ヒトにおいてdopamineシグナルが加齢とともに低下しており、dopamineレベルが高いことが認知機能改善につながることが報告されています。線虫の一種であるCaenorhabditis elegans(C. elegans)は長寿命変異体が単離されていることなどから、老化研究にしばしば用いられますが、C. elegansのBAS-1分子はserotoninや dopamine合成に関与しており、加齢に伴うBAS-1低下がC. elegansの行動変化に関与することが明らかになっています(Yin et al., J. Neurosci. 34, 3947–3958, 2014)。本研究において著者らはBAS-1レベルを変化させる遺伝子をゲノムワイドのRNAiスクリーニングによって解析し、BAZ-2, SET-6という2つの分子を同定しました。両分子はいずれも遺伝子のepigeneticな制御に関与しており、特にSET-6はヒストンH3K9me3修飾に関与するmethyltransferaseであることが確認されました。これらの遺伝子を欠損したC. elegansは加齢による行動変化が生じにくく、寿命も延長していることが明らかになりました。これらの分子はミトコンドリア機能に関する遺伝子をH3K9me3修飾によって負に制御しており、マウスhomologであるBaz2b, Ehmt1もまた同様の作用を有していました。さらにこれらの遺伝子のノックアウトマウスは、加齢による認知機能低下が生じにくいことも明らかになりました。認知機能に関与する分子がC. elegansと哺乳類で共通しているという結果は極めて興味深いものであり、C. elegans研究が今後の認知症研究においても大きな役割を果たす可能性を示唆しています。
Nature. 2020 Mar;579(7797):118-122. doi: 10.1038/s41586-020-2037-y. Epub 2020 Feb 26.
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