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「私の本棚2021.5.25」

2021-05-25 13:16:22 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

「事例からみるKAMのポイントと実務解説」(武村 純也著 同文館出版)

  • KAMを知ろう-KAM導入の背景と意義-(はじめに)

【KAM導入の背景】

 KAMはKey Audit Matters(監査上の主要な検討事項)の略です。

 欧米において、リーマンショックの際、引金となった倒産金融機関に対して適正意見を表明してきた監査人に対する批判が噴出し、監査体制に関する議論が高まりました。

 この様な状況に対処するため、IAASB(国際監査・保証基準審議会)は、2014年12月に「監査品質の枠組み」を公表し、これを踏まえてEUは監査報告書の透明化に向けたルールの適用を2016年6月から開始しました。さらに、IAASBは監査報告書関連の基準であるISA(国際監査基準)700 を改訂しISA701を公表し、2016年12月以降から監査報告書にKAMの記載をルール化しました。

 IAASBが動く前から監査報告書改革を実施してきた英国(2012年10月以降適用)、オランダ(2014年12月以降適用)、IAASBの枠組み・基準改定後適用した、EU、カナダ、インド、米国、オーストラリア、ニュージランド、香港、中国、北欧三国、ブラジル、シンガポール、南アフリカ等でKAM(米国ではCAMs:Critical Audit Matters)が導入されています。

 一方日本では、2015年に発覚した総合電機会社の不正会計事案及び関与した監査法人に対する課徴金などの行政処分をきっかけに、2015年9月に「会計監査の在り方に関する懇談会」が金融庁で設置され、2016年3月には提言が公表されました。

 この提言では、「会計監査の信頼性確保に向けて」の表題の下、有価証券報告書における開示内容の充実など様々な対策が提言される中、海外の動向も踏まえた早期の監査報告書の透明化(KAMの導入)が提言されました。この提言を受けて金融庁や企業会計審議会の監査部会で検討がなされ、2018年7月に「監査基準の改定に関 する意見書」が公表され監査基準が改訂され、「改訂監査基準」を受け2018年11月には、「財務諸表等の監査証明に関る内閣府令及び企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」が公布・施行され、2019年2月には日本公認会計士協会のKAMに関する実務指針「監査基準委員会報告書(監基報701)」が作成されました。

 かかる過程を経て、KAMが、2021年3月31日以後に終了する事業年度の監査証明から強制適用されることになり、早期適用時期は2020 年3月31日以後に終了する事業年度からとなりました。

【改めて「KAMとは」そして「導入の意義は」】

 前述の“KAM導入の背景”で「監査品質」「監査の信頼性確保」「監査報告書の透明化」と言ったキーワードから、少しKAMのイメージを描けたでしょうか。ここで改めて「KAMとは何か」を定義してみたいと思います。

 KAMとは、「監査の過程で監査役等と協議した事項の中から、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として“特に重要であると判断した事項”」をいいます(「監基報」701第7項)。

 具体的には、監査人が「監査の過程で監査役等と協議した事項」から「特に注意を払った事項」に絞り、その中から「特に重要であると判断した事項」をKAMとして決定します。

 決定されたKAMを、監査報告書〈財務諸表監査〉に、従来の「監査意見」「監査意見の根拠」「財務諸表に対する経営者並びに監査役及び監査役会の責任」「財務諸表監査における監査人の責任」区分領域に、新たに加えた「監査上の主要な検討事項:KAM」区分領域に記載します。更には、決定されたKAMを、「KAMの内容」「当該事項をKAMと判断した理由」「当該事項に対する監査上の対応」の3点で詳述します。

 従来の区分領域の記述は、残念ながら紋切り型・テンプレート型になってしまっていますが、新たなKAMでは、経営者・監査役・監査人のコミュニュケーションを始めとしたリスクマネジメントプロセス、監査の実施プロセス・監査意見の形成プロセスなどが詳述され、監査の品質、監査の可視化・信頼性・透明性の向上が図られ、企業のガバナンスやリスクマネジメントの強化に繋がると同時に、企業ごとの記述の良否が評価でき、企業(経営者、監査役など)と監査人の責任(「二重責任の原則」)が評価される材料ともなります。

【紹介本のKAMの早期適用事例から学ぶ】

 それでは次項で紹介本の早期適用事例から学びながら、KAMの今後の課題と中小企業への応用を考えてみたいと思います。

  • KAMの早期適用事例から学ぶ今後の課題と中小企業での活用

【KAMの早期適用事例から学ぶ-事例と今後の課題-】

 KAMの早期適用会社は50社です。このうち上場会社は46社、非上場会社(大会社)は4社でした。

 早期適用事例の概要を、紹介本及び日本公認会計士協会『「監査上の主要な検討事項(KAM)」の早期適用事例分析レポート(2020年10月8日公表)』から見てみましょう。

