とはずがたり

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新たな機序を有する抗菌薬

2020-06-26 11:01:18 | 感染症
梅雨時になると感染で入院してくる患者さんが増えるような気がするのは私だけでしょうか。抗菌薬の歴史は、1909年のパウル・エールリヒによる梅毒治療薬サルバルサンの開発、そして1928年のフレミングによるペニシリンの発見以来、細菌との長い戦いであり、そして最近では耐性菌との戦いの歴史でもあります。MRSAを代表とする薬剤耐性菌に対する抗菌薬の開発はともすればイタチごっこになってしまい、新薬が出た次の年にはその薬剤に対する耐性菌が出たり、ということも少なくありません。この理由としては、新たな抗菌薬が結局従来のものと同様の機序で作用する場合が多いことが考えられます。このような中で新たな作用機序を有する抗菌薬の開発が期待されています。理想的な抗菌薬の条件として、副作用が少ないことは当然として、①耐性菌ができにくい、②グラム陽性・陰性いずれにも有効、③手に入れやすい、ことが挙げられます。著者らはこの論文において新たな抗菌薬候補抗菌薬の作用機序(mechanism of action, MoA)を明らかにしました。
彼らは33,000の低分子ライブラリーから大腸菌lptD4213株の増殖を抑制する化合物としてSCH-79797を同定しました。SCH-79797は以前PAR-1アンタゴニストとして知られていた化合物でしたが、大腸菌にはPAR-1は存在しないため、何か他の機序で直接抗菌作用を示すと考えられました。SCH-79797は5 mg/kgまで動物に対する副作用は示さず、in vitroではグラム陽性・陰性菌いずれに対しても有効で、多剤耐性のWHO-L N. gonorrhoeaeやMRSAに対しても効果を示しました。またSCH-79797は多剤耐性アシネトバクターであるA. baumanniiのハチノスツヅリガ感染モデルに対しても有効で、毒性を示すことなく生存期間を延長しました。
MRSAにおいてもBacillus subtilis(枯草菌)においても耐性菌の出現は見られませんでした。
SCH-79797のMoAを明らかにするために、bacterial cytological profiling (BCP)という方法を用いて他の37種類の抗菌薬との比較を行いましたが、いずれとも異なるMoAという結果でした。そこで新たな機序を解明するためにthermal proteome profilingを行い、SCH-79797が大腸菌のdihydrofolate reductase(DHFR, 大腸菌ではFolAとしても知られる)に結合して、その熱安定性を変化させることが明らかになりました。これに加えてSCH-79797は細菌の細胞膜を破壊して膜透過性を高める作用も有することも明らかになりました。すなわちSCH-79797は葉酸代謝阻害および膜の破壊というdual effectsによって殺菌作用を発揮する新たな種類の抗菌薬であることが示されました。興味深いことに、これらの作用を個々に有する2つの抗菌薬をcombinationで使用した場合よりもSCH-79797の殺菌作用は強いことも明らかになりました。著者らはSCH-79797をもとにしてIrresistin-16 (IRS-16)という新たな低分子化合物を作成し、この化合物がGram陰性菌N. gonorrhoeaeのマウス膣感染モデルを用いて、強力な殺菌作用を有することを示しています。
このような新たな作用機序を有する抗菌薬を手に入れることによって、細菌との戦いは新たな局面に入るのでしょうか?大変期待するとともに、勝つと思うな思うな負けよ、という結果にならないことを祈ります。。(๑*д*๑)

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