経営コンサルタントの知見

経営に役立つ知見をgoo blogで

「私の本棚2025.1.28」

2025-01-28 08:36:32 | 経営コンサルタント
  • 今日のおすすめ

 『日経大予測2025「これからの日本の論点」』

                                               (日本経済新聞社編 日経BP 日本経済新聞出版本部)

  • 2025年の「日本の論点」に注目してみよう(はじめに)

 紹介本は毎年日本経済新聞社から新年に向けて出版される恒例の本です。

 2025年版で留意して置きたい事は、2024年10月25日に発刊されており、11月5日に投開票された米大統領選挙におけるトランプ氏圧勝の事象が織り込まれていないことです。

 2025年1月20日にスタートする、トランプ政権の政策、つまりウクライナ戦争対応、中東戦争対応、気候変動対応、対中対応などを注視する必要があります。

 2025年版「日本の論点」は、「日本は現状維持すら危ういのか」「押さえておきたいビジネスの勘所」「世界を巻き込む米欧中露の対立」の3Chapter、22論点に亘って日本経済新聞の専門記者22人が2025年の予測を示しています。

 それでは22論点の中から、注目論点を、Chapterに沿って、次項で紹介します。

  • 2025年の注目論点

【日本のGDP、世界第5位に、覚醒なくして成長なし-論点6-】

 「ジャパン・アズ・ナンバーⅩ」という表記を最近見かけます。このⅩの推移を見てみましょう。Ⅹに「ワン」が入った時代は、1968年、当時の西ドイツをGDPで上回り、米に次ぐ世界第2位の経済大国に躍り出た頃です。

 1979年にエズラ・ヴォーゲルの著者『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(Japan as Number One: Lessons for America)が出版されました。そこでは、日本が1955年~1973年にかけ平均10%を超える経済成長を遂げた時代の経済的・社会的な成功を収めた要因を分析し、アメリカをはじめとする他国が学べる教訓を提示しています。

 その成功要因としてヴォーゲルが挙げているのは、教育制度(日本の教育水準の高さ、競争的な受験制度など)、官民協力(通商産業省と企業の連携)、企業文化(人間中心などの日本的経営による労働者の高いモチベーション)、社会的安定(良好な治安や強いコミュニティ意識)です。

 しかし、今の日本は、「ゆとり教育」、「日本企業より外国企業を利する経産省の脱炭素政策」、「『働き方改革』による働かない改革」、「日本人の仕事への熱意保有者の比率は5%と145カ国中最下位」、「日本の犯罪件数は、過去最低の2021年57万件が、22年60万件、23年70万件と20年振りに増加し治安が悪化」など、教育・産業政策・企業文化・社会的安定の全ての分野で、エズラ・ヴォ―ゲルの示した成功要因(上記)に逆行しているように思えます。この結果、一人当たりGDP世界ランキング(IMF)では、ピークは2位(2000年)でしたが、直近(2023年)では韓国にも抜かれ34位です。予測では、2024年には台湾にも抜かれます(日経2024.12.18電子版)。

 そのヴォーゲルは、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の出版から27年後の2006年11月11日の「週刊ダイヤモンド」で、失われた17年からの日本再興の要件として、個々人の仕事への熱意と、それをリードする、社会への真の責任意識を持ち、党派や利害関係を超越した、リーダーの出現を掲げます。(2024.2.21 DAIAMOND onlineの記事より)

 「論点6」は、この「Ⅹ」が、2010年には中国に抜かれ3位に、2023年にはドイツに抜かれ4位になり、更にこの先、2050年にはインドとインドネシアに抜かれ6位に、2075年にはパキスタン・エジプト・ブラジル・英国などに抜かれ12位になるとのゴールドマン・サックスの予想を引用し、『今こそ「政・官・民の覚醒」により「Ⅹ」を小さくする時』と主張します。

 2025年こそ、社会への真の責任意識を持ち、党派や利害関係を超越した、政・官・企業のリーダーが出現し、日本の社会・経済を覚醒させ、失われた30年から脱出する年となることを期待したいですね。

【会社脳が企業の競争力を左右、生成AIが企業経営を一変させる-論点11-】

 「論点11」は、次のような指摘をします。「2025年は生成AIを『試す』という段階を過ぎ、本格的に経営に『生かす』ための知恵を問われる年になる」と。

 この生成AIの象徴的な存在が、生成AIの一種である、LLM(Large Language Models-大規模言語モデル-)のオープンAI社のChatGPTです。2022年11月にプロトタイプを公開し、2か月で利用者が1億人に達しました。

