経営コンサルタントの知見

経営に役立つ知見をgoo blogで

「私の本棚2025.3.25」

2025-03-25 11:36:51 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

『ドイツの「失敗」に学べ』―ドイツの現在は日本の未来か-

                                                                                   (川口 マーン恵美著 発行:WAC)

  • 日本人がイメージするあのドイツはもうない(はじめに)

 著者は、1985年ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科を卒業、以来40年ドイツに在住し、日本に於いても、現在、「現代ビジネス」「JBpress」「PRESIDENT Online」等の寄稿者として、また、数多くのYouTubeチャネルのゲスト出演者として活躍する傍ら、拓殖大学日本文化研究所客員教授を勤める作家です。

 また、政治・社会・経済に関わる30冊以上の著作を発表しており、日本人の魂の視点から見る、ドイツを中心とするヨーロッパについての著者の知見は、奥深く、傾聴に値します。

 そんな著者は、EUの経済大国のドイツが、GDPの前年比で3年連続のマイナス(2023年▼0.3%、2024年▼0.2%、2025年▼0.1%の予想)となる「崩壊の始まり」について、著者の視点で深堀し、解説します。

 ドイツと言えば、明治維新から間もない日本にとっては、法律、科学、音楽、医学 などを教えてもらった国であり、多くの日本人は今でも「ドイツは、まじめで勤勉な人たちが住むハイテク工業国」と信じています。

 しかし、著者は今のドイツについて次の様に言います。「私が暮らし始めた40年前はその通りでしたが、いつの間にかすっかり様変わりし、人々が勤勉に働き、電車や郵便が正確に機能するドイツは、すでにない」と。

 この要因は、『異様なまでに民主主義を強調(政権に異を唱える勢力・人々を“差別主義”“極右”等のレッテルを張り黙殺)し、脱原発を加速させ、移民・難民を無制限に受入れ、LGBT擁護にお墨付きを与え、再エネやEVを推進し、中国と蜜月関係を築き、EU加盟国の主権をEU本部に移譲することに力を注いだ、メルケルのグローバリズム政治の結末』であると著者は言います。

 この危機的状況について、ドイツ産業連盟(BDI)のペーター・ライビンガー会長は、『「原因は国内要因であり、政府が取組めなかった2018年以来の構造的弱さ(原子力と石炭火力からの脱却)の結果」であり、「近代的なインフラや経済の転換と耐性への公共投資が早急に必要」とし、「官僚主義の是正、エネルギー価格の引き下げ、ドイツの技術革新と研究を強化するための明確な戦略が必要」』と述べています(2025.1.28.Reuters記事より)。

 著者が語る、『「ドイツの失敗」に学べ』について、日本が何を学ぶべきかを次項でご紹介します。

  • 日本が学ぶべき「ドイツの失敗」

【非科学的で不合理だった「脱原発」と「再エネ」】

 ドイツの現在の経済状態について、ミュンヘンに拠点を置くifo経済研究所は、2024年3月6日に次のような景気予測を発表しました。『(EUの)他国では国民の間での雰囲気も良く、先行きに対する不安もなく、既に2023年秋頃より、景気指数なども上向き傾向を示しているのに比し、ドイツ経済は「麻痺した状態」である』と。

 著者はこの発表に対し、「要するに、ドイツだけが完全に落ちこぼれている」と論じます。

 ドイツだけが落ちこぼれている要因の一つは、脱原発、脱石炭です。2023年4月には最後の原発が止まり、2024年8月には原発2基の冷却炉が計画的に爆破され、原発再稼働を不可能にしています。現政権(社民党、緑の党、自由民主党の連立)は、2030年までに全ての石炭火力を停止する公約を掲げ、供給が不安定なガス火力と高コストの再エネに舵を切っています。この結果、電気料金の高騰と(家庭電気料金では、日本の約2倍)、供給の不安を招き、電気やガスを多く使う大企業が、大慌てで、生産拠点の海外移転を進めています。「脱原発」「脱石炭」の次は「脱産業」と著者は指摘します。

