とはずがたり

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補体C4とSLE, Sjögren症候群, 統合失調症との関連

2020-06-26 23:07:45 | 免疫・リウマチ
全身性エリテマトーデス(SLE) は関節リウマチと並ぶ代表的な膠原病です。未だにステロイド以外に有効な治療法が少ない難病です。SLEのリスクは66%が遺伝性であるとされていますが、細胞にダメージが加わるようなトリガー(感染やひどい日焼けなど)によって発症することも知られています。ゲノム解析からSLEがHLA遺伝子を含むMHCアレル(遺伝子座)の変異と最も強く関連することが知られています。しかし明確な責任遺伝子は明らかになっていません。
補体遺伝子であるC4はMHCクラスIII領域に位置し、2つのparalogであるC4A, C4Bとして存在することが知られています。SLE患者ではしばしば低補体血症が見られ、これまでにC4, C2, C1Qなどの補体の完全な欠損がまれな重症型早発SLEを起こすこと、C4のeffectorであるC3の受容体であるITGAM遺伝子がSLEの最も強い関連遺伝子であることなどが報告されています(Harley et al., Nat Genet. 2008 Feb;40(2):204-10)。しかしC4A, C4B遺伝子は構造が複雑で、多くのアレルからなり、遺伝子数も人によって異なっているため、大きなコホートでの解析は難しいとされていました。この論文で著者らは、whole-genome sequenceデータをSNPデータと組み合わせ、imputationによってSLEリスクがC4A, C4B遺伝子のcopy数と関連し、11通りのC4A遺伝子およびC4B遺伝子のcopy数の組み合わせの中で、SLEのリスクが7倍(95% CI 5.88-8.61)異なることを明らかにしました。C4A遺伝子が1 copy増えることによるodds ratio(OR)は0.54、C4B遺伝子が1 copy増えることによるORは0.77になることが算出されました。同様の傾向はSjögren症候群においても認められ、リスクの違いは16倍、C4A, C4B遺伝子が1 copy増えることによるORはそれぞれ0.41, 0,67でした。
SLEおよびSjögren症候群によるC4 gene copyはヨーロッパ人ではHLA-DRB1*03:01によるものと考えられていましたが、DRB1*03:01アレルはC4A遺伝子を欠くC4-B(S)アレルと強い連鎖不平衡を示しました。一方アフリカ系アメリカ人ではC4アレルはHLAアレルとの連鎖不平衡が弱く、HLA-DRB1*03:01との関係も認められません。一方SLEとC4A, C4B copy数との関連はヨーロッパ人と同様に見られました。
SLEやSjögren症候群の頻度には男女差があることが知られていますが、C4A, C4Bとの関連は特に男性で強く見られました。興味深いことに統合失調症は男性で頻度も重症度も高い疾患ですが、C4A, C4B copy数との関連はSLEやSjögren症候群と逆の傾向を示しました。つまりcopy数が増えるほどリスクが上昇するということです。また髄液中のC4およびそのeffector C3の濃度は男性で高く、男性では20-30歳で、女性では40-50歳で濃度が上昇することも明らかになりました。この年代で統合失調症を発症する人が多いことと関連しているかもしれません。
これらの結果は、SLEやSjögren症候群の発症にはC3, C4などの補体活性の低下によって死細胞、傷害細胞の産生するdebrisをうまく取り除けないことが関係している可能性を示唆しています。またC4A, C4Bのcopy数がこれらの疾患と統合失調症では全く逆の関連を示すことが、疾患の性差に関係するのではないかと考察しています。
Nolan Kamitaki et al., Complement Genes Contribute Sex-Biased Vulnerability in Diverse Disorders. Nature. 2020 Jun;582(7813):577-581.
doi: 10.1038/s41586-020-2277-x. Epub 2020 May 11.




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