 2024年5月のChatGPTのユーザーは23億人です。ChatGPTは膨大な学習データ・情報から最適なアウトプットを生成できる点が特徴であり、また、企業の独自のデータや知見をAPIで連携して活用することで、経験の浅い従業員でも、一定以上のアウトプットを作成できるようになります。この様な特徴を生かし、「業務自動化による人手不足の解消・コスト削減」「業務サポートによる品質・スピードの向上」「社内知見の共有・業務の標準化」「マーケティングの最適化・費用対効果向上」「顧客体験のパーソナライズ・自動化」「新規商品・サービスの創出」などの分野で活用することが可能です(AI総研H・Pより)。

 また、AppleとChatGPTの連携も注目されています。2024年6月Apple社はSiriとChatGPTを連動させた生成AI「アップル・インテリジェンス」を発表し、2024年10月からiPhone等のOSに組み込みます(日本語版は2025年以降)。

 ChatGPTなど(他にはGoogle Gemini、Perplexity、Microsoft Copilotなど)の生成AIに対する評価の一例をあげましょう。星野リゾートの星野代表は次のように評価します。「生成AIは、観光産業を変革する、嘗ての3つの変革(①周遊型から滞在型②インバウンド③スマートフォンでの顧客獲得などのIT化)に次ぐ4つ目の大きなチェンジとなるばかりでなく、生成AIとのブレーンストーミングにより、従業員の創造性を刺激する良きパートナーであり、人力による業務をAI化することで経営戦略にかかわる業務に従業員のエネルギーを振り向けることを可能にする」と。

 電子情報技術産業協会によれば、日本における生成AI市場の需要見通しを、2023年1,180億円、2025年6,879億円、2030年1兆7774億円(7年で15倍)と予測しています。

 また、「論点11」は、2025年以降、この生成AIの企業版LLM「会社脳」が広がる可能性を指摘します。具体例としてパナソニックホールディングの例を挙げます。パナソニックはグループ内の製品情報、技術情報などの社内データによるパナソニック専用のLLMを構築し、研究開発や設計・製造、営業などの多くの部門で社員が活用できる仕組みを目指します。つまり、世の中に存在するデータ全体を見ると、ChatGPT等のインターネット上のオープンデータによるLLMは20%に過ぎず、残りの80%は企業などの組織内にあります。2025年は、この残りの80%の生成AI化により、企業経営を一変させる時代と指摘します。「企業版LLM」に注目していきましょう。

【プーチンの逆襲、侵略戦争から外交戦へ-論点22-】

 「世界を巻き込む戦争の足音-論点2-」の中で次のように指摘します。「中露朝の枢軸を背景に、ウクライナ戦争を舞台に、欧州は準戦時状態に入り、中東では全面戦争の危機がくすぶり、アジア太平洋では朝鮮半島、東・南シナ海での緊張が高まり、世界を巻き込む戦争の足音に対峙している」と。

 また、「論点22」の「プーチンの逆襲、侵略戦争から外交戦へ」では、プーチンが目指す、「多極世界」外交政策による、「米一極世界」を突き崩す、新たな世界秩序の形成に焦点を当てています。

 論点22の記者は、プーチンの新たな世界秩序形成への外交戦略を「三層構造」戦略と定義しています。一層目は、ユーラシアを横断するような反米枢軸国(注1)、二層目は、ユーラシア大陸全体に新しい秩序を広げようと目する、上海協力機構-SCO-(注2)、三層目は、中南米の国々を巻き込んだ、よりグローバルな枠組みの拡大BRICS(注3)です。

 一方、ロシアの足元では、集団安全保障機構-CSTO-(注4)からは、アルメニアが離反し、ソ連崩壊後に結成した独立国家共同体-CIS-(注5)からは、2009年ジョージアが、2018年にはウクライナが脱退し、茲許、モルドバが離反の意向であり、カザフスタンはロシアとの距離を置きはじめており、逆風が吹いています。

 最近では、2024年12月8日、ロシアがバックアップしていた、54年続いた、シリアのアサド政権が崩壊しました。加えて、2024年12月27日には、CSTOのメンバーである、キルギス・ウズベキスタンの総延長523キロの巨大鉄道プロジェクトが、永年、ロシアが主導権を主張し「頓挫」していましたが、ロシアがウクライナ侵攻の影響で投資余力がなく、しぶしぶ中国主導を承認し、中国主導の下、着工しました(2025.1.9.JETRO記事)。この様に、ロシアはウクライナ侵攻の代償として、旧来の「勢力圏」を喪失しつつあります。(注6)

