「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

小説「傾国のラヴァーズ」その34・どうした、聖名?

2023-04-17 22:13:00 | 傾国のラヴァーズその31~40
 俺が開けるより早く聖名はドアを開け、
「 先輩 シャワー どうぞ。あっ、 LINE 忘れた 。ごめん」
 珍しく ぶっきらぼうな感じだった
 何かあったのかな と、心配になったが 、俺は普通にありがとうと返してすぐにシャワーを浴びに行った。


 上がる時に風呂の掃除もして浴室から出ると、リビングには明かりはついていたが 彼はいなかった。
 
 「おやすみなさい」のメモだけ。
 
 何だか寂しかったので 俺も下におやすみなさい と書いておいた。


 次の朝、そういえば、リビングのテーブルには例の紙はなかった。
 無事、聖名よりも早く起きられた訳だが…
 今度から取りあえずは、起床時間を決めておいてもらおうと思った…
 そこに聖名が起きてきて二人で朝食の準備を始めたが、妙に彼の表情は険しかった。
 そして、テレビをを見ながらの朝食。番組は、難しい経済番組だ。そして、聖名の口数は少ない。

 自分も同じだが、やはり他人と暮らすのは気を使って大変なのかなと思った。
 ルームメイト気分で、とはいえ 何人もいる シェアハウスとは違ってなまじ 2人暮らし だから食事を別々にするのも不自然だし…
 
 そんなことを考えていると、

「先輩 今日時間ある?  今日の風呂上がり そこのテレビで一緒にYouTube の動画見ない?」
 俺は少しほっとして、いいよと答えた。

 その日も外出で、「秘書」の 俺 は 彼のクライアントのところへ ついて行き、大いに緊張して会社に帰ってきた。






小説「傾国のラヴァーズ」その33・聖名のカニ

2023-04-16 22:26:00 | 傾国のラヴァーズその31~40
 彼の横顔は 何だか冷ややかだった
「あと、お願いしたいのは、家の固定電話の電話番」
「家の固定電話は廃止できないの?」
 一人暮らしになってからずっと携帯だけなので、 俺はピンと来なかったのだ。

「うん 会社始めた時 、自分の家を事務所にしてたから、電話も家のを会社の電話として名刺やホームページで宣伝していた時期があったんだ。それでたくさんのお客さんに出会ったんだ」

 それから 2、3年も経っているが、 この 固定電話への連絡は今でもあるという

「最近は ごくたまにしか来ないけれど、それでも 人脈が広がっていい面があるからやめたくないんだ。それなのに…その…例の変な電話が混ざってきて…」
「わかった それは全部俺が出て必要なものだけ取り次ぐよ」

「それ聞いたらほっとした。センパイ、 ありがとう」

と、いつしか カニをむくのに夢中になっていたらしい聖名の目は、涙をたたえかけているようにも見えた。
 カニは照れ隠しに見えた。


 初めて出会った日ほど 宴会は盛り上がらなかった。

 おひらきの後は、俺はリビングの固定電話の子機を自分の部屋に置き、荷物の整理をしながら、シャワーの順番を待っていた。

 ノックの音がして、俺は、
「はーい」
何だか嬉しいのはどうしてなんだろう。




小説「傾国のラヴァーズ」その32・聖名って呼ぶ…よ

2023-04-16 07:37:03 | 傾国のラヴァーズその31~40
 フルートグラスにゴールドのスパークリングワインが注がれ、無数の泡が立ち上っていた。
 そのグラスをカチャ、と ぶつけて2人で乾杯した。

 しかし俺は一口飲んだ途端 、不安だけではなくなぜかワクワクし始めていた。

「ありがとうございます俺一人なのに着任 祝いまでしていただいて」

すると 彼の表情は少し曇り、

「いや そうなんですけど、そういうことになるのかもしれないですが、俺としては その、初めてのルームメイト なわけじゃん。海原センパイが。それを喜んでいるってこともわかってください」

