- 今日のおすすめ
『「とにかく仕組み化」-仕組をつくり、上を目指す-』
(安藤広大著 発行:ダイヤモンド社)
- 「仕組み」について思考を深めてから、お薦め本を紹介します(はじめに)
本欄「私の本棚」では、2024年3月から5月にかけて、経営理念を新たに構築、或いは、再構築する企業に参考となる図書をご紹介しています。
3月は理論的な『「経営理念2.0」会社の“理想と戦略”をつなぐ7つのステップ』をご紹介しました。4月は、実践的な『「経営」稲森和夫、原点を語る』をご紹介しました。5月は、経営理念を実現する『「とにかく仕組み化」仕組をつくり、上を目指す』です。
「仕組み」についてよく引用される名言があります。それは「ビジョナリー・カンパニー~時代を超える生存の原則」に登場する『時を告げるのではなく、時計をつくる』です。
この名言の意味するところは、永続企業の要件は、カリスマ的な経営者が、一時的に謳歌・繁栄する、『時を告げる』経営ではなく、素晴らしい製品やサービスを次々と生み出せる、永続的に時を刻む時計のような、「仕組み」を重視する経営であるとします。つまり、永続的に繁栄を刻む『「時計(仕組み)」をつくる』ことが重要なのです。さらに言えば、アウトプットである「商品・サービス」よりは、「商品・サービス」をアウトプットするプロセスである「仕組み」に目を向けることで、組織による再現性が高まり、繁栄が永続するのです。
「仕組み」が時計になる要件を考えてみましょう。
まず、「仕組み」を組立てる「仕組み化」のプロセスのスタートである、ビジョンと現状とのギャップの認識です。ここでは、“経営理念(M<p>・V・V;「ビジョナリー・カンパニー」レベル)”と“現状の見える化”がキーとなってきます。このギャップを埋めるのが「仕組み」です。この「仕組み」が備えるべき要件は、改善・改革と前進・成長を促す要素に加え、「仕組み」を支えるインフラとしてのプロセス・マネジメント(“振り返り”とプロセス・アプローチによる“価値創造”)です。更に加えるならば、具体性・手順性・一貫性(Specific・Methodical・Consistent)、全体最適、インサイド・アウト(共有性・納得性)が求められます。
次は、「仕組み化」の領域です。領域は多様です。人事、働き方、お金、組織、売上・営業、CS、品質等々に加え、これらの上位領域としての理念体系です。ここで大切な要件は、仕組み・領域間相互の一貫性、整合性、全体最適です。
以上で「仕組み」についての思考を終え、おすすめ本「とにかく仕組み化」の紹介に移りましょう。
紹介本の著者は、日本社会に対する強烈な「違和感」から、この「違和感」を改善し、正しい方向に導く「仕組み」を提言する、コンサル会社、株式会社識学を2015年に起業します。社名の“識学”は、2013年に著者が違和感を解決する思考法の「意識構造学(識学)」に出会ったことに由来しています。
意識構造学は、人が物事を認識し、行動に至るまでの思考の働きを、5つの領域(「位置」「結果」「変化」「恐怖」「目標」;次項で解説)で捉え、暗黙知の多い“人・組織”の領域に於いて「仕組み化」により形式知化し、思考の癖に紐づく誤解や錯覚の発生要因を特定し、この発生を防ぎ、意志の高い組織を作るマネジメント手法・学問です。〝識学コンサル“の導入企業は4000社以上で、導入企業の80%は1年以内に売り上げが向上しています。
著者は「違和感」について次の様に言います。『日本社会の状況は、耳あたりの良い「一人一人に優しい」を履き違え、長期的には優しくする側も優しくされる側も「マイナスとなること」が殆どで、組織がどんどん弱体化している』です。
私(筆者)は、何故このような履き違いが起こっているかを、私流に考えてみました。それは「エンゲージメント」「従業員満足度」「モチベーション」「ロイヤリティー」の解釈を履き違えている結果と理解します。組織のプラスになるのは、『従業員相互の対等の関係に基づき、主体的・意欲的に取り組んでいる状態の「エンゲージメント」』です。他の3つは、個人的・受動的な思いに留まる限り、組織にプラスの作用はないのです。つまり、他の3つも大切ですが、「エンゲージメント」に結びつかない限り意味がないのです。4つの概念の違いについては、[図1(下記URL)]を参照下さい。
URL: https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/c7586e6a52c72a6d10567d73c17bddd6
因みに、米ギャラップの2023年版リポートによると、2022年の『「社員エンゲージメント」国際比較』において、日本は145カ国中で最下位でした。仕事や会社への熱意、貢献意志などが高い「エンゲージしている社員」はわずか5%で、4年連続で過去最低となっています。著者の違和感が、この調査結果に如実に現れているのです。[図2(下記URL)]を参照下さい。