 記者は、『プーチンは、この逆風に負けず、これらの「三層構造」の結束を強め、反米を目指す、「多極世界」への世界戦略を諦めることはない』と指摘します。

 さて、このような流れの中での注目は、2025年1月20日にスタートするトランプ政権後の世界情勢の動向に注目です。

 ここで、論点2や論点22とは異なる、最近のネット上の情報を見てみましょう。ネット情報によれば、トランプ政権スタート後、「24時間以内」が「6か月以内」に後退したものの、合意内容は兎も角、ロシアとウクライナは停戦すると予測します。

 さらに、トランプは、ウクライナ停戦後には、お得意のディールで、ロシアに対する制裁を緩めることで、ロシアのイランに対する影響力を利用し、一方、イスラエルにはアメリカが影響を及ぼし、中東紛争を終結させると予測します。

 また、中東紛争の終結を予測してか、2024年12月、インドとUAEが会談し、2023年9月のG20ニューデリーサミットで、インド、米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、フランス、ドイツ、イタリア、欧州連合(EU)が参加を表明し、覚書に署名した、「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」プロジェクトが、一時中東紛争から関係国の協議が遅れていましたが、ここにきて、具体的推進で合意したのです(注7)。

 『ロシアの「足元」で吹く「逆風」』に加え「IMECプロジェクト」など、今後の地政学的変化は見逃せません。

 いずれにしても2025年の注目論点です。

 (注1)反米枢軸国:中露、イラン、ベラルーシ、北朝鮮の5ヶ国

 (注2)上海協力機構-SCO-:中露、インド、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、パキスタン、イラン、ベラルーシの10ヶ国

 (注3)拡大BRICS:中露、ブラジル、インド、南アフリカ、エジプト、イラン、エチオピア、アラブ首長国連邦、エチオピア、インドネシアの11か国から成る国際会議。更に、ベラルーシ、キューバ、ボリビア、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、タイ、ウガンダ、トルコ、アルジェリア、ベトナム、ナイジェリアなどが加盟希望。

 (注4)集団安全保障機構-CSTO-:ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6か国。2024年6月にアルメニアが脱退表明。

 (注5)独立国家共同体-CIS-:ロシア、ベラルーシ、モルドバ、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アゼルバイジャン、アルメニア、トルクメニスタンの10か国。CISは貿易・投資協定の側面があり、アルメニアはCSTO脱退表明後も留まる意向。

(注6)本欄の『ロシアの「足元」で吹く「逆風」』に登場した国々を、Google Map上〔図1〕に表示しました。〔図1〕は下記URLを参照ください。

         URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/c19c7b0fa3803bb0e1489a68c64d80ff

 (注7)IMEC(India-Middle East-Europe Economic Corridor:インド・中東・欧州経済回廊)のルート図は〔図2〕を参照。(詳細情報は1.14日経電子版)〔図2〕は下記URLを参照ください。

          URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/003373539c624c2db9b752ee887efa92

 

  • 2025年は変化の年(むすび)

 2025年は、生成AI、AI時代のエネルギー問題、中露vs欧米の関係などに於いて大きな変化が見込まれます。注目していきましょう。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm

  http://sakai-gm.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

私の本棚2025.1.28〔図2〕

2025-01-28 08:18:32 | 経営コンサルタント

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

私の本棚2025.1.28〔図1〕

2025-01-28 08:12:28 | 経営コンサルタント

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「私の本棚2024.12.24」

2024-12-23 20:46:42 | 経営コンサルタント

■ 今日のおすすめ

「日本はどこに向かおうとしているか

     -数字を正しく見ないと騙される!政府も財務省もマスコミもウソを言う!-」

                              (高橋洋一著 徳間書店)

■ 数理でFactを追求(はじめに)

 紹介本の著者のYou Tube「高橋洋一チャネル」の直近の登録者数は、120万人です。真面目な政治・経済の個人チャネルで登録者数100万人超えは稀有の存在です。その様な人気の源泉はどこにあるのでしょう。私見ですが、数理経済学者である著者の所見は、自身のその時その時のポジションに関係なく、数理に基づく真実・真理(Fact)を追究し続けていることです。

 その一例を、紹介本からご紹介しましょう。『今から30年ほど前(大蔵省理財局資金第一課資金企画室長のとき)に、・・・国の財政状況を正確に言うために、国のバランスシートを作らざるを得なくなった。その当時、それが出来るのは私に限られていたので、バランスシートを作ったら、それまで大蔵省が主張していた「借金が大きいから財政危機」という話はウソで、(負債以上の)資産があるので危機でないことがわかった。17年前に退官するまでは、対外的に黙っていたが、小泉政権と第一次安倍政権では、バランスシート分析で財政危機ではないと言い、それに基づく(積極財政)政策を実現してきた(紹介本P22,23)』の通り、著者は、当時の大蔵省の意向に反してでも、Factを追求し、そのFactを国・社会の発展のために、タイミングを狙いながら、生かして来たのです。