 まず、KAMの決定に至る企業側と監査人との間のコミュニケーションによるリスクの洗い出しから「特に重要であると判断した事項(KAM)」に至る過程については、それぞれの企業で深化が計られたことが窺われます。その中で、主要な監査論点を一覧表の形で記載し“影響の度合い”“発生可能性”を「高・中・低」と「前期比推移↑・→」で分析し、「高&↑」を特に重要であると判断した事項として決定しているAOKIホールディングの事例が参考になります。この事例は、次に述べる中小企業に於ける活用でも有用と思います。

 次に「特に重要であると判断した事項(KAM)」に対する監査プロセスについて記載をする「監査上の対応」についての記載です。ここで注目されるのは「KAM」に係る「内部統制の評価」の記述が圧倒的に多いことです。時間とコストの関係で監査には制約があります。事業全体へのリスクアプローチを可視化するため、「KAM」に係る内部統制の“構造と実施状況”の監査の評価を重視しているのです。これも次に述べる中小企業に於ける活用でも有用と思います。

 KAMの今後の課題は、KAMには時間とコストの増大が伴うことも考慮すると、折角大きく前進した監査の品質の向上を一層進めることが大切です。KAMの画一的な記載(ボイラープレート化・テンプレート化)とならないように、継続的に記載の向上に努めることが肝要と思われます。加えて事業全体へのリスクアプローチについての透明性の高いプロセス及び記述の更なる深化を期待したいです。

【KAMの中小企業での活用】

 KAMのAを“Audit”から“advisers”に置き換えたKaMの仕組みを構築しましょう。“advisers”は中小企業に於ける、各種コンサルタント、税理士、社労士、弁護士などです。

 事業全体のリスクアプローチを、計算書類、マネジメント、ITシステム等に区分の上、上述のKAMの「リスクの洗い出しと特に重要であると判断した事項の決定プロセス」(AOKIの事例)を応用し、実施します。計算書類区分ではその範囲を、金額は小さくとも不適正リスクの可能性の高い、現預金、在庫、経過・仮勘定、本支店・親子会社勘定等の領域にまで拡大します。この洗い出しに於いて重要なことはadvisersと経営者とのコミュニュケーションです。拡大して洗い出した各区分のリスクを、内部統制・内部監査など企業サイドでチェックする領域とadvisersが各々の専門分野に応じてチェックする重要なKaM領域とに分け、advisers はKaMを報告書でレポートします。

 これにより中小企業に於いて、経営者の意識改革と各advisersの業務品質改革が進み、リスクマネジメントとコーポレートガバナンスの一層の向上を計ることができます。勿論、時間とコストは増えます。

  • 中小企業でKAMを応用したKaMを始めませんか(むすび)

 中小企業の経営者の皆さん、この機会にKAMを応用したKey advisers Matters(KaM)をリスクマネジメントとガバナンスの強化に活用しませか。

 advisersの皆様に於かれても、KaMを新たなビジネス領域として推進してみませんか。

 企業に於けるリスクマネジメントとガバナンスの強化と各advisersのビジネスチャンスの拡大に繋がり、相互のウィン-ウィンの関係を一層強化できるKaMを始めてみませんか。

【酒井 闊プロフィール】

 

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

 https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

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「私の本棚2021.5.11」

2021-05-12 16:57:50 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

①『企業経営の教科書』(遠藤功著 日経文庫)

②『「ISO9004:2018解説と活用ガイド」ISO9001からISO9004へそしてTQMへ』                                                        (中條 武志 編集 日本規格協会発行)

③『2021年度版「日本経営品質賞アセスメント基準書」』                                                             (日本経営品質賞委員会編集・発行 生産性出版/日本生産性本部発売)

  • 「企業経営の教科書」を経営の革新に生かそう(はじめに)

 紹介本①「企業経営の教科書」については本欄『私の本棚2021.4.27』でご紹介いたしました。

 今日は「企業経営の教科書」で確認した“常”と“変”の経営の基本的知識を経営に活かすことを考えてみたいと思います。“学んだ「経営の基本知識」を「経営の革新」に活かすには”について次項で考えてみます。

  • 経営革新は“To be”と“As is”から“Problem”を得て“Solution”で実現

【経営革新という問題を「T・A・P・Sフレーム」で解決】

 経営革新の問題を簡単明瞭なフレームワーク「T・A・P・Sフレーム」で解決してみましょう。まず“あるべき姿(To be)”描きます。To beは紹介本①「企業経営の教科書」の経営の基本的知識を参考に策定します。次に“自社の現状(As is)”をアウトプットします。As isはTo beの項目を参考にしながら作成します。To beとAs isとのギャップ(課題:Problem)が見つかりましたね。

 この課題(Problem)を解決する仕組み(Solution)は紹介本②の“ISO9001からISO9004:2009へそしてTQM;ISO9004:2018へ”がお勧めです。

