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『日経大予測「2022これからの日本の論点」』
(編著:日本経済新聞社 発行:日本経済新聞出版)
- 2022年の初めにP・E・S・Tの論点を整理しておこう(はじめに)
私は、年初にPESTに関る本を読む事にしています(P:政治、E:経済、S:社会、T:技術)。それは予測される論点を整理し、企業経営における変化への対応力を高める必要に答えるためです。
紹介本「2022これからの日本の論点」は、日経の代表的コメンテーター、編集委員らベテラン専門記者22名が「日本経済はこれからどうなる」「日本企業はこれからどうなる」「世界はこれからどうなる」の3分野22論点を展開します。
紹介本を読んでの感想は、2022年は、コロナ後の世界、脱炭素の行方、米中分断など多くの問題を抱える、先が見えないVUCA(注1)の時代と言えましょう。その中で注目した視点を次項で見てみたいと思います。
(注1)「V・U・C・A」とは、「Volatile;変動、Uncertain;不確実、Complex;複雑、 Ambiguous;曖昧」を表します。
- 2022年の注目情報はこれ
【ルールを世界に売り込もう】
3分野22論点の中で、いま、日本・日本企業にとって最も重要な論点は「ルールを世界に売り込もう」ではないでしょうか。
この論点の冒頭で書かれている、三つの要約提言にポイントが集約されています。
「新しいルールが企業間競争の土俵を根底から変える」「技術的に甲乙つけがたくても、物語の発信力によって左右される」「倫理や人権を国際標準に取込む動きも。ルール形成の場に乗り込め」の三つです。
自動車産業の例で見てみましょう。欧州は「カーボン・フット・プリント(注2)」や「カーボンニュートラル」等の概念を打ち出し、新しいルールを確立し日本の自動車メーカーの優位を脅かし、「ディーゼル・スキャンダル」で一気にEVに舵を切ったVWなどの欧州自動車メーカーの優位を確立する戦略として打ち出したのです。
論点は、日本の自動車メーカーはこれからの競争に打ち勝つためには、『日本発の技術と共にルールを確立し、世界を動かすストーリー・テリング(物語を発信する)力をつけ実現すること』、『「日本の製品は、環境だけではなく倫理や人権問題を先取りし、世界を変えようとしている」といったイメージを形成し競争力をつけること』が必要条件と説きます。
EVは、原発停止(ドイツなど)や高コストの再生エネなど電源次第では必ずしも環境対策には繋がらないこと、環境ビジネス関係者がトクをし、コストを負担する自動車ユーザーが損をすること、雇用問題に悪影響を及ぼし且つ低所得者が車を購入できないという社会問題を含んでいること、蓄電池の原料についての人権問題の存在、等々多くの問題を抱えています。かかるEVの問題を考慮すると、日本のPHV車が優位となる可能性は十分あります。トヨタ自動車、マツダ、スバル、川崎重工業、ヤマハモーターなど5社の日本の自動車メーカーが共同開発する水素燃料車も期待ができます。
そこで、PHV車にしても、水素燃料車にしても日本の技術の優位性をルールとして確立し、世界に売り込んでいく事が重要です。同時に外交的に発信していく政治力も重要です。マスコミも社会的存在を目指すのであれば、発信力を高めるべきです。
(注2)「カーボン・フット・プリント」とは、直訳すると「炭素の足跡」。商品やサービスの原材料の調達から生産、流通を経て最後に廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したものです。
【加速する脱炭素、対応迫られるエネルギー戦略】
論点は、2021年10月22日閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」について、次のように解説します。『これまでの計画が数値を積み上げて作ったものに対し、第6次基本計画は温暖化ガスを46%削減の目標ありきで、そこから逆算して作られた。従って「実効性に疑問が残る」』と指摘します。また、「原発議論を先送りしており、エネルギー戦略として不透明」としています。さらに、審議委員の「リアリティーに欠け、禍根を残すのでは」との批判を引用しています。
なお、紹介本の論点に記述されている「基本計画の策定に当たり各電源のコストを計算し直した。事業用太陽光発電は8.2~11.8円/1KWで、11.7円以上となった原子力発電を初めて抜き、最も安価な電源となった」はミスリーディングな記載です。
バックアップ電源がない限り電源たり得ない太陽光電源の統合コストは、18.9円/1KWと電源の中で最も高いのです。太陽光を増やせば増やすほど国民・企業の負担が増えるという視点を欠いてはならないのです。因みに、太陽光が「最も安価」は7月12日に、太陽光が「最も高い」は8月3日に経産省から発表されています。この点について、日本のエネルギー・環境研究の第一人者、杉山大志氏は「亡国の第6次基本計画は見直すべし」と酷評しています。
2021年11月22日の日経朝刊は、世界の「脱炭素政策」の矛盾を次の記事に示します。『・・EU内部でも不満が噴き出す。「ユートピア的な幻想が我々を殺す」。石炭依存度の高い東欧では脱石炭政策への抗議が相次ぐ。・・ロシア産ガスを欧州へ運ぶパイプラインが通るベラルーシ。大統領のアレクサンドル・ルカシェンコは移民問題をめぐるEUの制裁方針を受けてこう凄んだ。「我々は欧州を暖めている。ガスの供給を止めたらどうなるだろうか」』
【コロナ後「勝ち組企業」の条件は「SATORI」】
論点は企業の勝ち残りの条件として『お上頼みをやめる』、『「アニマルスピリッツ」を取り戻す』、『株式市場から帰結する「SATORI(悟り)」』の三つを掲げます。
『お上頼みをやめる』の例として、2008年のリーマンショックから自力で復活した日立製作所と2015年に発覚した不正会計問題で損失隠ぺいが露呈し、経産省頼みから投資家の信頼を失いトップの退任に至り、更には分社化に至り改革・復活の機会を逃した東芝の例を挙げています。
『「アニマルスピリッツ」を取り戻す』の例として「破壊的な経営環境の変化(ディスラプション)」に対する企業幹部の‟乗り切る自信”についてのアンケートを紹介します。「自信あり」との回答率は中国50%、米国48%、日本24%と主要9カ国で日本は最低となっていると指摘します。「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ銘柄」の比率が45%と米国の3.8倍など様々な日本企業の低迷ぶりを示し、日本企業に対し「脅威」を「チャンス」として取り組むよう警告しています。
『株式市場から帰結する「SATORI(悟り)」』とは、日本の株式市場における、2019年末と2021年6月の時価総額のランキングを比較し、大きく伸びた企業の要因を「SATORI」に纏め示しています。
<コロナ禍で浮かび上がった勝ち組の条件「SATORI」>
Society(社会);ESGの概念をビジネスモデル化。
Agility(俊敏);失敗をすぐ認め次の手を打つ、朝令暮改ならぬ「朝礼朝改」。
Technology(技術);特定のドメインでの独占的地位を築く技術の事業化。
Overseas(海外);人口減少による日本市場を見据え、海外市場展開の実現。
Resilience(復元);コロナ等の逆風を跳ね返し成長した、復元・反発力。
Integration(融合);多くのM&AをPMIによる融合で成功させ、大きく成長。
(PMI:M&A後の統合プロセス。ポスト・マージャ―・インテグレーション)
- 2022年の企業経営は先手必勝(むすび)
2022年、VUCAの時代だからこそ来たる明日を予測し、来たる明日の課題を設定し、「分析(現状把握・分析)⇒検証(仮説立案・検証)⇒意思決定(アクションプラン策定)」の道筋で経営プラン2022を作成・実行しませんか。
そして論点にありましたAgilityとResilienceで勝ち組企業になりましょう。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。