URL: https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/a16923320d20d0af981a8de6a2c86a97
この様な違和感的状況の解消を目指し、人・組織の領域において、世間一般常識を超えた「とにかく仕組化」により、「社員エンゲージメント」を高め、生産性の向上を提言しているのが紹介本です。
次項で、「とにかく仕組化」の注目点を「意識構造学」の5つの領域に触れながら、見てみましょう。
なお、紹介本をより深く体系的に見るために、『週刊ダイヤモンド2024.2.17、特集「識学大全」(「とにかく仕組み化」「数値化の鬼」「リーダーの仮面」の“識学”3部作を、書籍にない実例・図解で理解)』を参考にしています。
- 「とにかく仕組み化」と「意識構造学」の仕組みのポイント
【「とにかく仕組化」で目指すものと、実現のための前提条件】
[5つの領域の「位置」「結果」]
目指すものとして、仕事で結果を出すこと、人をマネジメントすること、組織を大きくしていくこと、の3つの原則を挙げます。
前提条件としては、フラット型組織ではないミラミッド組織のもと、リーダーとプレーヤーの立場(「位置」)を互いに正しく認識し、責任と権限を明確にした上で、リーダーは感情・本能を排除し(紹介本では「仮面をかぶり」と表現)、責任・理性・原則・ルール(マニュアルを含む)・事実・「結果」に基づき、プレーヤーの成長を目指し、マネジメントします。
一方、プレーヤーも感情・本能を排除し、ルール(マニュアルを含む)・事実・「結果」に基づき、リーダーとコミュニュケートします。
これにより、好き嫌いや友達感覚などの感情を抜きにして、「結果」を追求する組織となるのです。「ビジョナリー・カンパニー」と同様、不適切な人にはバスから降りてもらう仕組みとし、意志の高い人が残り続ける組織を目指します。
【「意識構造学」の求める「変化」とは】
[5つの領域の「変化」]
求める変化は色々ありますが、前掲の週刊ダイヤモンド2024.2.17は次の様に解説します。『[「変化」以前の誤っている状態]①給料をもらう②サービス・商品の提供行動③対価・利益。⇒[「変化」後の正しい状態]①サービス・商品の提供行動②対価・利益③給料をもらう』に見る順序の「変化」が重要とします。この思考法が「意識構造学」のベースにあるのです。
【正しい「評価」で「恐怖」「成長」を促す、「数値化」と「数値化の効用」】
[5つの領域の「結果」「恐怖」「目標」]
上記[変化後の正しい状態]を前提とすれば、①②の「結果」を評価し③を決めることになります。正しい評価をする為に、数値化され行動と直結するKPIを「目標」として設定し、KPIの達成状況を以って評価する仕組みです。新人や他部門からの転入者などについてはマネジメント側がKPIを設定します。「結果」だけで評価し、プロセスは評価しない事をルールとします。勿論、マネジャーはプレーヤーのKPI達成をサポートしますが、具体的な数値を以ってのみです。
評価は1年に4回で、その評価はゼロ評価(達成+3、未達成0、あと一歩0、大きく達成+4)ではなく、マイナス評価(達成+3、未達成-2、あと一歩-1、大きく達成+4)です。-1と-2の評価の場合は降給・降格です。降給・降格しても再挑戦で昇給・昇格できる仕組みです。
評価の「数値化」の効用は、「恐怖」と「成長」です。
メンバー全員が同じ手法のKPIを使い、オープンにすることでお互いの「比較と平等」を可能にする仕組みです。「比較と平等」により他のメンバーとの相対的な位置が分かることで『危機感(いい意味の「恐怖」)』が生まれ、「成長」と「頑張り」を生みます。
マイナス評価は、更に強い「危機感」「成長」「頑張り」を生むと同時に、降給・降格を伴うことで、年功序列賃金体系を無くし、「働かないおじさん」の解消に繋がります。
- 「仕組み化」で「時を刻み続ける時計」を創ろう(むすび)
前項で見たように、「識学」の評価の「仕組み」は、生産性を向上させ、日本の、下がり続ける「世界競争力ランキング」、最低位の「社員エンゲージマント」を上昇させる転換点となり得ます。また、人手不足を補う効果も期待できます。更には、年功序列賃金慣行を成果主義の世界標準に切り替えていく契機にもなります。
「仕組み化」により、驚くほどの、「経営理念((M<p>・V・V)」が目指す「変革」を果たせることが、本欄3月、4月、5月の紹介事例から理解できます。更なる、そして永続的に成長するために、新たな「仕組み化」或いは既にある「仕組み」の見直しに挑戦し、「時を刻み続ける時計」を創りませんか。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。