 まずは、ISO9001(品質マネジメントシステム)によりマネジメントシステムの文書化やプロセスアプローチ等QMSの基本に慣れ、次に、ISO9001の「製品・品質のマネジメントシステム」の領域を「経営・組織の品質マネジメント」の領域へ拡大しISO9004(2018:「品質マネジメント-組織の品質-持続的成功を達成するための指針」)に取組み、持続的成長を実現する組織のパーフォーマンスを高めISO9001のQMSを高度化しつつ同時に、ISO的TQMによる新たな価値を創造し、経営目標を達成し経営革新を実現します。

 一方、“ISO9001のレベルは卒業している、要求事項には縛られたくない、自由で独自の経営革新をしたい、社内の認定セルフアセッサーを活用したい”と思う場合は紹介本③の日本経営品質賞を仕組みとして使うのもお勧めです。

【QMSとTQM-ISO9004はQMSの長所を生かしながらTQMを目指しますー】

 QMS(Quality Management System)は「品質マネジメントシステム」の略です。

 TQM(Total Quality Management)は「総合的品質マネジメント」の略です。「変化に対応し、変化を生み出し、持続的な成長を実現する組織能力を構築する方法論(JSQC規格:日本品質管理学会規格)」と定義されます。

 QMSはMS(マネジメントシステム)、TQMはQM(品質マネジメント)と読むとより判り易いです。

 ISO9001は「製品・サービス品質」を領域とする“要求事項”に基づく認証規恪のQMSです。

 ISO9004は「経営・組織の品質」を領域とする“推奨事項(ガイダンス)”に基づく参考指針を示しISO的TQMを指向しています。認証規格ではありません。ISO9001のプロセスマネジメントの外周で同時並行的にISO9004のTQM的プロセスマネジメントを運用することでQMSの長所を生かしたISO的TQMを実行することができます。経営・組織の品質マネジメントを確立し、持続的な成長を実現する組織能力の構築を期待できます。

 一方、日本経営品質賞は生粋のTQMです。ISO9004:2018のISO的TQM指向により、二つのTQMは互いに良い所を参考にし合える仕組みになりました。(デミング賞、マルコム・ボルトリッジ賞などもTQMの範疇に入ります。)

【ISO的TQM「ISO9004」と生粋のTQM「日本経営品質賞」の違い】

 ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)は国際標準化機構が制定した国際規格です。ISO9001は規格なので、その適用範囲や内容、基準(要求事項)が明確になっており、審査機関の審査によって認証が行われます。そのISO9001を軸に並行的に運用するISO的TQM指向のISO9004は、認証規格ではないので、すべてに一律のルールを適用するのではなく、企業に合った経営・組織の品質マネジメントを構築するという自由度も併せ持っています。

 TQMの代表である日本経営品質賞は、もともとQC(Quality Control:品質管理)から発展してきたものです。現在では直接的な品質管理以外のさまざまな範囲に拡張・発展しており、各社の目的・状況に応じた活動内容を取り入れていく自由度の高いものになっています。そのため、日本経営品質賞はより高い自由度を持っていますが、同時に自由度があるがゆえに、特に導入時など、活動のフレームワークを明確にするのに手探りになりがちなのも事実です。

 ISO的TQMISO9004と生粋のTQM日本経営品質賞の「似ている部分=顧客満足や品質を高める目的」を軸に、「明確さや自由度などのそれぞれの特徴」を活かすことで、お互いを補完し、企業にとって有益な活動を進めることが肝要です。(日本科学技術連盟H/Pより引用。ISO9004のISO的TQM指向、認証規格ではないことを考慮し筆者が加筆。)

【自由度の高い日本経営品質賞とは-詳細は紹介本③をお読みください-】

 日本経営品質賞は、組織プロフィール、8つのカテゴリー、1000点の配点から成る評点ガイドラインから成るTQMです。

 経営理論の思考法が強く反映されており、納得性の高いTQMです。ISO9001の領域を拡大しISO9004:2018を運用・推進する際に参考になるTQMです。

  • 経営革新のためのTQMは守破離のISO型?独自型の日本経営品質賞?(むすび)

 世界的な基準・標準を身に付け(守)次に大いに独自色を入れ(破)更に大きく飛躍しよう(離)と考える守破離型のリーダーは、ISO9001の製品・サービス領域を経営・組織の品質に拡大し運用するISO型TQMのISO9004:2018がお勧めです。自由度が高く独自色を出せる、要求事項に縛られない、社内人材の経営品質協議会が認定するセルフアセッサーを活用する経営革新を指向するリーダーは日本経営品質賞でしょうか。

 いずれにしても一番大切なことは、何らかの仕組みに取組むこと、熱意を持って経営革新に取組むこと、そして日々革新を続けることではないでしょうか。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

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