と、応えてくれる彼は、口元が何だか照れくさそうだった。

 俺の方も それを見てなんだか照れてしまい、よくわからない 複雑な気持ちになった。

「鈴ちゃん 、ごめん。実は俺にもそういう気持ちがあります。」

 なぜかその言葉に 彼は固まってしまったようだった。
 それを見て俺も固まってしまった。

 その困った空気を破ったのが、

「鈴ちゃんだけはやめてほしいな」

という、冗談めかした 彼のぼやき だった。

「何でだよ」

「にゃんこみたいで やだ」

 俺は笑いをこらえるのに必死だった。彼の怒りの視線を感じながら。
「ごめん、じゃあ何て呼べばいいかな?」
「別に、聖名でいいよ」
「えっ? いきなりの名前呼び?」

 いやいや、この人、クライアントなんだけどな…

「だってその方がマシなんだもん」
 いや、何か理由があるなのかもしれない。彼女にそう呼ばれているとか…

「…そもそもお前がセンパイなんて言い出すからだろ」
「じゃあ翔真センパイって呼ぶってのでどう?」
「うーん、何か照れるような気もするけど、おあいこみたいでいいかな」
「おあいこって何だよ」
むくれる聖名がとても可愛い。
「うーん、恥じらいの点で」
「何だよそれ」

 今度は二人で笑えた。

「じゃあ、聖名、これからとりあえず1ヶ月間よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
と、応えてくれる聖名は、口元が何だか照れくさそうだった。
 
 1ヶ月後といえば、、ちょうど12月半ば。クリスマスの直前。

 聖名と会えなくなっているのかと思うと少し寂しい…と思っていると聖名は、
「もしかすると、もう少しお願いするかもしれない」
「えっ?」
「うん。選挙が早まるかもしれないから」




小説「傾国のラヴァーズ」その31・消えない空白

2023-04-15 21:24:00 | 傾国のラヴァーズその31~40
 俺は嬉しくなって、
「ワインですか。いいですね 。でも平日なのに大丈夫ですか?」
 ノンアルコールではないのも気になったが、中止になるのが嫌で 、それは言わなかった。
「うん。ていうか海原センパイの歓迎会 っていうことで。自宅で悪いけど」
 一瞬は喜んだが…
 思えば昨日のあの空白は、何だったのかと思うとまだモヤモヤするが、
「じゃあ お言葉に甘えてお願いします!」

 …ワインはキラキラ輝く スパークリングワインだった。
 さらに料理も俺の目から見てかなりのごちそうだ。
「すごいなあ」
 俺が何気なく言うと、彼も何事もなく、
「このために 昨日少し買い出ししたから」
と言う。
 俺はフリーズしてしまった。
「それで 雲隠れしていたのか?」
「それについては本当にごめんなさい。そして食料買い出しに行ったのは日曜日。記憶違い」
 日曜はまだ俺の常駐が決まってなかったはずだが…まあいいか。

「昨日は本当に会合で、金策ではないからね。 信じて」
「いやそれは全く思わなかったけど…」

 そうか。
 彼は社長なんだから、よその社長と同じように、資金繰りが厳しい時は走りまわることもあり得たわけか。

 でも、彼の元気のなさを見る時、やっぱり誰かに何かされたんじゃないかという気がするのだ。
 しかしそれは当たっているようで、怖くて何も言えなかった。




小説「傾国のラヴァーズ」その30・聖名ちゃんとワイン?

2023-04-14 21:46:50 | 傾国のラヴァーズその21~30
「困った電話の時は、スピーカーにするから、近くで相手に聞こえるように何か話してほしい。オレのこの問題を知っているかよわい女性じゃなくて男性が、常にオレのそばにいることをさりげなくアピールできると思うから」
「わかりました」
 そこまで一気に語ると彼は少し安心したようで、
「他にもいろいろ出てくると思うけど、その都度相談するよ」

 その日の彼は一日中 社内でおとなしくしていた。
 財務会計に関する本や社内の財務資料をゆっくりと読み込んでいるようだった。

 実は俺の方は 高橋さんからメールで、ではあったがきつく、彼から目を離すなと言われていた。

 それで、ということらしく、お昼は 高橋さんが近所の弁当屋さんで3人分 唐揚げ弁当を買ってきてくれた。
 よっぽど彼を外に出したくなかったのだろう。


 しかしその日は社長室は早めに上がった。
 車の中で彼はようやく笑顔で、

「ねえ今日ワイン飲まない?」

 彼はいつも助手席に乗ってくる。