 その証拠に、化学業界世界最大手のBASFや自動車のフォルクスワーゲン、ベンツ、BMWが、国内での生産計画を、中国での生産に変えているのです。結果雇用は雪崩のような勢いで崩れているのです。しかしショルツ首相は「ドイツ企業が国外で投資するのは良い事だ」と的外れのコメントをしているのです。

 ドイツは、GDPの0.35%を超える財政赤字を禁じる「債務ブレーキ」によって、財政が制限されています。この様な中で、再エネ拡大に注力するあまり、インフラ整備が無視された結果、2024年9月にはドレスデンの中心部にある重要な橋が自然崩壊したことが象徴するように、道路も橋も鉄道もボロボロで、改修には2030年までに60兆円(3,720億ユーロ)を要すると言われています。

 こうして、再エネへの舵取りが、「脱産業」や「公共投資の停滞」等を招き、結果、ドイツの国際競争力は2014年6位(日本24位)、2022年15位(日本34位)、2024年には24位(日本38位)へと急降下して行くのです。(ドイツと日本のベストランクは1992年。ドイツ5位、日本1位。)

 著者は言います。『GXで豊かになるのは、ドイツでも日本でもない。中国だ。ドイツも日本も、自分の間違いに気付かずに、「自ら坂道を駆け下りている」』と。

【「移民・難民」・・次々に巻き起こる異変】

 2015年9月、経済安全保障上から存在する、難民に関するEUの基本ルールである“ダブリン協定(難民は到着した国の国内のみで滞留)”と“シェンゲン協定(難民は到着国以外へは自由に移動でない)”を、メルケル首相が、経済安全保障のルールを人道問題に置き換えて、破り、ハンガリーに足止めされていた難民を、自由にドイツに入れました。2015年~2016年のドイツに流入した難民は120万人を超えたのです。

 その後、2017年からは難民・移民受け入れの上限を20万人に設定しましたが、ドイツへの流入は続いています。因みに2022年においてEUにおける難民申請は97万人でしたが、そのうち25%の24万人が、社会保障が手厚い、ドイツに入国しています(2024.5.28保険毎日新聞社Column)。これらの結果、ドイツの滞在許可が取れず、退去しなければならない外国人の累計が、現時点で330万人に迫っています。

 この様な背景の中、ドイツで今、何が起こっているのでしょう。それは犯罪の増加(1)と社会経済の混乱(2)です。

 まず、(1)犯罪の増加について視てみましょう。

 ドイツと日本の犯罪状況を見てみましょう。2023年の犯罪件数は、ドイツが594万件(前年比+5.5%)、日本は70万件(前年比+17%)です。人口10万人当たり件数で見ると、ドイツは日本の約13倍になります(外務省海外安全H・Pより推定)。なお、日本の犯罪件数のピークは2002年の285万件、ボトムは2021年の56万件です。2023年の前年比+17%は、特殊詐欺の前年比+85%が、増加の主な要因であることに留意しておきましょう。

 注目したいのは、ドイツの犯罪件数の外国人(その国のパスポートを持っていない)比率です。著者が引用する、ドイツ連邦警察の2023年データと警察犯罪統計によれば、ナイフによる殺傷事件(8951件。前年比+10%)、性犯罪(1万2186件。前年比+2.4%)では、外国人比率は約85%です。

 一方、全ての犯罪で見ると、警察が検挙した犯罪容疑者の数は、前年比で7.3%増えて約225万人。このうち、外国人の容疑者の数は前年比で17.8%増えています。2009年には、検挙した犯罪容疑者全体に外国人が占める比率は21%でしたが、2023年には、41%とほぼ2倍に増えています(2024.5.28保険毎日新聞社Columnより)。因みに、日本の犯罪件数における外国人比率は約5%です。

 ドイツの治安の悪化は、難民など外国人の増加によることが理解できると同時に、殺傷犯罪や性犯罪における外国人比率の異常な高さには恐怖を覚えます。最早、ドイツでは夜間は勿論、日中でも一人歩きが危険な状況です(外務省海外安全H・Pより)。