 それでは、次項で紹介本の注目記事をご紹介しましょう。

■ 「失われた30年」から脱却し、力強い明日を目指すには

【この30年、間違い続ける財務省と日銀】

 筆者の私は、「失われた30年」から脱却し、力強い明日の日本を築くため知見は何かを模索してきました。そこで出会ったのが紹介本です。紹介本の著者が「この30年、間違い続ける財務省と日銀」で指摘する間違いのアンチテーゼが、「失われた30年」から脱却する知見になると思い、著者の指摘する「財務省と日銀の間違い」に焦点を当ててみました。

 その前に「失われた30年」の定義をしておきましょう。「失われた30年」はバブル崩壊後の経済の長期停滞を指します。1989年12月29日(大納会)に、日経平均株価は38,915円87銭を付け、1990年1月から下がり続けます。この時がバブル崩壊と言われています。(2024年2月22日に1989年の大納会の史上最高値を更新(3万9098円68銭)。7月11日には4万2224円02銭をつけました。)

 著者は、バブル期(1987~1990年)の経済環境について次のように述べています。「実は、マクロ経済状況はよかった。インフレ率(コアcpi)は▼0.3~3.3、失業率は2~3%と申し分のないパーフォーマンスだ。株価と土地だけが異常な値上がりだったのである」と。著者はこの後に(1998年ごろ)ブリンストン大学に研究員として派遣されていた時、師であるペン・バーナンキ(ノーベル経済学者)に、係るケースへの対応策を聞いたところ、その答えは、「株などの資産価格だけ上昇しているとき必要なのは、資産価格上昇の原因の除去であり、一般物価や失業率に影響のある金融政策の出番ではない」でした。

 著者は、このバーナンキの答えを頭に置きながら「失われた30年」の原因を次のように指摘しています。『バブルは、証券会社の「財テク商品(営業特金)」と「金融機関の不動産融資」を規制すれば終わりだったにも拘らず、その後の緊縮財政と金融引き締めを行ったのがまずかった。さらにまずいのは、アベノミクスでその呪縛が一部解かれたが、いまだに緊縮財政が顕在している』と。

 「失われた30年」の原因である「まずさ・間違い」について、〈1〉「金融引き締めの問題点」、〈2〉「緊縮財政の問題点」について、その①「不適切なPB」、その②「過大な社会的割引率4%」の順に、詳しく見てみましょう。

 〈1〉まず、金融引き締めの問題点について触れてみましょう。

 著者の考えは、「マクロ経済のパーフォーマンスの良いときは引き締めをしてはならず、パーフォーマンスの悪いときは金融緩和をすべきことに加え、ビハインド・ザ・カーブ(政策を確実に行うためには、各種のデータが出そろうまで見極めて正しい選択を行う)で実施すべきで、アヘッド・オブ・ザ・カーブ(先手を打つ)による見切り発車は、間違った選択になる」です。

 バブル直後のマーフォーマンスの良い時にも拘わらず、バブル潰しのために、当時の三重野総裁は引き締めを行った。また、2008年のリーマンショックの時、先進国の中で唯一金融緩和をしなかった日銀(白川総裁時代)の罪は重い。デフレのA級戦犯は日銀、と著者は言います。

 一方、2013年、第二次安倍内閣下で着任した黒田総裁は、マネタリーベースを2年で2倍にする量的金融緩和政策を実施し(黒田政策について、当時のFRB議長のバーナンキは「不十分で中途半端である」と評した。バーナンキはデフレ脱却のため、米のマネタリーベースを約5倍にする大規模な緩和を実施した)、失業率の改善や実質賃金のプラス化などを図れたものの、デフレからの脱却はできないまま2023年4月植田総裁に引継ぎました。植田総裁は2024年3月「金利のある世界」を目指し、+0.1%(▼0.1~0⇒0~0.1)の利上げに踏み切りました。しかし、この時期、名目賃金が+1.9%に対し実質賃金は▼1.4%、GDPギャップが15兆円程度ある等を考えると、植田施策はアヘッド・オブ・ザ・カーブであり、著者は、見切り発車の落第と評価します。

 日本銀行は、「無謬性」(自分は正しい)の姿勢と、経済パーフォーマンスよりも(自分達の天下り先である)金融機関の経営重視姿勢からくる金融政策を改め、データに基づく金融政策に変えるべしというのが、著者の結論です。

