とはずがたり

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新型コロナウイルスの細胞内への侵入は既存のプロテアーゼ阻害薬で抑制可能である

2020-03-12 23:11:59 | 新型コロナウイルス(治療)
すでに中東や東南アジアなどでも患者が確認されていることから、「夏になれば終息するだろう」という期待が薄くなった新型コロナウイルス感染症ですが、そうなるとワクチンが開発されるか(まだ時間がかかりそう)、何らかの治療薬が開発されるまで騒ぎは収まりそうにありません。そのような中で病因ウイルスSARS-CoV-2の感染様式が詳細に明らかになってきており、ある程度標的が絞られてきたようです。
SARS-CoV-2ウイルスは同じコロナウイルスであるSARSウイルス(SARS-CoV)と類似した構造を有しています。ウイルス粒子表面にspike (S) proteinからなるスパイク構造を有しており、S proteinがプロテアーゼによってS1/S2およびS2’ site切断されることによってウイルスと細胞との膜融合を誘導し、細胞に感染します。この時ウイルスは細胞のangiotensin-converting enzyme 2 (ACE2)を受容体とし、セリンプロテアーゼであるTMPRSS2をS proteinの切断・活性化に用いることが知られています。この論文で著者らはSARS-CoV-2についても同様のメカニズムが関与しているかを検討しました。
まず著者らはSARS-CoV-2のS proteinであるSARS-2-Sを293T細胞に発現させることが可能であり、293T細胞中でプロテアーゼによる分解をうけてS2が生じることを明らかにしました。次にSARS-2-Sを外套するVSV (vesicular stomatitis virus)シュードタイプウイルスをモデルとして用いてSARS-CoV-2の細胞内侵入メカニズムを検討しました。SARS-CoVとSARS-CoV-2はS proteinのACE2への結合モチーフが保存されており、ACE2を発現する細胞にはVSV SARS-S, SARS-2-Sとも細胞内侵入が可能であり、ACE2に対する抗体によって侵入は阻害されました。一方でMERS-CoVの受容体として知られているDPP4のみを発現する細胞には侵入ができませんでした。この結果から、SARS-CoV-2もまたACE2を利用して細胞内に侵入すると考えられました。
細胞のエンドソームに存在するプロテアーゼによってS proteinが切断されることが侵入には必要であり、この過程にカテプシンB/LおよびTMPRSS2というシステインプロテアーゼが重要であることがSARS-CoVでは明らかになっています。NH4Clによって細胞内のカテプシンB/LをブロックするとVSV SARS-2-Sの侵入もブロックされました。またcamostat mesylate(TMPRSS2阻害薬)およびE-64d(カテプシンB/L阻害薬)によってVSV SARS-2-Sの侵入は完全にブロックされました。重要なことにcamstat mesylateは肺細胞株Calu-3細胞へのSARS-CoV-2ウイルスの感染を抑制し、初代培養肺細胞へのVSV SARS-2-Sの侵入も抑制することが明らかになりました。最後にS proteinに対する中和抗体を有するSARS患者の血清およびウサギ抗S protein抗体はVSV SARS-SのみならずVSV SARS-2-Sの細胞内侵入も抑制し、SARS-CoV-2感染を抑制する可能性が示されました。
Camstat mesylateはすでに慢性膵炎の経口治療薬として臨床で用いられていることからも、早期の臨床への応用が期待されます。またS proteinを標的とした抗体製剤がCOVID-19治療薬として開発されることも期待されます。
SARS-CoV-2がS protein-ACE2-cathepsin axisを利用して細胞に侵入することはSARS-CoVのアナロジーからすでに推定されていましたし、研究のつっこみが浅い面はあるのですが、全世界が待望しているCOVID-19治療薬候補として既存薬が有効である可能性をいち早く提示したという点で注目すべき研究です。
SARS-CoV-2 Cell Entry Depends on ACE2 and TMPRSS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inhibitor.
Cell. 2020 Mar 4. pii: S0092-8674(20)30229-4. doi: 10.1016/j.cell.2020.02.052. [Epub ahead of print]



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