 著者は川口市で起きている「クルド人問題」を挙げ、ベルリンやケルンで起こっている『警察も入りたがらない「クルド租界」』にならないよう、川口市の「クルド人問題」を契機に、国として不法な難民・移民を入れない対応策を講じるべき時と警告しています(川口市のクルド人は、アルバイトを難民と偽って入国している不法移民。2016年法務省調査で判明。2025.1.21産経新聞社説より)。

 つぎに、(2)社会経済の混乱です。

 著者は社会経済の混乱の最大の要因を、「求職者基礎保障制度」を刷新し2023年からスタートした、「市民手当(Bürgergeld)」であると指摘します。この制度は、受給者の家賃の全額補償と同居者も含め一人当たり約9万円の支給を受けられる他、光熱費、暖房費、テレビ受信料、子供託児所料金なども全額補助される制度です。年金生活者や薄給の独身者より収入が多くなっても不思議ではない制度です。そして移民・難民でも滞在許可があれば受給できる制度です。

 2024年3月時点では、受給者合計は550万人(ドイツ人口8520万人の6.5%)で、このうち、労働が可能にも拘らず、働いていない人が400万人、労働不可能な人が150万人です。受給者の3分の2(約360万人。ウクライナ人難民120万人を含む)は、難民の背景を持つ人です。受給者の収入は、最低賃金で働く収入とほぼ同じなので、働かないのです。

 この結果、財政を圧迫している他、ただでさえ住宅が不足しているドイツで、難民受給者の家賃が補助されることから、次々と難民用集合住宅が建てられるものの(ベルリンでは2023年、128戸の集合住宅を建設。すべて難民用)、それでも難民住居の不足は解消されず、住宅不足に拍車をかけています。また、一部の自治体では体育館に作った仕切りや、昔の兵舎などに、ぎゅうぎゅう詰めにして収容していること等から、不満を抱いた難民と近隣の住民とのトラブルが絶えない等、混乱を起こしています。加えて、働かない難民受給者が多いことは、ただでさえ人手不足の状態に、拍車をかけることに加え、失業率を悪化させています。更には、暇な時間を利用した犯罪にも繋がっているのです。正に、ドイツの社会経済に混乱を来たしているのです。

  • 「ドイツの失敗」に学び、日本も正しい方向に舵を切るべき時が来た(むすび)

 2021年12月8日、メルケル政権に代わり、社民党(SPD)、環境政党の緑の党、リベラルの自由民主党(FDP)の連立政権がスタートしました。

 ポスト・メルケル政権も、経済安全保障を無視し、人道・人権の重視や原理主義的脱炭素に邁進し、悲惨な状況に直面しています。日本もドイツと同様の政策を進め、あるいは進めようとしています。一日も早く、ドイツの失敗に学び、正しい方向に舵を切ることを望みます。。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「私の本棚2025.2.25」

2025-02-25 11:32:46 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

『「世界と日本経済大予測2025-26」Economic risk to business and investment』

                                                                                                (渡邉哲也著 PHP研究所)

  • 日本経済にインパクトを与える46の国内、国外のリスク(はじめに)

 紹介本は、2025-26年に予測される世界・日本の経済のリスクについて、論評しています。著者の経済大予測シリーズは2020年からの6作目です。2023年11月15日に刊行された「大予測2024-25」において予測した、「株価4万越え」は、2024年3月、7月、10月、12月に実現しました。この様に2020年予測本以来、「高い的中率(的中率9割)」が継続中です。Amazon売れ筋ランキングでは、外国・国際法ジャンルで1位です

 紹介本の2025-26年本で、著者は、2025-26年のテーマは『政治・ビジネスの新たな潮流』とし、「デフレの頸木(くびき)を外れた日本経済がどこまで登っていくのか」、「トランプ政権のアメリカの政治・経済の行方」、「バブル崩壊の中国経済の行方」などの見逃せない46のリスクについて解き明かします。