 〈2〉つぎに、緊縮財政の問題点について触れてみましょう。

 著者は、過去30年の経済停滞要因を、デフレと、政府の過少投資としています。デフレの要因は金融政策ですが、過少投資の原因は、緊縮財政の結果としての、①不適切なPB(プライマリーバランス)と②過大な社会的割引率4%に問題があったとします。

 ①不適切なPBの背景は、財務省の大ウソである「日本の財政危機」に基づく、緊縮財政です。

 著者は、日本の財政状況は、2018年から始まったIMFのPSBS(Public Sector Balance Sheet)による、統合政府のネット資産により、正しく判断できるとします。

 つまり、連結(中央政府+地方政府+政府関係機関+中央銀行)ベースのネット資産(グロス資産-グロス負債)で判断すべきなのです。PSBSのネット資産算出の注目点は次の二つです。中央銀行のバランスシートの負債のうち、銀行券と当座預金(マネタリーベース、日銀は2024年3月末682兆円)対応分は、経済的な意味での負債性はないので差引かれます。また、中央銀行が保有する中央政府が発行した国債残高(日銀は2024年3月末590兆円)は、連結で、相殺されます。この結果日本の統合政府のネット資産はほぼゼロになります。外国為替資金特別会計の含み益(45兆円)を勘案すればプラスです。ネット資産ゼロの日本は、G7における財政状態の健全さでは、カナダに次ぐ2番目です。

 従って、著者は、中央政府の財政収支のPBではなく、統合政府の連結ネット資産のPBが正しいとします。建設国債で公共投資(道路など)をする場合、統合政府PBを基準とすればネット資産ゼロですので実施OK、中央政府の財政収支のPB基準では実施NOとなります。

 ②次に、過大な社会的割引率4%ですが、ゼロ金利時代に、割引率4%では、プロジェクトが成り立つわけがありません。著者は、適切な社会的割引率であったならば、G7各国と同レベルの成長を遂げたとの試算(JPタラレバ)をしています。「JPタラレバ」は(注1)の〔図1〕のP1の〈グラフ2〉をご覧ください。

 著者は、『失われた30年」から脱却し、力強い明日の日本を築くには、「中央政府の財政収支PB」及び「社会的割引率4%)」の政策を変えなるべし』と言います。

(注1)過少投資の一例として「各国公的資本形成の推移」及び「過少投資の原因は過大な社会的割引率」について、下記URL〔図1〕を参照下さい。

URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/e6b8ceee011f3a45c43ea5034803b926

(注2)“大ウソの『日本の財政危機』を検証する”“統計的には、統合政府PB(ネット資産)が正しい”について、下記URLの〔図2〕を参照下さい。

URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/be66ad71f864cd047d68b6222c462f17

【日経平均最高値更新はバブルか?】

 2024年2月22日、1989年の史上最高値を更新し、7月11日には4万2224円02銭をつけました。この高値はバブルでしょうか。著者は、理論株価(日経平均銘柄の経常収益)を大きく上回るのがバブルとします。バブル期の日経平均株価は、理論株価の2倍まで買われました。2010年前後の民主党政権時代には、過小評価のピークで、日経平均株価は理論株価の60%に止まりました。2012年、第二次安倍政権がスタートし、アベノミクス効果により過小評価が徐々に解消され、2020年には過小評価が解消されました。2024年7月11日の日経平均株価は理論株価と一致するレベルであり、バブルではないと、著者は言います。

(注3)「1960年~2022年の理論株価と日経平均株価の推移」は、下記URLの 〔図3〕を参照下さい。

URL:https://blog.goo.ne.jp/sakaigmo/e/44245aae39d0d9a3b292b91815de36b6

【その他の注目記事】

 字数の関係から注目記事のご紹介は以上としますが、『改めて言う、円安は日本経済に「悪影響」ではない』『日本は金融ハブの座を(香港から)奪う好機』などの記事も、新たなデータが加えられており、注目です。

■ 力強い明日を目指す、財政・金融政策とはこれ!(むすび)

 上記で「失われた30年」の原因の一部を見て来ました「失われた30年」を脱却するのは簡単ではなさそうです。力強い明日の実現に向けて、政界、官僚、マスコミ等が、ファクトに基づく正しい認識をし、力強い明日に向けて尽力することを期待したいですね。

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

 https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

 http://sakai-gm.jp/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

私の本棚2024.12.24〔図1〕

2024-12-23 20:38:05 | 経営コンサルタント

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする