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「理系思考入門」
経済ニュース、増税、政治家の無策・・・基礎がわかればもうだまされない!
(高橋 洋一著 PHP研究所)
- PEST分析のEを思考する基礎は?(はじめに)
PEST分析は経営学者でマーケティングの第一人者フィリップ・コトラーの提唱するフレームワークです。外部環境の一つであるマクロ環境を把握し、自社のビジネスへの影響を計り、変化への迅速な対応を促し、的確な戦略へ導く重要なフレームワークです。
紹介本は、PEST(政治・経済・社会・技術的要因)分析のE(経済的要因)について多くの示唆を示しています。紹介本は著者が既に発刊した『「消費増税」は嘘ばかり』(2019.2.16)『「戦後経済史」は嘘ばかり』(2016.1.15)『「官僚とマスコミ」は噓ばかり』(2018.6.8)を集約・編集したものです。改めて読み直しますとE(経済的要因)に関する基礎的視点を見出すことが出来ます。
紹介本の示すE(経済的要因)に関する基礎的視点のなかから「知って得する経済を見る基礎的視点」を次項で紹介します。
- 知って得する経済を見る基礎的視点
【日本の財政を考える①ー財政の健全性を考えるー】
財政健全性の世界標準はIMFが公表する「政府の資産と負債レポート(Management Public Wealth)」です。ポイントは連結(中央政府+地方政府+政府関係機関+中央銀行)で見た純資産(総資産-総負債)の大きさです。
これを直近の日本の数字(2019/3)に当て嵌めてみます。政府の連結のバランスシートでは、資産1013兆円、負債1517兆円です。これにはIMF基準で連結ベースに入れるべき中央銀行の日銀が含まれていないので、日銀のバランスシートの資産557兆円、負債557兆円を加えます。連結ベースでは資産1570兆円、負債2074兆円です。しかし、日銀のバランスシートの負債のうち日銀券と当座預金の合計501兆円は経済的な意味での負債性はないので、実質的な連結ベースの政府全体のバランスシートは、資産1570兆円、負債1573兆円となります。IMF基準での純資産は▲3兆円となります。(地方政府のバランスシートは資産・負債がほぼ同額につき純資産には影響しませんので計算から外しています。)このIMF基準の連結バランスシートのみ、財務省から公表がされていないのです。
財務省が主張する財政破綻論は嘘であることをお分り頂けたでしょうか。因みにIMFのレポートでは、G7の中で日本の財政はカナダに次いで健全であることが示されています。
【日本の財政を考える②ー人生100年時代の年金制度に安定的に移行するにはー】
年金における「保険料」と「給付」の仕組みは、単純に示すと次の等式で表されます。この等式が成り立つ数理計算により制度が設計されます。
40年(20~60歳)保険料を納め、20年間(60~80歳)給付を受ける場合
40年間の保険料の支払総額=20年間の年金受取総額
人生100年時代の年金制度は、20~75歳まで働き(55年間)保険料を納め、27.5年間(55年間÷2、102.5歳まで)年金を受け取る、次の等式が成り立つ制度に変えることで成り立ちます。支払う1年当たりの保険料、受け取る1年当たり給付額は現行と大きな変化はありません。
55年(20~75歳)保険料を納め、27.5年間(75~102.5歳)給付を受ける場合
55年間の保険料の支払総額=27.5年間の年金受取総額
移行過程の調整、インフレへの対応など国庫からの若干の負担の必要はありますが、人生100年時代の年金制度への安定的な移行が予測出来ます。「少子高齢化による年金崩壊」等と煽ることを止め「明るい人生100年時代」に向けて歩み始める時ではないでしょうか。
【日米のインフレ目標2%の根拠はNAIRU理論】
米FRBの「物価上昇率の長期目標2%」と日銀の「物価安定の目標2%」の2%は偶然の一致なのでしょうか。そうではありません。金融緩和を行うとインフレ率が上がり、失業率が下がる「フィリップス曲線(英・経済学者アルバン・ウィリアム・フィリップス論文1958)」理論とインフレ率を上げても失業率が下げ止まる失業率の最低ラインNAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment:自然失業率=完全雇用下における理論的失業率)の考え方が背景にあります。縦軸(y)に失業率、横軸(ⅹ)にインフレ率を置いたグラフで表すと、フィリップス曲線とy=NAIRUの直線と交わる点を最適点とします。つまり、失業率を最低に(NAIRUまで)下げる最少のインフレ率が最適点です。グラフ画像は次のURLの図1(注1)を参照下さい。
(注1)https://diamond.jp/articles/-/162429
NAIRUと最適点インフレ率は統計から算出されますが、日本では2.5%と2%、アメリカでは4%弱と2%と算出されています。
日本の直近の失業率は2.6%(2022/4)、インフレ率(消費者物価指数2022/4)は総合2.5%、生鮮食品を除く総合2.1%、コア指数(エネルギー・生鮮食品を除く総合)0.8%です。著者はこの状況に対し次のようにコメントします。
「4月の東京都区部の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合で前年同月比1.9%上昇し、エネルギーと生鮮食品を除く総合(コア指数)は0.8%上昇となった。5月20日に公表された4月の全国の消費者物価指数(総合)では、2.5%と一時的にインフレ目標の2%超えとなった。しかし、大切なことは、相当のGDPギャップの存在への留意と、実態のインフレ率は、ウクライナ・ロシア情勢を勘案し、エネルギーと生鮮食品を除くコア指数で見ていくべきだ(実態は2022/4コア指数0.8%と、最適点2%との開きは大きい)。基調としてインフレ目標2%超えにはなりそうにない」と。(現代ビジネス2022.5.9に実績数値挿入)
アメリカの直近の失業率は3.6%(2022/4)、インフレ率は総合8.3%、コア指数6.2%(2022/4)です。アメリカのインフレ率は最適点のインフレ率2%を大きく上回っており、失業率はNAIRUに到達していると判断され、4月1日の0.25%に続き、6月1日より政策金利のFF(フェデラルファンド)を0.5%引き上げ0.75~1%にすることを決めました。更なる引き上げが見込まれ、最適点のインフレ率2%目指した金融引き締めが実施されるでしょう。
【為替レートはニ国間のマネタリーベースの相対比で決まる】
最近“円安、約20年ぶり1ドル130円台”と騒がれています。著者は変動相場制の下では、「円・ドルの為替レート比(・・円/1ドル)」は日米のマネタリーベースの比で算出した「均衡レート」に収斂するとします。「均衡レート」は、日本の円ベースの通貨総量(注2)/米のドルベースの通貨総量(注2)の計算式で表されます。日米のマネタリーベースの統計が取れるようになった1971年からの「円ドルと日米マネタリーベース比<均衡レート>の推移図(注3)」を見ると、プラザ合意による変動相場制への移行3年後の1988年以降、日本の為替介入がなくなり、「円・ドルの為替レート比」の折れ線が「均衡レート」の折れ線を中心に動いていることを確認できます。
「均衡レート」の計算はどこの時点を基準(ある時点を100としてその後の増減で計算)とするかによって異なってきます。いずれにしても、「均衡レート」が一つの円・ドルの変動要因であることが統計から判断できることは一つの基礎的視点と言えるのではないでしょうか。
・マネタリーベース(通貨の総量)=
「中央銀行券発行高」+「貨幣(硬貨)流通高」+「中央銀行準備当座預金」
・図:「円ドルと日米マネタリーベース比の推移」(以下URL)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/94970
- フェイク-嘘-を見抜き真理を求めよう(むすび)
社会には意図の有無に係わらず、多くの間違った情報が流れています。その様な中で正しく情報を収集していくにはどうしたらよいのでしょう。
それは、収集する情報がデータ・事実に基づいていること、文脈の展開が論理的であることを確認することです。加えて収集するサイドの損得や感情の混入に留意しなければなりません。
その上で、情報を正確に把握し、自身のコアバリュー(理念)とパーパス(存在意義)に沿ったビジネス戦略を展開しましょう。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。