 それでは、46のリスクから注目記事を、上記テーマの視点からご紹介します。

  • 「政治・ビジネスの新たな潮流」から注目のリスクを見てみよう

【日本経済に関する29リスクからの「注目リスクは?」】

<人手不足-安易な賃上げは命取りになりかねない->

 著者は人手不足のリスク対応として、次のチャンスを示します。「人手不足は会社が変わる絶好機」と。その意味するところは、人手不足だからと言って、売上上昇に見合わない賃上げをしても、企業収益を落とすだけで、企業経営の視点からは間違った対応と主張するのです。正しい対応は、人手不足を認め、それを解消するための最適な設備投資をすることです。

 その好事例がファミリーレストランのロボット対応です。100席程度の店舗の例です。店に入るとタブレットに人数を打ち込み、空いている席を指定してもらう。注文はすべて各席のタブレットで行い、料理はロボットが運んでくる。会計時にレジで初めて店員と対する仕組みです。これにより4~5名居た店員を、2名に削減出来ます。この結果1日で3万円から4万円、月換算で約100万円のコストを削減出来ます。償却期間を5年とすれば6000万円(ロボット化に十分な金額)の設備を導入できる計算になります。つまり、正しい対応設備を導入することで、賃上げせずとも、人手不足を解消できるのです。

<70歳定年制-終身雇用、年功序列は通用しない->

 厚生労働省が発表した「令和5年簡易生命表」によると、2023年の平均寿命は男性81.09年、女性87.14年。90歳までの生存する人の割合は男性26.5%、女性50.1%となっています。

 著者は、今や、65歳まで現役バリバリの気持ちでいないと、国が成長していかないと主張します。更には、2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」により「70歳定年制」を進めている時代においては、終身雇用や年功序列は通用せず、あるスポーツ選手が言った「明日の自分は、今日の自分よりも上手くなっているように、と常に思うべき」に含まれる、向上心、自分を磨き続ける努力、それを行おうとする気構えが人生を左右し、社会の活性化に繋がると主張します。

 70歳定年制のリスクを変えるチャンスとして、「自分に合った場所、最も輝ける場所を選んで、その場所で全能力を発揮して、見合った報酬を得られる『70歳までのキャリアプラン』を考えるべき」と提示しています。

【「トランプ・トレード」で再び世界が分断する】

<アメリカのウクライナ政策-米露首脳会談が実現する->

 ウクライナ戦争は一時的な停止も含め、停戦の可能性は高いでしょう。ここでは、著者の主張する、トランプの戦略に焦点を当ててみましょう。トランプは、露中を再び分断に持ち込み、中国だけを孤立させたいと考えていると言います。

 著者は、露中分断の兆候はすでに表れているとして、次の政治的事象を示します。2024年7月、プーチンは、カザフスタンで習近平と会談した際、「両国は史上最良の時期を迎えている」と発言しますが、この時プーチンは、習近平とは対照的に、不愉快そうな顔をしていました。その後プーチンは北朝鮮とベトナムを歴訪します。北朝鮮もベトナムも反中の朝鮮労働党、ベトナム共産党が支配しており、プーチンは習近平に意趣返しをしたのだ、と著者は指摘します。

 トランプのウクライナ政策は、アメリカの対欧・ウ・露戦略に加え、対中孤立化戦略の視点から見ることで、より鮮明に見えてくるのではないでしょうか。この流れの中で、北朝鮮との歴史的融和の可能性も見えてきます。

<グローバルサウス-新興国がこのままのスピードで発展することはない->

 2025年は、グローバルサウス(インド、ブラジル、南アフリカ、タイなどの南半球にある国や、南半球に近いアジアやアフリカなどの新興国・途上国)のリスクに注目です。これらの国々では、食料・エネルギーの「資源限界(需要に対応する供給が追い付かない現象)」から資源インフレが起きる一方、相対的に先進国の貧困化が進みます。

