フルートグラスにゴールドのスパークリングワインが注がれ、無数の泡が立ち上っていた。
そのグラスをカチャ、と ぶつけて2人で乾杯した。
しかし俺は一口飲んだ途端 、不安だけではなくなぜかワクワクし始めていた。
「ありがとうございます俺一人なのに着任 祝いまでしていただいて」
すると 彼の表情は少し曇り、
「いや そうなんですけど、そういうことになるのかもしれないですが、俺としては その、初めてのルームメイト なわけじゃん。海原センパイが。それを喜んでいるってこともわかってください」
と、応えてくれる彼は、口元が何だか照れくさそうだった。
俺の方も それを見てなんだか照れてしまい、よくわからない 複雑な気持ちになった。
「鈴ちゃん 、ごめん。実は俺にもそういう気持ちがあります。」
なぜかその言葉に 彼は固まってしまったようだった。
それを見て俺も固まってしまった。
その困った空気を破ったのが、
「鈴ちゃんだけはやめてほしいな」
という、冗談めかした 彼のぼやき だった。
「何でだよ」
「にゃんこみたいで やだ」
俺は笑いをこらえるのに必死だった。彼の怒りの視線を感じながら。
「ごめん、じゃあ何て呼べばいいかな?」
「別に、聖名でいいよ」
「えっ? いきなりの名前呼び?」
いやいや、この人、クライアントなんだけどな…
「だってその方がマシなんだもん」
いや、何か理由があるなのかもしれない。彼女にそう呼ばれているとか…
「…そもそもお前がセンパイなんて言い出すからだろ」
「じゃあ翔真センパイって呼ぶってのでどう?」
「うーん、何か照れるような気もするけど、おあいこみたいでいいかな」
「おあいこって何だよ」
むくれる聖名がとても可愛い。
「うーん、恥じらいの点で」
「何だよそれ」
今度は二人で笑えた。
「じゃあ、聖名、これからとりあえず1ヶ月間よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
と、応えてくれる聖名は、口元が何だか照れくさそうだった。
1ヶ月後といえば、、ちょうど12月半ば。クリスマスの直前。
聖名と会えなくなっているのかと思うと少し寂しい…と思っていると聖名は、
「もしかすると、もう少しお願いするかもしれない」
「えっ?」
「うん。選挙が早まるかもしれないから」