえかけているようにも見えた。
 カニは照れ隠しに見えた。


 初めて出会った日ほど 宴会は盛り上がらなかった。

 おひらきの後は、俺はリビングの固定電話の子機を自分の部屋に置き、荷物の整理をしながら、シャワーの順番を待っていた。

 ノックの音がして、俺は、
「はーい」
何だか嬉しいのはどうしてなんだろう。




小説「傾国のラヴァーズ」その32・聖名って呼ぶ…よ

2023-04-16 07:37:03 | 傾国のラヴァーズその31~40
 フルートグラスにゴールドのスパークリングワインが注がれ、無数の泡が立ち上っていた。
 そのグラスをカチャ、と ぶつけて2人で乾杯した。

 しかし俺は一口飲んだ途端 、不安だけではなくなぜかワクワクし始めていた。

「ありがとうございます俺一人なのに着任 祝いまでしていただいて」

すると 彼の表情は少し曇り、

「いや そうなんですけど、そういうことになるのかもしれないですが、俺としては その、初めてのルームメイト なわけじゃん。海原センパイが。それを喜んでいるってこともわかってください」

と、応えてくれる彼は、口元が何だか照れくさそうだった。

 俺の方も それを見てなんだか照れてしまい、よくわからない 複雑な気持ちになった。

「鈴ちゃん 、ごめん。実は俺にもそういう気持ちがあります。」

 なぜかその言葉に 彼は固まってしまったようだった。
 それを見て俺も固まってしまった。

 その困った空気を破ったのが、

「鈴ちゃんだけはやめてほしいな」

という、冗談めかした 彼のぼやき だった。

「何でだよ」

「にゃんこみたいで やだ」

 俺は笑いをこらえるのに必死だった。彼の怒りの視線を感じながら。
「ごめん、じゃあ何て呼べばいいかな?」
「別に、聖名でいいよ」
「えっ? いきなりの名前呼び?」

 いやいや、この人、クライアントなんだけどな…

「だってその方がマシなんだもん」
 いや、何か理由があるなのかもしれない。彼女にそう呼ばれているとか…

「…そもそもお前がセンパイなんて言い出すからだろ」
「じゃあ翔真センパイって呼ぶってのでどう?」
「うーん、何か照れるような気もするけど、おあいこみたいでいいかな」
「おあいこって何だよ」
むくれる聖名がとても可愛い。
「うーん、恥じらいの点で」
「何だよそれ」

 今度は二人で笑えた。

「じゃあ、聖名、これからとりあえず1ヶ月間よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
と、応えてくれる聖名は、口元が何だか照れくさそうだった。
 
 1ヶ月後といえば、、ちょうど12月半ば。クリスマスの直前。

 聖名と会えなくなっているのかと思うと少し寂しい…と思っていると聖名は、
「もしかすると、もう少しお願いするかもしれない」
「えっ?」
「うん。選挙が早まるかもしれないから」