 新興国の経済発展が一定の所まで行くと、政治的におかしくなる状況は世界各国で頻繁に見られます。ミヤンマーの軍事政権化や共産党が支配するベトナムのバブル崩壊などがその例です。新興国では、経済が右肩上がりのうちは国内政治も上手くいきますが、どこかで発展速度が鈍り、停滞すると破綻へと進みます。今、世界の3分の2近くが破綻状態と言われているのはこのためと、著者は指摘します。

 この様な状況を反映し、世界は自由主義国の西側と、新興国・グローバルサウスの多くが中国側につく結果、権威主義の東側という二つの体制に分化する流れが進んでいくと著者は指摘します。

 アメリカファーストを掲げるトランプ政権と世界の均衡ある発展を願うグローバルサウスの思惑とが一致しないことが及ぼす2025年の世界の政治・経済への動きに注目です。

 著者は、「地下資源に恵まれ、経済発展の著しいBRICSの国々を、新興国・途上国のモデルとして考える時代は、そろそろ終わろうとしている」と主張します。

【バブル崩壊の中国に代わり日本がアジアを世界に押し上げる】

<2035年の中国-中国の国際的な影響力は右肩下がりに->

 2024年7月15~18日に開催された中国共産党の三中全会(200人の中央委員の会議。5年毎の全国党大会を『一つの「期」』とし、期毎に1から順番に番号が付く)で、「2035年までに高水準の社会主義市場経済体制を完全に確立」が採決されました。

 著者の見解は、この採決は21世紀の今においては時代錯誤というしかないとします。今の厳しい中国経済を考えると、中国共産党の採り得る経済政策は、改革開放の社会主義的な部分を取り去って、真に市場経済に門戸を開くか、それとも、共産主義に回帰するかの二者択一であるとします。前者を選択すれば習政権が崩壊してしまうので、後者を選択し共産主義を強化し、配給型の経済体制を作る以外に国家の骨格を維持できないとします。

 つまり、習近平としては、八方ふさがり、打つ手がない状況です。この様な混乱の中で、「中国の国際的な影響力は右肩下がり」で落ちていくと指摘します。

<日本企業の中国離れ-「撤退」の負の連鎖が次々起こる->

 これまで日本企業は中国から逃げたくても脱出できなかった、その理由は、中国からの資金移動が出来ないことにつきます。黒字が出ている限り、企業経営者としては撤退を進めるわけにいきませんが、しかし、赤字になってしまえば、撤退の正当な理由になります。これが、日本企業(ホンダ、三菱、日産などの自動車関係など)が中国から続々と撤退している背景です。又、地政学リスクからの撤退(パナソニックや日本製鉄など)も増加しています。

 ここで注目したいことは、大企業が撤退すると下請けの関連企業も撤退することになります。日本企業の撤退は、中国企業に対する日本メーカー製の高品位な部材の供給が止まることを意味します。結果キーパーツが中国産に変わることとなり、製品の不良率が上昇し、耐久性は低下します。まさに中国国内でのサプライチェーンの瓦解が起きているのです。この瓦解は、同時にほかの日本メーカーの撤退を呼び、負のスパイラルが加速されるだろうと著者は予測します。ここで著者は、この負のスパイラルは「大企業の国内回帰が日本のGDPに寄与する」チャンスになると指摘します。

  • 予測されるリスク・ピンチをチャンスに(むすび)

 紹介本では、46のリスク予測の各々の括りとして、「リスク・ピンチをチャンスに切り替えるヒント」が書かれています。ヒントを参考に、ビジネス・チャンスを掴みましょう。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「私の本棚2025.1.28」

2025-01-28 08:36:32 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

 『日経大予測2025「これからの日本の論点」』

                                               (日本経済新聞社編 日経BP 日本経済新聞出版本部)

  • 2025年の「日本の論点」に注目してみよう(はじめに)

 紹介本は毎年日本経済新聞社から新年に向けて出版される恒例の本です。

 2025年版で留意して置きたい事は、2024年10月25日に発刊されており、11月5日に投開票された米大統領選挙におけるトランプ氏圧勝の事象が織り込まれていないことです。

