とはずがたり

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ストレスが体温を上昇させるメカニズム

2020-04-02 14:27:00 | 神経科学・脳科学
2020年も4月になり新年度がスタートしました。普段なら新たな生活に胸躍らせる方が多い時期でありますが、今年は新型コロナウイルス騒ぎで様々な行事が中止になったりで、ストレスが溜まっている方も多いのではないでしょうか。「37.5度以上が4日間続いたら感染を疑う」というようなルールが浸透しているため、毎朝体温を測る前に「熱発していたらどうしよう・・」と不安(ストレス)を感じているこの頃です。さて今回紹介する論文は「ストレスが体温上昇に働くメカニズム」という内容です。著者である名古屋大学の中村和弘教授は以前から脳による代謝や体温調節メカニズムの研究に取り組んでおられるこの分野の第一人者です。
一般の方にもストレスが様々な生体反応を惹起することは周知されていますが、過去の研究から過度のストレスによる交感神経系の亢進はpsychogenic fever(心因性発熱)を誘導し、このとき褐色脂肪組織(brown adipose tissue, BAT)の温度上昇を伴うことがわかっていました。この温度上昇は解熱剤に抵抗性であることから、単なる炎症とは異なるメカニズムの関与が示唆されていました。交感神経ストレス反応においては、視床下部背内側部(dorsomedial hypothalamus, DMH)から延髄縫線核(rostral medullary raphe region, rMR)への神経回路がBATにおける熱産生や心血管反応に重要な役割を果たすことが報告されていますが、ストレスや感情を制御する皮質辺縁回路が交感神経興奮性DMHニューロンを活性化するメカニズムはわかっていませんでした。この論文ではオプトジェネティックなアプローチと遺伝子改変マウスを巧妙に組み合わせてストレス信号をDMHに伝達する経路を明らかにしました。
(結果)まず人間関係のストレスを模倣した動物モデルである社会的敗北ストレス(!)(social defeat stress, SDS)をラットに加えた時にDMHに投射されるニューロンを逆行性ラベリングで調べたところ、内側前頭前皮質(medial prefrontal cortex, mPFC)の特異的な部位のニューロン(前辺縁皮質[the prelimbic cortex, PrL]、下辺縁皮質[infralimbic cortex, IL]、背側脚皮質[dorsal peduncular cortex, DP]、背側蓋紐[the dorsal tenia tecta, DTT])の活性化が認められ、DMHに投射されることが明らかになりました。このうちmPFCの主要な部分をしめるPrL, ILはストレスに対して抑制的に働くことが知られていましたが、DP/DTTからDMHへの神経伝達路の役割はわかっていませんでした。
SDSはBATの温度および体温を急速に上昇させますが、DP/DTTを破壊すると、この上昇が抑制されます。同様に心拍数増加や血圧上昇も抑制されます。逆にDP/DTTを人為的に活性化するとDMH→rMR経路の活性化を介してストレス反応が惹起されます。同様の結果はオプトジェネティックな手法でDP/DTT→DMH経路を活性化しても認められました。またAAVウイルスベクターによってDP/DTT→DMH投射ニューロンに特異的にアポトーシスを誘導すると、SDSによるBATの温度上昇および発熱は生じなくなりました。これに対してDP/DTT→LHあるいはIL→DMH経路の刺激はストレス反応には影響を与えませんでした。DP/DTT→DMH経路の抑制は他のストレスモデルであるケージ交換ストレスによるBATの温度上昇も抑制しました。またこの経路を抑制すると、ストレスを回避しようとする行動も抑制されました。最後にDP/DTT は、情動を処理する前脳の複数の領域からストレス信号を受け取ることも明らかになりました。
これらの結果から、ストレスや情動といった大脳皮質や辺縁系の信号がDP/DTT→DMH→rMRという経路を介して体温上昇や頻脈、血圧上昇といった身体機能を調節していることが明らかになりました。「新型コロナウイルスが心配だ。。」というようにストレスをためていると、それが体温上昇につながるかもしれないので要注意です!それにしても「社会的敗北ストレスモデル」という名称にビビります。



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