- 今日のおすすめ
『「顧客消滅」時代のマーケティング―ファンから始まる「売れる仕組み」の作り方―』
(小阪 裕司著 PHPビジネス新書)
- コロナショックは来るべき未来に備えるチャンス(はじめに)
著者は、自身が運営する「ワクワク系マーケティング実践会」「オラクルひと・しくみ研究所(オラクルは“神託”の意)」を通じ、“人間が人間であることを生かし、企業を活かす”を理念とする“ワクワク系マーケティング”の実践を促進する活動をしています。(以下では“ワクワク系マーケティング”を“WWM”と呼称。)
紹介本は、「WWM実践会」所属の会員企業が“WWM”の実践によりコロナショックでも売り上げを伸ばす成果を実現出来ている事を示すと共に、“WWM”の実践知化・仕組み化を深化しています
それでは、コロナショックでも売り上げを伸ばした成功事例、コロナショックで発見した「売れる仕組み・実践知」を次項で見てみましょう。
- コロナショックの成功体験からコロナ後を考える
【‟WWM”の実践によりコロナショック下で成功した事例】
―コロナショック下の2020年4月に「前年比+150%」を達成した高級レストラン―
名古屋にあるコース料理専門の完全予約制レストランB店。Face Book等を通じ日頃から顧客と交流していました。2020年4月コロナショックで先々まで埋まっていた予約が一気に白紙になり、店主は「お客様は外食出来ないことにフラストレーションを溜めている筈」との思いに至りました。
店を閉めているいる期間にじっくりと時間をかけて開発したのが「3000円の海苔弁当」と「8000円の高級弁当」でした。直ちにFace Book等を通じ「究極の弁当を作ります」と宣言。すると顧客から大量の応援メッセージが寄せられました。更に顧客との交流の中で、常連の書家の直筆を弁当の包み紙に書いてもらいました。
こうして発売を始めると、爆発的な注文が入ったのです。終わってみれば4月の売り上げは「前年比+150%」になっていました。
―同じ商品、同じサービスを提供する10店舗の和菓子店でコロナショック下
売上が大きく伸びた5店舗と大きく減少した5店舗に分かれた不思議―
伊豆・伊東を中心に和菓子店10店舗を展開するI社。2020年4月突然「フローの蛇口」が閉められ、顧客が消滅。4月下旬には店舗を順次閉め、再び営業開始したのは5月中旬からだった。各店の営業を再開する中、社長のT氏は次のことに気が付きました。
売上の回復の早い5店舖と遅い5店舗にくっきりと分かれたのです。T社長は、回復の早い店の顧客は地元住民と当地に別荘をもつ住民、回復の遅い店の顧客は主に観光客であることに気づきました。意図したわけではなく『「図らずも」顧客をストックする』ことが出来ていた店は回復が早かったのです。
数字的には、2020年6月単月のストック型の5店舗の売上は、「お宅のあんこがどうしても食べたかった」等の声に象徴されるように、前年比154%に伸びました。一方フロー型の5店舗は前年比46%でした。Go Toキャンペーンで伊豆に観光客が戻ってきた同年6月~12月の売上の前年比は、ストック型店舗103%フロー型店舗76%でした。ストック型のビジネスモデルがビジネスの持続的成長に不可欠の要素であることが実証されています。
―コロナショック下でコロナショック前と同じ好調を続けているハンバーグ店―
愛知県蒲郡市ハンバーグレストランTは、3年間で1万人の「T大使」というファンクラブ会員を集めました。人口8万人の市で、1店舗しかないハンバーグレストランが集めた会員の凄さが判ります。会員を集める4年前、980円で前菜ビュフェやピザ、ドリンクバーをつけて夜遅くまで営業をしていました。お客さんはあまり来なかったそうです。