 2025年1月20日にスタートする、トランプ政権の政策、つまりウクライナ戦争対応、中東戦争対応、気候変動対応、対中対応などを注視する必要があります。

 2025年版「日本の論点」は、「日本は現状維持すら危ういのか」「押さえておきたいビジネスの勘所」「世界を巻き込む米欧中露の対立」の3Chapter、22論点に亘って日本経済新聞の専門記者22人が2025年の予測を示しています。

 それでは22論点の中から、注目論点を、Chapterに沿って、次項で紹介します。

  • 2025年の注目論点

【日本のGDP、世界第5位に、覚醒なくして成長なし-論点6-】

 「ジャパン・アズ・ナンバーⅩ」という表記を最近見かけます。このⅩの推移を見てみましょう。Ⅹに「ワン」が入った時代は、1968年、当時の西ドイツをGDPで上回り、米に次ぐ世界第2位の経済大国に躍り出た頃です。

 1979年にエズラ・ヴォーゲルの著者『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(Japan as Number One: Lessons for America)が出版されました。そこでは、日本が1955年~1973年にかけ平均10%を超える経済成長を遂げた時代の経済的・社会的な成功を収めた要因を分析し、アメリカをはじめとする他国が学べる教訓を提示しています。

 その成功要因としてヴォーゲルが挙げているのは、教育制度(日本の教育水準の高さ、競争的な受験制度など)、官民協力(通商産業省と企業の連携)、企業文化(人間中心などの日本的経営による労働者の高いモチベーション)、社会的安定(良好な治安や強いコミュニティ意識)です。

 しかし、今の日本は、「ゆとり教育」、「日本企業より外国企業を利する経産省の脱炭素政策」、「『働き方改革』による働かない改革」、「日本人の仕事への熱意保有者の比率は5%と145カ国中最下位」、「日本の犯罪件数は、過去最低の2021年57万件が、22年60万件、23年70万件と20年振りに増加し治安が悪化」など、教育・産業政策・企業文化・社会的安定の全ての分野で、エズラ・ヴォ―ゲルの示した成功要因(上記)に逆行しているように思えます。この結果、一人当たりGDP世界ランキング(IMF)では、ピークは2位(2000年)でしたが、直近(2023年)では韓国にも抜かれ34位です。予測では、2024年には台湾にも抜かれます(日経2024.12.18電子版)。

 そのヴォーゲルは、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の出版から27年後の2006年11月11日の「週刊ダイヤモンド」で、失われた17年からの日本再興の要件として、個々人の仕事への熱意と、それをリードする、社会への真の責任意識を持ち、党派や利害関係を超越した、リーダーの出現を掲げます。(2024.2.21 DAIAMOND onlineの記事より)

 「論点6」は、この「Ⅹ」が、2010年には中国に抜かれ3位に、2023年にはドイツに抜かれ4位になり、更にこの先、2050年にはインドとインドネシアに抜かれ6位に、2075年にはパキスタン・エジプト・ブラジル・英国などに抜かれ12位になるとのゴールドマン・サックスの予想を引用し、『今こそ「政・官・民の覚醒」により「Ⅹ」を小さくする時』と主張します。

 2025年こそ、社会への真の責任意識を持ち、党派や利害関係を超越した、政・官・企業のリーダーが出現し、日本の社会・経済を覚醒させ、失われた30年から脱出する年となることを期待したいですね。

【会社脳が企業の競争力を左右、生成AIが企業経営を一変させる-論点11-】

 「論点11」は、次のような指摘をします。「2025年は生成AIを『試す』という段階を過ぎ、本格的に経営に『生かす』ための知恵を問われる年になる」と。

 この生成AIの象徴的な存在が、生成AIの一種である、LLM(Large Language Models-大規模言語モデル-)のオープンAI社のChatGPTです。2022年11月にプロトタイプを公開し、2か月で利用者が1億人に達しました。

