「血管年齢」という言葉もありますが、加齢による変化で最も目立つものの一つが動脈硬化などの血管の障害です。血管の老化と一口に言っても様々な側面がありますが、十分な微小血管密度 (microvascular density)の維持ができなくなるのは加齢の一つの特徴です。この論文は、加齢に伴う微小血管の希薄化がVEGF(Vascular endothelial growth factor; 血管内皮細胞増殖因子)の機能障害に起因する可能性を報告したものです。
VEGFは多くの組織で血管上皮細胞や非血管細胞において産生され、その結果VEGF受容体(VEGR)シグナルは恒常的に活性化された状態になっています。マウスにおいて全身や局所のVEGFは加齢による変化をあまり受けませんが、受容体シグナルの恒常的活性化は抑制されています。この理由として、全身の様々な臓器・細胞における可溶型VEGFR1 (sFlt1)の産生亢進が関与する可能性が示されました。マウスでは加齢とともに、sFlt1の発現上昇が見られ、これがVEGFをトラップすることでVEGFRシグナル活性化を阻害します。このようなsFlt1の発現亢進はalternative splicingの亢進に起因することも明らかになりました。この状態を模したsFlt1過剰発現マウス においては、筋におけるVEGFRシグナルの減弱が見られました。またテトラサイクリン誘導性にVEGFを過剰発現するマウスでは、加齢に伴う微小血管密度希薄化が改善し、エネルギー代謝が改善することで肥満も抑制され、寿命が延長することが示されました。このマウスでは加齢にともなうサルコペニアや骨粗鬆症も改善していました。またいわゆるinflammaging (炎症老化)が改善し、悪性腫瘍の発生も抑制されることが明らかになりました。VEGFというと、腫瘍の発達に関与し、その阻害抗体に抗腫瘍効果があることがわかっていますので、この結果は驚きです。
この結果をそのままヒトにあてはめて良いかは疑問ではありますが、VEGFの新たな役割を明らかにしたという点で大変重要な報告です。
Counteracting age-related VEGF signaling insufficiency promotes healthy aging and extends life span
M. Grunewald et al., Science 30 Jul 2021: Vol. 373, Issue 6554, eabc8479 DOI: 10.1126/science.abc8479
https://science.sciencemag.org/content/373/6554/eabc8479
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