ファンクラブ会員制にしてからは、ほぼ同じ商品を2000円~3000円で提供しています。品数も営業時間も減らしました。にも拘らず、4年前と比べ売り上げも利益も大きく伸びました。加えてコロナショックでも、ショック前と比べ全く影響なく商売が出来ています。ハンバーグ店の店主Mさんは、『4年前は「疲れ果て愉しくなかった」、でも今は「仕事が愉しくて仕方がない」』と言っています。店主Mさんは何をしたのでしょう。
レストランTでは、「T大使」だけが使うことの出来る‟器や塩”が有ったり、「T検定」の制度を作り「ハンバーグ系の資格認定制度」に合格した人の名前を店内掲示したリ、顧客の調理法の提案を採用し人気の新しい商品を生み出したり、「T大使」だけの営業日を設け「ハンバーグイベント」を実施し大人気を得る等、「一見客」を「顧客」に育てる地道な行動を繰り返し、メニュー「共創」し、「心が豊かになる」「行きたくなる」‟場作り・時作り”をし、ファンを‟ファンダム(熱心なファンの集まり)”に創り上げていったのです。
【コロナで判った「売れる仕組み・実践知」とコトラー「マーケッティング4.0」との親和性】
それでは紹介本が挙げている「売れる仕組み・実践知」を見てみましょう。その前に、面白い発見をご紹介します。それは、WWMの仕組み・実践知とコトラーの「マーケティング4.0」理論の親和性です。
WWMの究極の目標の“ワクワク”に対し、コトラーの「マーケティング4.0」の究極の目標はファン化で、そのための重要なことは“Wow !”であるとしている事です。“Wow!(言葉に出来ないほどの喜び)”と“ワクワク”の親和性に驚きました。
両者の親和性から出発して更に追求して気付いたのは、「売れる仕組み・実践知」がコトラーの主張する究極の目標に至るマーケティング・ミックスの仕組みにぴったりとはまることです。
つまり、従来の「4P(Product・Price・Place・Promotion)」に替わる「マーケティング4.0」時代の『4C』の仕組にぴったり当てはまるのです。『4C』の仕組みとは次の『4つのC』です。
それでは、「売れる仕組み・実践知(☆印)」を『4つのC』に当てはめてみましたので、次の表記をご覧ください。
「製品・サービスは、顧客が製品開発に参加する『co-creation(共創)』で」
☆『顧客との「共創」』が持続性を高める。☆「自分たちの提供価値」はモノではなく『その先にある‟愉しい”‟美しい”‟アートな”「価値」』であることの確認と行動。☆売れ続けるには「ブーム型」ではなく「ワクワク型」で。
「価格は、市場の需要や顧客のニーズなどにより変動する『currency(通貨)』」
☆価格は「コストプラス」ではなく、提供価値から逆算し提供価値をいかに上げるか
を考える「バリュープラスアプローチ」で。
「流通チャネルは、顧客と接続性の高い『communal activation(共同活性化)』」
☆繋がりのある「顧客リスト」を生かす。☆フローではなく「ストックの顧客」に支えられている。☆ストックの顧客から深化した「ファンダム」は活性化のエネルギー。☆「リアル」「オンライン」「オフライン」全てのチャネルの連携した活用を。☆「価値創造型サプライチェーン」の構築を。
「プロモーションは、企業と顧客が能動的に商業的価値を獲得することが
期待される『conversation(カンバゼーション)』」
☆「心が豊かになる」「来たくなる」“時間作り”“場作り”‟雰囲気作り”を。☆もてなしの工夫で「気持ちの共有」を。☆「ラストワンマイル」を大切に。☆「感性で繋がる」が市場を育てる。
- コロナショックは人口減少時代の先駆け(むすび)
コロナショックで発見した‟ワクワク” “Wow !”マーケティングの仕組みは、これからの未来型マーケット、人口減少時代のマーケットに於いても有効と確信できます。
コロナショックに於ける経験を前向きに受け止め、更なる深化を図って行きましょう。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。