 2024年5月のChatGPTのユーザーは23億人です。ChatGPTは膨大な学習データ・情報から最適なアウトプットを生成できる点が特徴であり、また、企業の独自のデータや知見をAPIで連携して活用することで、経験の浅い従業員でも、一定以上のアウトプットを作成できるようになります。この様な特徴を生かし、「業務自動化による人手不足の解消・コスト削減」「業務サポートによる品質・スピードの向上」「社内知見の共有・業務の標準化」「マーケティングの最適化・費用対効果向上」「顧客体験のパーソナライズ・自動化」「新規商品・サービスの創出」などの分野で活用することが可能です(AI総研H・Pより)。

 また、AppleとChatGPTの連携も注目されています。2024年6月Apple社はSiriとChatGPTを連動させた生成AI「アップル・インテリジェンス」を発表し、2024年10月からiPhone等のOSに組み込みます(日本語版は2025年以降)。

 ChatGPTなど(他にはGoogle Gemini、Perplexity、Microsoft Copilotなど)の生成AIに対する評価の一例をあげましょう。星野リゾートの星野代表は次のように評価します。「生成AIは、観光産業を変革する、嘗ての3つの変革(①周遊型から滞在型②インバウンド③スマートフォンでの顧客獲得などのIT化)に次ぐ4つ目の大きなチェンジとなるばかりでなく、生成AIとのブレーンストーミングにより、従業員の創造性を刺激する良きパートナーであり、人力による業務をAI化することで経営戦略にかかわる業務に従業員のエネルギーを振り向けることを可能にする」と。

 電子情報技術産業協会によれば、日本における生成AI市場の需要見通しを、2023年1,180億円、2025年6,879億円、2030年1兆7774億円(7年で15倍)と予測しています。

 また、「論点11」は、2025年以降、この生成AIの企業版LLM「会社脳」が広がる可能性を指摘します。具体例としてパナソニックホールディングの例を挙げます。パナソニックはグループ内の製品情報、技術情報などの社内データによるパナソニック専用のLLMを構築し、研究開発や設計・製造、営業などの多くの部門で社員が活用できる仕組みを目指します。つまり、世の中に存在するデータ全体を見ると、ChatGPT等のインターネット上のオープンデータによるLLMは20%に過ぎず、残りの80%は企業などの組織内にあります。2025年は、この残りの80%の生成AI化により、企業経営を一変させる時代と指摘します。「企業版LLM」に注目していきましょう。

【プーチンの逆襲、侵略戦争から外交戦へ-論点22-】

 「世界を巻き込む戦争の足音-論点2-」の中で次のように指摘します。「中露朝の枢軸を背景に、ウクライナ戦争を舞台に、欧州は準戦時状態に入り、中東では全面戦争の危機がくすぶり、アジア太平洋では朝鮮半島、東・南シナ海での緊張が高まり、世界を巻き込む戦争の足音に対峙している」と。

 また、「論点22」の「プーチンの逆襲、侵略戦争から外交戦へ」では、プーチンが目指す、「多極世界」外交政策による、「米一極世界」を突き崩す、新たな世界秩序の形成に焦点を当てています。

 論点22の記者は、プーチンの新たな世界秩序形成への外交戦略を「三層構造」戦略と定義しています。一層目は、ユーラシアを横断するような反米枢軸国(注1)、二層目は、ユーラシア大陸全体に新しい秩序を広げようと目する、上海協力機構-SCO-(注2)、三層目は、中南米の国々を巻き込んだ、よりグローバルな枠組みの拡大BRICS(注3)です。

 一方、ロシアの足元では、集団安全保障機構-CSTO-(注4)からは、アルメニアが離反し、ソ連崩壊後に結成した独立国家共同体-CIS-(注5)からは、2009年ジョージアが、2018年にはウクライナが脱退し、茲許、モルドバが離反の意向であり、カザフスタンはロシアとの距離を置きはじめており、逆風が吹いています。

