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SARS-CoV-2感染が示すユニークな遺伝子発現プロファイル

2020-04-26 09:40:11 | 新型コロナウイルス(疫学他)
SARS-CoV-2は極めてユニークな病態を形成しますが、この論文ではインフルエンザウイルス(IAV)などと比較して、SARS-CoV-2の誘導する遺伝子profileの違いを調べることで病態に迫ろうとしています。ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞であるA549細胞(にACE2を発現させた細胞)やprimaryの気管支上皮(normal human bronchial epithelial, NHBE)細胞への感染系を用いて、SARS-CoV-2ではIAVと比較してinterferon(IFN)-I, III発現に関与するTBK1の活性化、STAT1, MX1, INF-1 stimulated genesの誘導が生じず、IFN-I, III誘導が極めて弱いことが明らかになりました。一方interferon stimulated genes(ISGs)の発現誘導はある程度検出され、またCCL20, CXCL1, IL-1B, IL-6, CXCL3, CXCL5, CXCL6, CXCL2, CXCL16, TNFなどの種々のケモカインやサイトカインの強い発現誘導が見られました。
フェレットを用いた動物モデルでも、ウイルス増殖が盛んな3日目から7日目にかけてCCL8, CCL9, CCL2などのケモカイン、サイトカインの誘導が見られ、様々な白血球の浸潤も見られました。
死亡例の肺を調べたところ、やはりIFN-I, IIIの誘導は見られず、ISGsの軽度上昇、CCL2, CCL8, CCL11などのケモカインの著明な上昇がみられ、またCOVID-19臨床例の血中でもIL-6, IL-1β, IL1RA, CCL2, CCL8 CXCL2, CXCL8, CXCL9, and CXCL16などの上昇が見られました。
この結果からSARS-CoV-2はIFN-I, IIIの誘導能が低く(従って細胞の抗ウイルス作用の誘導が低く)、一方で様々なケモカイン、サイトカインの誘導能が高い(従って著明な炎症反応やサイトカインストームを誘導する)というある程度ユニークな特徴が見えてきました。
この研究のclinical applicationとして、血中のケモカインやサイトカイン濃度をモニターすることで感染がどのような時期にあるかを検出し、抗ウイルス療法を行う時期であるのか、抗サイトカイン治療を行う時期であるのかを明らかにすることによって、より標的を絞った治療戦略を立てることが可能かもしれません。また動物モデルで血球系の前駆細胞に見られる遺伝子誘導が気管において見られることも示されており、造血系に対する作用メカニズム解明のヒントになるかもしれません。SARS-CoV-2の特徴として全身の様々な組織、細胞への感染が見られることも報告されており、今後このような組織、細胞におけるユニークな特徴も明らかになっていくかもしれません。 
Daniel Blanco-Mel et al., Imbalanced host response to SARS-CoV-2 drives development of COVID-19
Cell, Journal pre-proof
DOI: 10.1016/j.cell.2020.04.026


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