Tauタンパクは微小管結合タンパク質の一種であり、主に神経細胞の軸索に存在することが知られています。Tauがアルツハイマー病などの脳に形成される神経原線維変化(neurofibrillary tangle)の主要成分であることや、家族性前頭側頭型認知症パーキンソニズムであるfrontotemporal dementia and parkinsonism-17(FTDP-17)において多くのtau遺伝子変異が同定されたことなどからtauと神経疾患との関係が注目されるようになり、Tau細胞内封入体を有する神経変性疾患のことはtauopathyとも呼ばれています。アメフト選手などに見られることで有名になった慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy)もtauopathyの1つであるとされています(映画”Concussion”で有名です)。Tauopathyにおける疾患の進行は病的なtauの脳内の拡散と相関することが知られていますが、この論文でUniversity of CaliforniaのKenneth S. Kosik らはtauの神経細胞への取り込みにおけるlow-density-lipoprotein receptor (LDLR) protein familyの役割に注目し、low-density lipoprotein receptorrelated protein 1 (LRP1)が重要な役割を果たすことを明らかにしました。LRP1をノックダウンした神経細胞ではtauの細胞内への取り込みが低下しており、同様の取り込み低下はLRP1結合タンパクであるRAPを加えることによっても認められました。TauとLRP1との結合にはtauの微小管結合部位に存在するlysine残基が重要であることもわかりました。さらにLRP1の発現を抑制することによってマウス脳におけるtauの拡散が抑制されることも示されました。以上の結果は、LRP1がtauの脳内拡散に重要な役割を果たしており、tauopathyの治療標的になる可能性を示しています。しかしLRP1は様々な組織に広く存在しており、欠損マウスでは運動機能に障害がみられることなどから、直接の治療標的としては問題もありそうです。
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