 最近では、2024年12月8日、ロシアがバックアップしていた、54年続いた、シリアのアサド政権が崩壊しました。加えて、2024年12月27日には、CSTOのメンバーである、キルギス・ウズベキスタンの総延長523キロの巨大鉄道プロジェクトが、永年、ロシアが主導権を主張し「頓挫」していましたが、ロシアがウクライナ侵攻の影響で投資余力がなく、しぶしぶ中国主導を承認し、中国主導の下、着工しました(2025.1.9.JETRO記事)。この様に、ロシアはウクライナ侵攻の代償として、旧来の「勢力圏」を喪失しつつあります。(注6)

 記者は、『プーチンは、この逆風に負けず、これらの「三層構造」の結束を強め、反米を目指す、「多極世界」への世界戦略を諦めることはない』と指摘します。

 さて、このような流れの中での注目は、2025年1月20日にスタートするトランプ政権後の世界情勢の動向に注目です。

 ここで、論点2や論点22とは異なる、最近のネット上の情報を見てみましょう。ネット情報によれば、トランプ政権スタート後、「24時間以内」が「6か月以内」に後退したものの、合意内容は兎も角、ロシアとウクライナは停戦すると予測します。

 さらに、トランプは、ウクライナ停戦後には、お得意のディールで、ロシアに対する制裁を緩めることで、ロシアのイランに対する影響力を利用し、一方、イスラエルにはアメリカが影響を及ぼし、中東紛争を終結させると予測します。

 また、中東紛争の終結を予測してか、2024年12月、インドとUAEが会談し、2023年9月のG20ニューデリーサミットで、インド、米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、フランス、ドイツ、イタリア、欧州連合(EU)が参加を表明し、覚書に署名した、「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」プロジェクトが、一時中東紛争から関係国の協議が遅れていましたが、ここにきて、具体的推進で合意したのです(注7)。

 『ロシアの「足元」で吹く「逆風」』に加え「IMECプロジェクト」など、今後の地政学的変化は見逃せません。

 いずれにしても2025年の注目論点です。

 (注1)反米枢軸国:中露、イラン、ベラルーシ、北朝鮮の5ヶ国

 (注2)上海協力機構-SCO-:中露、インド、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、パキスタン、イラン、ベラルーシの10ヶ国

 (注3)拡大BRICS:中露、ブラジル、インド、南アフリカ、エジプト、イラン、エチオピア、アラブ首長国連邦、エチオピア、インドネシアの11か国から成る国際会議。更に、ベラルーシ、キューバ、ボリビア、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、タイ、ウガンダ、トルコ、アルジェリア、ベトナム、ナイジェリアなどが加盟希望。

 (注4)集団安全保障機構-CSTO-:ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6か国。2024年6月にアルメニアが脱退表明。

 (注5)独立国家共同体-CIS-:ロシア、ベラルーシ、モルドバ、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アゼルバイジャン、アルメニア、トルクメニスタンの10か国。CISは貿易・投資協定の側面があり、アルメニアはCSTO脱退表明後も留まる意向。

(注6)本欄の『ロシアの「足元」で吹く「逆風」』に登場した国々を、Google Map上〔図1〕に表示しました。〔図1〕は下記URLを参照ください。

         URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/c19c7b0fa3803bb0e1489a68c64d80ff

 (注7)IMEC(India-Middle East-Europe Economic Corridor:インド・中東・欧州経済回廊)のルート図は〔図2〕を参照。(詳細情報は1.14日経電子版)〔図2〕は下記URLを参照ください。

          URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/003373539c624c2db9b752ee887efa92

 

  • 2025年は変化の年(むすび)

 2025年は、生成AI、AI時代のエネルギー問題、中露vs欧米の関係などに於いて大きな変化が見込まれます。注目していきましょう。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/ 

http://sakai-gm.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

私の本棚2025.1.28〔図2〕

2025-01-28 08:18:32 | 経営コンサルタント

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

私の本棚2025.1.28〔図1〕

2025-01-28 08:12:28 | 経営コンサルタント

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする