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「私の本棚2024.1.23」

2024-01-22 21:59:19 | 経営コンサルタント
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 『日経大予測2024「これからの日本の論点」』

                   (編著:日本経済新聞社 発行:日本経済新聞出版)

  • 2024年のP・E・S・Tを見てみよう(はじめに)

 本ブログでは、年初にPESTに関る本を紹介しています(P:政治、E:経済、S:社会、T:技術)。

 紹介本「2024これからの日本の論点」は、「2024年を予測する3つのキーワード」「日本は豊かになれるか」「世界企業の新常識とは」「対立深まる世界のゆくえ」の4分野23論点を展開します。

 2024年は、まさに先が見えない「歴史の大転換」の時代と言えます。その中で注目した視点を次項で見てみたいと思います。

  • 2024年の注目情報はこれ

【2024年の3つのキーワード】

 紹介本が示す2024年を予測するキーワードは、「生成AI」「グローバルサウス」「世界で相次ぐ重要選挙」です。「世界で相次ぐ重要選挙」に注目してみましょう。

 時系列で見ますと、1月;台湾の総統選・議会選、2月;インドネシアの大統領選・総選挙、3月;ロシア大統領選、4月;韓国総選挙、5月;インド下院総選挙と首相任命、6月;メキシコ大統領選・議会選/EU欧州議会選、11月米国大統領選があります。

 注目選挙を早い方から見てみましょう。1月の台湾総統選は、与党民進党の頼候補が勝利しました。今後の米中の動きに注目です。3月17日には5選を目指すプーチンのロシア大統領選があります。ウクライナ戦争・世界平和へ大きな影響を及ぼす選挙ですね。6月の欧州議会選挙については、最近のオランダにおける極右政党の勝利などから考えると、結果次第で、対ウクライナ・ロシア政策に変化が起こる可能性があります。2024年最大の重要選挙は11月の米大統領選挙です。トランプの勝利になるか、世代交代が起こるか事態は流動的です。いずれにしても世界の政治経済に大きな変化をもたらす11月5日の米大統領本選挙の動向に注目です。

【「脱炭素」の行方は「脱中国」か?】

 「脱炭素」行方について、紹介本の『論点9「綱渡りの電力供給、脱炭素と安定供給を両立するエネルギーは」』と『論点19「経済安全保障論が半導体からグリーンに広がる」』から“「脱炭素」の行方は「脱中国」か?”を探ってみましょう。

 地動説という真実を主張して抑圧されたガリレオと同様、科学的根拠に欠けプロパガンダ的な「脱炭素」を否定できない風潮が、世界の政治・経済で蔓延しています。この原理主義的流れは止まることはないでしょう。〔本ブログ2021年10年27日『「脱炭素」は噓だらけ』(下記URL)を参照ください。〕

https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/1e1e580de74dce51e15cfc56f7ca0830

 この流れの象徴的な動きを米・欧・日の政策から見てみましょう。

 米国では、2022年8月に成立したインフレ抑制法(IRA法)により2031年までの10年間で52兆円を投じ、CCS(CO₂の地中貯留技術)や水素製造などの脱炭素技術を税控除や補助金を通じ実用化を図ります。この政策の重要なポイントは脱炭素技術の生産拠点を米国内に確保しようとする経済安全保障です。最近、その具体事例が出てきました。『米政府、脱炭素より脱中国 EV税優遇で中国材料排除(2023.12.2日経電子版)』です。中国産の部材・鉱物(2024年からは電池部材、25年からはニッケル、リチウムなど重要鉱物)を使った場合は、EV1台当たり7,500ドル(110万円)の税優遇を受けられなくなるのです。米国内企業の部材・鉱物でも、中国関連資本が25%以上を握る企業やグループの製品は対象となる見通しです。

 次はEUです。EU委員会では2023年2月グリーンディール産業計画を発表しました。この計画では、2027年までの間に、ネットゼロ技術の域内での生産能力の拡大および脱炭素戦略的技術の支援を目的に5,470憶ユーロ(86兆円)の支援支出を計画しています。

 ここで注目したいのは、グリーンディール政策の一環として導入された国境炭素調整措置(CBAM:Carbon Border Adjustment Measure)です。

 CBAMとは気候変動対策をとる国が(EU)、対策の不十分な国(中国など)からの輸入品に対し、水際で炭素課金を行う仕組みです。加えて、EUから対策の不十分な国(中国など)への輸出に対し、水際で炭素コスト分の還付を行います。詳細は「〔図解〕国境炭素調整措置とは」を下記URLからご覧ください。

URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/0134f42c9418525ae6397650069849a0

 このCBAMは、2023年10月から移行期間に入り、2026年1月1日から本格実施となります。移行期間にはCBAM対象製品の排出量報告のみが義務付けられ、課金は行われません。CBAM対象製品は、セメント・電気・肥料・鉄と鋼鉄・アルミニウム・化学物質(水素)の6品目です。ここで注意しておきたいことは、EUは移行期間終了の1年前(2024年12月31日)までに、追加製品を決めるとしていることです。日本からEUへの輸出金額が大きい自動車や自動車部品、建設・鉱山用機械、プラスチックなどがCBAMの対象製品になることが見込まれます。

 その動きが既に始まっています。『EV保護主義、欧州で拡大「中国依存低減図るフランスやイタリア」、アジア製を一部補助対象外に(2023.12.10日経電子版)』です。

 フランスでは、EV購入に5000~7000ユーロ(約80万~110万円)の補助金を支給する制度を改定し、車種ごとに炭素排出量を反映した「環境スコア」を算定し、補助金対象車を決めます(2023.12.14に発表)。「環境スコア」は部材の生産や組み立て、輸送による炭素排出量により、地域や国ごとに算定されます。原子力発電や再生可能エネルギーによる発電比率が高く、生産拠点と販売地の距離が近い欧州生産が有利となり、アジアで生産するEVの大半はスコアが規定を下回るとみられています。

 フランス政府は、上記発表日に、「中国製EV」の3車種を補助金対象外にしました。中国の国有自動車大手、上海汽車集団の「MG4」、アメリカのテスラが中国の上海工場で生産している「モデル3」、フランスのルノーが中国・湖北省の合弁会社で生産している「ダチア・スブリング」です(2024.1.4東洋経済オンライン)。

 最後に日本です。2023年2月閣議決定の“GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針”です。2032年までの10年間に、カーボンニュートラルと産業競争力の強化、経済成長の同時実現を推進することを目標に、20兆円の政府支出と150兆円の民間投資の実現を目指します。

 最近のニュース『日本含む有志国が「原発3倍拡大」宣言、COP28で(2023.12.2日経電子版)』『排出対策ない石炭火力発電所「新設せず」岸田首相表明、COP28で(2023.12.1日経電子版)』を見ると、日本は、フランスや米国主導の石炭火力発電禁止の有志連合への参加を見送り、日本が優位にある脱炭素型石炭火力発電を世界に広げていこうとする姿勢が見られます。また、21ヶ国の「原発3倍拡大」宣言有志国に参加しました。日本政府は、不安定でコストの高い再生エネルギーの限界を認識し、バックアップ電源として不可欠な火力発電と原子力発電について、現実的な認識をし始めています。

 米・欧・日の脱炭素の動向を見てきましたが、経済安全保障や脱炭素の大義名分の下で、米欧日それぞれの産業・通商・技術政策に於いて、自国の産業の保護と育成を目指して、しのぎを削る戦いに突入したと言ってよいでしょう。中国もこの競争に参加してくるでしょう。これは、グローバリズム(ポスト冷戦時代)が終わり、新冷戦時代に突入と言ってもよいでしょう。

 さらに言えば、CO₂排出量の世界シェア30%越えと断トツで、2022年比でも+4.8%と、米欧の減少とはうらはらに、増加が見込まれる中国に対する「“脱炭素”の行方は“脱中国”」の時代ともいえます。

【ウクライナ侵略と台湾有事の行方】

 世界の政治・経済の不安定要因であるウクライナ侵略と台湾有事に影響を与えるロシアと中国の動向を、『論点20:切迫する台湾有事』、『論点21:習政権に米欧から「覇権主義国家」の烙印、「2035戦略」に黄信号』、『論点23:終わりが見えぬウクライナ侵攻、カギ握るプーチン体制の行方』から見てみましょう。

 台湾有事について、2023年9月訪問先のベトナムでの記者会見における、「習主席は経済危機への対応で手いっぱいで、台湾に侵攻する余裕はない」とのバイデンの発言を代表とする“侵攻の可能性は大きくない論”があります。一方、『中国が「ウクライナ侵攻により米軍の弾薬・砲弾類の在庫がかつてない低水準にある今、米国の台湾への武器供与が進み、台湾軍の戦闘能力が向上する前に、台湾侵攻に踏み切るのが上策」と判断し台湾侵攻に踏み切る』等の“侵攻ありうる論”も多いです。

 台湾有事については「起こりうる」「起こらない」どちらも可能性があります。「台湾有事は日本有事」の認識のもと、起こった場合の実相を見極め、事前の備えの対応をする時ではないでしょうか。

 ここで、バイデンの言う「中国の経済危機」について見てみましょう(論点21より)。習政権の中国は、インターナショナルなルールを守らない「覇権主義国家」の烙印を押され、世界の多くの国は中国と距離を置こうとしています。北京の街なかでは、商業広告が無くなり「習近平」のスローガンが目立つなど、活気がなくなっています。加えて不動産不況、対内投資の減少、地方政府・個人にまで至る債務問題など、悪材料ばかりです。この結果2017年の党大会で習主席が打ち出した2035年までにGDP・一人当たり所得の倍増を目標とする「2035戦略」は壁にぶつかっています。

 中国の戦略的パートナーシップ・ロシアの動向を見てみましょう(論点22より)。ロシアについては、ウクライナ侵略の動向が注目点です。ソ連のアフガニスタン侵攻によるソ連軍の死者は1万5000人に対し、ウクライナ侵略によるソ連軍の戦死者は最新情報では15万人という数字も流れています。1979~89年のアフガにスタン侵略の失敗による1991年のソ連崩壊を思い起こします。ロシア・ウクライナ戦争は膠着状態にあり、どちらかが勝利する兆候がないまま、当面、和平交渉は難しいでしょう。

 2024年の大統領選挙の日程も3月17日と決まり、プーチンの再選は確実視されていますが、ウクライナ侵略におけるロシア軍の死者数、高いインフレ率(卵・青果物+23%前年比)、若者・技術者の流出(80万人)、高い政策金利(15%)とルーブル安(1ドル100ルーブル:2023年11月は2022根4月と同レベルの安値)など不安材料が多い中、ロシア国民のウクライナ侵略に対する不満が募りつつあります。

 2024年は、専制国家と民主主義国家の間のブロック化が更に進行する中で、専制二大国家である中・露の不安定さがもたらすリスクを注視していく必要があります。

  • 2024年の企業経営のキーワードは“大転換”(むすび)

 2024年は、2019年~2023年の世界的コロナ禍、ウクライナ戦争、脱炭素プロパガンダ等を反映した「歴史の大転換」の年になるのではないでしょうか。

 この様な視点から、日本、世界のP・E・S・Tの動きを注視し、“アジャイル”に対応していく年ではないでしょうか。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

http://sakai-gm.jp/index.html

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私の本棚2024.1.23【図解】国境炭素調整措置(CBAM)とは

2024-01-22 21:45:21 | 経営コンサルタント

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